ホーリーメイデンズ2 第壱夜「復活のアヤカシ(その0)」 流離太 2007/03/02 21:40:15 ├2007年、冬の旭川。 流離太 2007/03/02 21:41:27 └次の日、冬雪は、カーテンの隙間から差し込... 流離太 2007/03/02 21:42:09
ホーリーメイデンズ2 第壱夜「復活のアヤカシ(その0)」 [返事を書く] | ||
――――声が聞こえる。 近いようで遠い、あいつの声が。 だけど、あいつにわたしの声は届かない。 触れられない。 なにもできない。 ……いやだ。 このままじゃ、消えちゃう。 まっくらな世界で、ひとりさみしく。 わたしを見て。 わたしの声を聞いて。 わたしを助けて。 わたしはここにいるよ? わたしは……わたしは―――― | ||
|
▼ Re: ホーリーメイデンズ2 第壱夜「復活のアヤカシ(その0)」 [返事を書く] | ||
2007年、冬の旭川。 時間は夕暮れ時。茜色の空を、漆黒のカーテンが覆い始めている。 道路脇に積み上げられた雪山。軒下にぶら下がるツララ。雪面に刻まれた、無数の足跡。 クリスマスのイルミネーションは、白いキャンバスをカラフルに彩っている。 「もう少しで、今年も終わりだね……」 眼鏡をかけた、大人しそうな少女は、デパート街を歩きながら、ぽつりと呟く。 年は中学生くらい。背中まである艶やかな黒髪を留めているのは、大きなリボン。膝丈まであるブラウンのコートからは、ベージュのズボンが顔を出している。 旭中学校三年生「碓氷冬雪」だ。 「あーあ、正月が過ぎれば受験かぁ――すっごい憂鬱なんだけど」 眼鏡少女の横で、同い年くらいの活発そうな女の子が、大きく溜息を吐く。ミルク色のダイヤモンドダストが、眼前に広がる。 クリーム色のコートにチェックのミニスカート。チョコレート色のポニーテールが、歩くたびにふわふわと揺れている。 冬雪の幼馴染にしてクラスメイトの「坂田夏月」である。 そう、私立か公立かの違いはあれども、来年から冬雪達は高校生。長いようで短かった中学校生活からも、卒業となる。 本当に、時が過ぎるというのは早い。今までのことが、昨日の起きたように感じられる。夏月との仲が、急激に進展したのも含めて。 ふと、手に、柔らかく、暖かな感触が伝わる。見れば、夏月が自分の手を握っている。 「さ、寒いでしょ? だから――さ」 夏月は、照れくさそうに言う。 思わず、冬雪はクスリと笑ってしまう。お姉さんぶってはいるけど、どこか幼さが残る態度に。 「ちょっと、なにがおかしいの?」 むくれた表情で、夏月は頬を膨らませる。やっぱり、かわいい。 「うぅん、なんでも?」 冬雪はとぼけ、夏月の手をそっと握り返す。体の芯が、ぽかぽかしてくる。 夏月を「かわいい」なんて思うことも、以前までは滅多になかった。ついていくだけで、精一杯だったから。 だけど、今の自分なら、毎日夏月のかわいさを――幼さを見つけられる。 ――もしかして、僕には、いいお姉ちゃんの資質があるのかも? なんちゃって。 そんなことを考えながら、冬雪は、夜道を歩いていくのだった。 | ||
|
▼ Re: 2007年、冬の旭川。 [返事を書く] | ||
次の日、冬雪は、カーテンの隙間から差し込む光によって、目を覚ます。 「んっ――うみゅぅ……」 ――もう朝か……。 冬雪は目をこすり、ボゥッと天井を見る。見慣れた木目が、瞳に映る。 机、椅子、箪笥、おやつ入れ。なにもかもがいつも通り。 だけど、何かが違う。目覚まし時計が鳴る前に起きるだなんて、いつもなら考えられない。 ―― 一体、何が………… 小首を傾け、目をくるくると動かしているうちに、冬雪は気づく。自分の寝ていた布団が、大きく盛り上がっている。まるで、誰かが寝ているよう。 ――……ゴクリ。 冬雪は、生唾を飲み込む。白く、ほっそりとした指先が、震える。 が、いつまでもこうしてはいられない。どうせ、タオルケットが一箇所にまとまっているだけ。そうだ、そうに違いない。 必死で自分に言い聞かせ、冬雪は、布団を―――― | ||
|