「おい! いつまでそうやってるつもりだよ!?」
「今日が終わるまで! 絶対に闘ったりなんかしないんだから!」
あたしは今、寮の部屋のトイレの中にこもっていた。 誰が来ようと、誰がなんと説得しようとも、絶対に出るもんか!
「もう放課後だぜ? 行かないとテリトリーも奪われるぞ?」
「いいもん! 闘うくらいだったら、テリトリーなんて要らない!」
さっきからハルがあたしを説得を試みているけど。 無駄だよ。絶対に出ないんだから。
「チッ、しゃーねえな。俺が一人で行ってくるよ」
そんなこと言って、あたしを引きずり出そうとしても意味ないからね! っていうか、支配者(ドミネーター)のあたしがいなくちゃ、人形(ドール)のハルは闘えないじゃない。
「そんなこと言ったって、あたしは行かないからね! ハルも、もう諦めなよ!」
そう言ってやる。 屋上で闘ってくれたハルには申し訳ないけど、あたしは闘わない。 だって、もう二度と人が傷つくのは見たくないから。あたしの周りの人が傷つくのはイヤだから。
そのまま、時間がすぎていった…。 ……………………………。 ……………………。 ……………。
あれ…? ハルの声が聞こえなくなった…。 まさか……本当に闘いに行ったなんて事はないよね…。 だって、ハルはあたしがいないと闘えないじゃない。あたしがお願いをしないと、力が出せないじゃない。
「……ハル?」
何も返ってこない。 どうしようかな…。なんか、心配になってきちゃった。 でも、もしここで出て、ハルが待ち伏せしてたなんて事だったら、あたしが格好悪いし…。
「本当に、闘いに行ったのかな…? でも……そんなことないよね…」
ケガするだけだもん。 力の出せない『ドール』が闘っても、勝てるわけないし。 そんな無意味なことをハルがやるとも思えないし…。
「うぅ…! なに悩んでるんだ、あたしは…」
自分の頭をコツンと叩いた。 悩んじゃいけない。あたしは闘わない。そう決めたんだから。 その時――。
耳をつんざくような轟音が聞こえてきた。
聞こえてきた場所は上――屋上のほうからだった。
「う、ウソでしょ…? ハルが一人で…?」
トイレのドアを開けて、外に出る。 闘いの場所に指定された屋上に目をやると、そこには大きな爆発が起こっていた。 そして、そこに見える一つの影。
ハルだ…!
「何で…!? 何で一人で闘ってるのよ…! どうして!?」
体が震えた。 どうして? 何で闘ってるの? あたしは、ただ誰かが傷つくのが怖くて、トイレに閉じこもって。 それで全部が終わると思ってた。でも、ハルは闘っている。たった一人で、闘ってる。
ハル…!!
□
「ハッ、ハッ…!」
やっべえ。 ドミネーターの力がなくても何とかやれるかなって思ってたけど…。 とんでもねえや。ホント、シャレになんねえ…。
「恩田 梅はどうしたんだい? このまま来なかったら、あんたは死ぬだけだよ」
確か名前は……池田 アスカって言ってたっけ。 この人、マジで強え。二年生って言ってたけど、たぶん三年生に引けをとらないんじゃねえかな…?
「行けっ! あたしの『ドール』!」
ドミネーターの力を受けてやがる…! あの『ドール』…! まだ強くなる気かよ…!?
「くそっ!」
逃げてちゃラチが明かねえ。 こっちから仕掛けるしか……方法はねえ!
「バカだね。ドミネーターがいない『ドール』なんて、ただの人間じゃないか」
力を受けたアスカの『ドール』が俺に向かってくる。 奴の力が直撃したら、たぶん死ぬだろうなぁ…。そしたら梅を呪ってやる…。
相手の『ドール』が俺に攻撃してきた。 敵から放たれる閃光が、俺に当たる。焼けるような熱さと、体が叫びだしそうな痛みが襲ってきた。
「ぐッ…! あああ!!」
痛ってえ…! マジで痛ってえよ! ちくしょう、俺は何もできないのかよ…!? 梅がいなくちゃ何もできない能無しなのかよ…!? 俺はあの時から、何も変わってねえのかよ…!!
「……惜しいね…」
アスカがそう呟いていたのを、俺の耳が聞いていた。
「あんたの『ドール』としてのランクはAに位置してる。ドミネーターさえいれば、あたしとも対等に張り合える力を持ってるのに…。惜しいね」
「へっ、うっせえよ。アンタにゃ関係ねえだろ…」
「そうだね、関係ない。だから、次の攻撃で終わらせてもらうよ」
くそ…。 もうダメだわ。力入れても体うごかねえし。それに頭もボーとしてきた。そろそろマジでヤベえな。
「終わりだ…!」
アスカの『ドール』が突っ込んできた。 もう逃げる力もねえし、もし逃げても策があるわけでもない。 お手上げだな…。俺もとうとうご臨終か。短い人生だったなぁ…。
「ハル!!」
……え? この声…。あいつの声か? 梅…。いや、それはないか。幻聴が聞こえるなんて、俺もヤキが回ったもんだ。
「ハル!! 負けないで! 闘って! 絶対に死なないで!!」
ドクン! 心臓が跳ね上がった。力が湧いてくる。これは、ドミネーターの力…! まさか本当に来てるのか…? あんなにイヤがってたのに…。無理しちゃって…。
「アイアイさー! ちゃんと見ててくれよ、梅!」
屋上の出入り口に目をやる。 そこには、やはり梅がいた。 絶体絶命の状況から、これで一気に盛り返せるぜ!
「いっくぜ! 俺は負けねえからな!!」
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