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彼がいた頃 作者:比呂

第10回   第九話
ねぇ 神さま




これもとうに決まっていた運命だったのかな











だとしたら
今のあたしも少しは報われる










忘れられない十七の夏も






























「京夏・・・」


ただ呆然と立ち尽くして、あたしたちを見つめる京夏がいた。


「なに、してるの?
好きってなに?健悟、里沙のこと好きなの?
一番はあたしじゃないの?」










けんちゃんは何も言わずにただ下を向いていた。



「京夏、ち、違うんだよ。
これは・・・。」







京夏が早足で歩いてきた。


そしてあたしをぶった。






「京夏っ!」

けんちゃんが京夏を抑える。



「あんたがそそのかしたんでしょ!!
健吾があんたなんか好きになるわけない!
健吾はあたしを好きなんだから!!!」








「京夏、もうやめろ。」

「健吾も、里沙の誘いになんか乗んないでよ!」






京夏がけんちゃんの手を引っ張って、階段を降りていく。



もう先なんて見えなかった。
















「待て京夏。」

「さっきの嘘だよね。
 里沙なんか好きじゃないよね。
 一番はあたしだよね。」



「・・・ごめんな、京夏。
 ほんとは優しいお前に、こんな風な言い方をさせる。
 全部、俺が悪い。」


「違うって言ってよ・・。
 あたしが好きって言ってよ・・・・。」


































屋上を吹く風に紛れてあたしも消え入りたかった。



頬がヒリヒリして少し痛む。





京夏の辛い思いが込められたこの痛みを


あたしは一生忘れないようにと

心に刻んで、遠い空に浮かぶ白い雲を見ていた


















教室に戻ると京夏がいた。

少し目を腫らして、一人窓際に佇んでいた。



声をかけづらかったけど
このまま距離を置いてもどうにもならないことくらいもう分かっていた。



「京夏。」

「・・・。」

「ごめんね。」

「そう思うなら返してよ。」

「え?」

「健悟を返してよ。」







涙を溜めた京夏が言う。







何も言えない。

この顔を見たら。







「痛かった?」

「ううん、大丈夫。」






あたしの頬に触れながら、京夏はごめんねと繰り返した。









「里沙、あたし健悟がいなきゃだめなの。
 お願い・・・里沙・・。」




「・・・うん。」

















あの時





どうして首を横に振れなかったんだろう。









自分の気持ちに嘘ばかりついて







大事な人を苦しめて












もう










自分が嫌いで











どうしようもなかったよ








 

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Novel Editor by BS CGI Rental
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