――――人はいつか死ぬ
――――長く見積もっても人の寿命は百年前後
――――人の一生は短い
――――そして、それをよく知っているのもまた人だ
月のない夜、空は一面の漆黒に覆われる。闇は生きとし生きる者が生まれたときから付き合ってきた存在。 生物は光より闇と付き合っている割合が多い。生物は必ず眠る。眠りにつく時、必ず闇を自ら迎え入れる。そして、闇は人に安らぎを与える。 人の心は常に闇を恐れている。闇の中にある安らぎを人は見出せない。常に闇を恐れて暮らしている。闇を恐れるあまり、人は灯かりを生み出した。 灯かりはやがて多くの人々に伝わっていき、夜は常に灯かりに照らされるようになった。人は闇の恐怖から解放されると外敵からの恐怖に対して敏感になった。 灯かりから次々と新しいものが生み出されていった。闇を照らすことで、夜でも働くことが出来るようになり、人々の作業の効率は上がっていき、文明が発達していった。 文明を持ち、そこに住む人間の間に貧富の差が生まれるようになっていくと、人々は外敵ではなく、今度は種族間で争いをするようになった。数多くの集落が生まれ、その集落の王が存在し、他の集落を自分の領土にしようと戦争を繰り返した。 かつて、光を生み出した灯かりは戦いの道具として使われるようになった。灯かりは炎と呼ばれ、敵を、または敵国そのものを焼き尽くし、皮肉にもその炎は夜の闇を明々と照らしていた。 しかし、その闇を照らす炎は激しく燃え上がった後はすぐに消えてしまう。 人の一生はこの炎のように激しく……そして儚い。 闇はその儚い命の人間を見守り続けてきた。個々の命はあまりにも儚い人間は命を紡ぎ続けることで更なる文明の発達を実現してきた。 やがて、人は電気という新たな灯かりを生み出し、文明はそれに伴って更に加速的に発達していった。 文明の発達は生活を豊かにしていくと共に、争いの火も大きなものへと変えていった。より多くの人間の生命を奪う兵器の開発、人間の自由を奪う兵器など様々なものが作られた。 今日も何処かで兵器が人を襲い、家を焼く。 月のない夜、兵器が生み出した炎は闇を明々と照らしていた。 闇は意思なく燃える炎をじっと見つめていた。
――――炎は一瞬の激しさを見せ、また闇に融けるように消える
――――炎が消えた闇は静寂をもたらす
――――その静寂を乱すものは何もない
――――静寂は闇が奏でる静かなメロディー
――――闇は誰がために詠うのだろうか
|
|