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ドール・バトラーズ 作者:フラン

第8回   一の巻 『ガラじゃないけど、あたしの暗い過去』












 闘いなんて、好きじゃない。
 むしろ好きな人のほうが少ないんじゃないかな…?
 だって傷つけ合うんだよ? 人と人が。なんでそんなことしなくちゃいけないの?

「あたし、闘いたくない…」

「おいおい、なに言ってるんだよ」

 ハルには言ってないから分からないかもしれないけど。
 あたしは、大切な人を亡くしてるんだ。
 小さい頃からずっと一緒に育ってきた人。あたしの、一つ上のお兄ちゃん。

 あたしが小学生の高学年の時。
 ちょっとしたことで、あたしはクラスの男子からイジメを受けていた。
 そんな時、いつもお兄ちゃんが助けてくれたんだ。

 そんなお兄ちゃんが…。
 あたしを守ろうとして、男の子五人とケンカをした。
 その子たちは遊びだったのかもしれない。でも、お兄ちゃんを突き飛ばして、お兄ちゃんはコンクリートの地面に頭から転んだ。

 人間は、あっけなく死んじゃうんだって、理解したんだ。

「闘いたくない…。やだよ…」

「らしくねえな。どうしたんだよ、梅」

「キミだって…! ハルだって闘ったら死んじゃうかもしれないんだよ…!?」

 ハルが驚いた顔であたしを見てる。
 それも仕方ないと思う。でも、闘いたくない。
 この前の闘いは、あたしの本意じゃなかった。勝手に吹っかけられて、仕方なくやってしまった闘いだった。

「俺が死ぬだぁ?」

「そうだよ…! 人なんて、コンクリートに頭をぶつけただけで死んじゃうんだよ…」

 もう人がいなくなるのは、イヤ…。
 それがあたしと親しい人ならなおさら。絶対にイヤ。

「あのなぁ、一つ言っておくぞ」

 そう言って、ハルがあたしの頭の上に手を置いた。
 なんだ? 馴れ馴れしいやつめ…。

「梅は昔に何かあったんだろ? それくらいは分かるよ。
 でもよ、それを俺に当てはめんなって。俺は普通の人間じゃないんだ。『ドール』なんだからよ」

 ……っ!
 あたしは、ただ心配してるだけなのに…!
 何で分かってくれないの…! 人を失う悲しみなんて、分からないくせに…!

「ま、心配すんなよ。死にゃあしねえって」

「……っ! いい加減なこと言わないでっ!」

 大声が出た。
 自分でもビックリするくらい、大きな声だった。
 それはハルも同じらしい。かなり驚いてるような顔をしていた。

「キミは知らないんだよ! 大切な人を失ったことがなくせに…!
 どれだけ望んでも、もう二度と会えない! そんな思いもしたことなくせに、知ったような口をださないでよ!!」

 ……吐き出した…。
 ずっと子供の頃から溜め続けてきた、あたしの奥底にある黒く歪んだ塊。
 それを、ぶちまけた。

「……」

 ……言い過ぎたかもしれない…。
 だって、ハルの顔……すごく悲しそうだから…。
 ちょっと……ううん、すごい自己嫌悪…。

「あ、ゴメ…。あたし、言い過ぎた…」

「……いや、俺も軽率すぎた。わりいな…。………でも」

 そのときのハルの顔は、今までになく悲しそうだった。
 何かを思い出して、それを悲しむような表情。
 あたしも、お兄ちゃんを思い出す時には、あんな顔をしているのだろうか…。

「俺も、大切な人がいなくなる悲しみってやつは、十二分に分かってるつもりだよ…」

 とても深い意味を持った言葉なのかもしれない。
 あんなに陽気なハルが、悲しみを負った表情を浮かべている。
 もしかしたら、あたしが知っているハルは、作られただけのハルなのかも知れない。

「……暗くなっちまったな。ま、闘うかそうでないかは、放課後までに決めとけよ」

 ……闘いたくない。
 それは今でも変わらない。
 どうすればいいんだろう。あたしは一体、どうすればいいんだろうか――?












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Novel Editor