闘いなんて、好きじゃない。 むしろ好きな人のほうが少ないんじゃないかな…? だって傷つけ合うんだよ? 人と人が。なんでそんなことしなくちゃいけないの?
「あたし、闘いたくない…」
「おいおい、なに言ってるんだよ」
ハルには言ってないから分からないかもしれないけど。 あたしは、大切な人を亡くしてるんだ。 小さい頃からずっと一緒に育ってきた人。あたしの、一つ上のお兄ちゃん。
あたしが小学生の高学年の時。 ちょっとしたことで、あたしはクラスの男子からイジメを受けていた。 そんな時、いつもお兄ちゃんが助けてくれたんだ。
そんなお兄ちゃんが…。 あたしを守ろうとして、男の子五人とケンカをした。 その子たちは遊びだったのかもしれない。でも、お兄ちゃんを突き飛ばして、お兄ちゃんはコンクリートの地面に頭から転んだ。
人間は、あっけなく死んじゃうんだって、理解したんだ。
「闘いたくない…。やだよ…」
「らしくねえな。どうしたんだよ、梅」
「キミだって…! ハルだって闘ったら死んじゃうかもしれないんだよ…!?」
ハルが驚いた顔であたしを見てる。 それも仕方ないと思う。でも、闘いたくない。 この前の闘いは、あたしの本意じゃなかった。勝手に吹っかけられて、仕方なくやってしまった闘いだった。
「俺が死ぬだぁ?」
「そうだよ…! 人なんて、コンクリートに頭をぶつけただけで死んじゃうんだよ…」
もう人がいなくなるのは、イヤ…。 それがあたしと親しい人ならなおさら。絶対にイヤ。
「あのなぁ、一つ言っておくぞ」
そう言って、ハルがあたしの頭の上に手を置いた。 なんだ? 馴れ馴れしいやつめ…。
「梅は昔に何かあったんだろ? それくらいは分かるよ。 でもよ、それを俺に当てはめんなって。俺は普通の人間じゃないんだ。『ドール』なんだからよ」
……っ! あたしは、ただ心配してるだけなのに…! 何で分かってくれないの…! 人を失う悲しみなんて、分からないくせに…!
「ま、心配すんなよ。死にゃあしねえって」
「……っ! いい加減なこと言わないでっ!」
大声が出た。 自分でもビックリするくらい、大きな声だった。 それはハルも同じらしい。かなり驚いてるような顔をしていた。
「キミは知らないんだよ! 大切な人を失ったことがなくせに…! どれだけ望んでも、もう二度と会えない! そんな思いもしたことなくせに、知ったような口をださないでよ!!」
……吐き出した…。 ずっと子供の頃から溜め続けてきた、あたしの奥底にある黒く歪んだ塊。 それを、ぶちまけた。
「……」
……言い過ぎたかもしれない…。 だって、ハルの顔……すごく悲しそうだから…。 ちょっと……ううん、すごい自己嫌悪…。
「あ、ゴメ…。あたし、言い過ぎた…」
「……いや、俺も軽率すぎた。わりいな…。………でも」
そのときのハルの顔は、今までになく悲しそうだった。 何かを思い出して、それを悲しむような表情。 あたしも、お兄ちゃんを思い出す時には、あんな顔をしているのだろうか…。
「俺も、大切な人がいなくなる悲しみってやつは、十二分に分かってるつもりだよ…」
とても深い意味を持った言葉なのかもしれない。 あんなに陽気なハルが、悲しみを負った表情を浮かべている。 もしかしたら、あたしが知っているハルは、作られただけのハルなのかも知れない。
「……暗くなっちまったな。ま、闘うかそうでないかは、放課後までに決めとけよ」
……闘いたくない。 それは今でも変わらない。 どうすればいいんだろう。あたしは一体、どうすればいいんだろうか――?
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