■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

ゆーかいはん 作者:マロニエ

第14回   ゆーかいはん(1)
「どうして犯人の名前がわかったんですか?」
 警視庁へ戻る途中の車の中で唯は桂木に訊ねた。唯は桂木に指示を受けて色々と仕事をこなしてきたが、その理由までは聞いていなかった。
「犯人との会話で、犯人と柊未冬に接点があった。それはわかっているな?」
「はい」
「そうなると問題は何処で柊未冬と接点があったかと言うことなんだが、一番簡単に思いつくことは何らかのことでもめた相手なのではないかと言うことだった。そこから考えていったんだ」
「でも、そんな人間はあの近所にいっぱいいますよ。それだけじゃ……」
「勿論、それだけじゃ特定はできないが、もう一つ手がかりがあった」
「もう一つ?」
「誘拐された宮園絵美はどうしてあそこまで犯人と親しげに接することができたと思う?」
「……わかりません」
「簡単だ。相手が被害者と親しくしている間柄だということだ。宮園絵美の周りで親しくしている人物と柊未冬との関係がある人物など相当数は絞られる。わかるだろ?」
 唯はしばらく考え込み、それからはっとした表情で桂木を見た。
「学校!」
「そういうことだ。以前に所轄の警察署で柊未冬が起こした傷害事件を覚えているな?」
「はい」
「被害届けを提出したのは笹田だった。被害届けを取り下げた日時を調べてみたら柊未冬が失踪する直前に取り下げられていた」
「じゃあ……」
「恐らく、その後で柊未冬は笹田によって殺されて何処かにその死体を隠されているのだろう」
「なるほど。でも、どうして柊未冬を殺したのでしょうか?」
「それは恐らく、柊未冬が握った秘密のせいだ」
「秘密?」
「ああ。後部座席に俺が持ってきた地図があるからそれを見ろ」
 桂木は唯にそう言い、結いは後部座席に置いてあったくしゃくしゃになっている地図を広げた。
「その赤い点が柊未冬がやったと思われる窃盗事件の現場だ」
「結構数が多いですね。柊未冬は窃盗の常習者だったようですね」
「ああ。点の位置をよく見てみろ。三週間前ぐらいの日付が書かれているところだ」
 地図の日付を頼りに三週間前ぐらいに起こった窃盗の場所はかなり近い場所で連続して起こっていた。
「一日に数件連続して起こっていますね」
「その場所、何処かに近いと思わないか?」
 桂木に言われて目を皿のようにして地図を見た。唯は地図を見ていくうちに桂木が何を言いたいのかわかった。
「芹沢トメの家……」
「芹沢と笹田は祖母と孫の関係だった。恐らく、柊未冬は窃盗であちこちの家を回っている時、笹田が死んだ芹沢トメの死体から両乳房を切り取っているところを見たんじゃないかと俺は思う」
「それをネタに笹田は柊未冬に脅されていた……ということですね」
「まあな」
 唯は大きくため息をついて地図を後部座席に戻した。
「それにしても、まさか女装しているなんて思いもしませんでした。よくわかりましたね?」
「そもそも俺達は声の感じと宮園絵美の言葉で犯人が女であると思い込んでいた。女だと思って捜していたから犯人が全然浮かび上がってこなかった。女と言うことを無視して考え直せばすぐに答えは見つかった」
「でも、教師が女装しているのに被害者は何にも不審なところを感じなかったのでしょうか?」
「相手が先生だと気づいていたら電話の時点で先生と言っているだろう。笹田は先生とお姉さんの二役をこなしていたんだろう。だから、誘拐だということを被害者に気づかせなかった」
「なるほど。あれだけ女らしくなっていれば気づかないかもしれませんね」
 唯は桂木の言葉に納得して頷いたが、桂木は説明しながらもあまり納得のいかないような顔をしていた。桂木の中にどうしてもわからないことが一つだけ存在した。
 ただそれが事件に大きく関係しているかと言われれば、そうであるとは言えず答えのわからない問題を一つだけ桂木はその胸の中に抱え込んだ。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections