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迷いの森 作者:Mr.瀧川

最終回   森の悪魔
どうして俺は迷ってしまったんだろうか?
いつも通る道、迷うはずがないのに・・・
 


ここは深い森の中、人々は「迷いの森」と呼んだ。
ふもとには小さな村がある、町からは遠くない、この森まで大人の足で半日程度だった。
この森では薬の材料になる薬草やキノコなどが豊富にある、村の人たちはそれを町の商人に売って生計を立てていた。
この森でしか取れない薬草もあり、高値で取引されていた、そのおかげで小さな村は潤っていた。
 この村の青年であるディークは今年で17になった。両親は小さいころに死んでしまった、村のはずれにある寺院で育てられた。
 ディークも例外ではなく、森に生えている薬草やキノコを売って暮らしていた。
 今日もいつものように朝早くからかごを背負って森に入った。
 なんてことはない、町の人間と一部の村人は「迷いの森」なんて恐れているけど、ただの森、別に狼や猪が出るわけでもない。それに俺は小さいころからずっとこの森を遊び場にして育ったんだ、迷うはずが無い。
・・・なんて思っていた。
いつもと変わらないはずだった。薬草を取り、かごがいっぱいになったので帰ろうとした。もと来た道をそのまま引き返した。
ところがいつまで立っても森の出口が見えない・・・そのうちどこへ向かって歩いているのかさえ判らなくなってしまった。
俺にできることといえばひたすら前に足を進める事だけだった。
・ ・・
しばらく歩くと小さな湖に出た。一度も来た事が無い場所だった。
「迷って奥に入り込んだかな・・・」
 思わずため息と共に独り言をはいてしまった。
 「取り合えず・・・」
 俺は水を水筒に詰めた。もって来た分はほとんどん無くなっていた。
 そして俺は湖畔に座り込んだ。
 どのくらいさまよったんだろうか・・・木々が生い茂る森の中では日光はあまり入って来ないので昼間でも薄暗い。
 そして正確な時間も方向も掴めない、ここが「迷いの森」たる由縁だった。
 「くそ!・・・」
 思わず石を掴んで茂みに投げ込んだ、そのときだった。
 「いてっ!」
 茂みの置くから声が聞こえた。
 「おい、誰かいるのか?」
 そう声をかけると茂みから何かの生き物が現れた。
 人間のようにも見える、二本の足で立っているが、背中に黒い羽が生えている、そして頭には角、鋭い牙、身体はさほど大きくは無い、子供だろうか、俺よりも一回りくらい小さいくらいだった。そして全身の肌が灰色をしていた、紛れも無くこの森に住む悪魔だった。
 話には聞いていたが見るのは初めてだ、ただ俺はあっけに取られていた。
 「おい、痛いだろ〜、せっかく気持ちよく昼寝してたのに〜」
 俺は言葉を返せなかった。
 「ん?人間か?珍しいな〜こんなところに」
 「お、お前はあ、悪魔か?」
 なんとなく分かっていたが聞かずにはいられなかった。
 「そだよ」
 俺はそのとき必死に恐怖と戦っていた、悪魔については本で読んだことがある、人を騙したり悪戯したり、恐ろしいものになると魂を食ってしまう・・・そんな事が書いてあった事を思い出してしまった。
 俺はいつも薬草を刈るときに使う鎌に手を伸ばした、気は抜けない。
 すると悪魔が話しかけてきた。
 「お前何しにこんなとこへ来たんだ?」
 「ま、迷ったんだ、そこの森で」
 へぇーと頷くと悪魔はおもむろに懐から小さいりんごを出した。
 「食うか?」
 悪魔はそのりんごを目の前に差し出した。
 俺は悪魔から差し出されたりんごを受け取った、正直腹が減っていたのでそのりんごをほおばった。
 「お前帰りたいか?」
 悪魔が俺に尋ねた、俺は小さく頷いた。
 「俺様はずっとこの森に住んでる、お前の何倍もだ、だからこの森のことはよ〜くしってる」
 悪魔はつづけた。
 「だから俺様は出口も知ってる。出口まで連れて行ったやってもいいよ」
「ほ、ほんとか?」
「ただし、条件がある」
俺はその条件をいくつも想像していた。
もしかしたら魂を食わせろとか、そんなことを言われるんじゃないなろうか?不安は高まる一方だった。
「その条件とはなんなんだ?」
「いいだろう、耳を貸してごらん」
そうすると悪魔は俺の耳元でささやいた。
「!?」
「別に悪い話じゃないだろ、どうするの?」
俺はすごく悩んだ、でもこのまま帰れなくなるのはいやだ、村に帰りたい、でも・・・
俺は日が沈むまで散々悩んだあげく「悪魔の条件」をのむことにした。



 夜が明けた、俺はまだ森にいる。
 日が暮れると危険だからといわれて悪魔の家に泊めてもらった。家といっても湖の近くにある洞窟の中だった。
 中は結構きれいで、なんと手作りのベットまであった。
 一人で住んでいるらしいけど、なぜかベットが二つあった、聞いてみるとたまに客がくるらしい、いったいどんな客が来るんだだろうか?悪魔の友達??気になったけどそれ以上は聞かなかった。
 俺はいつもの日課で日の出前には目が覚める、起き上がって隣のベットを見ると悪魔がすやすやと気持ちよさそうに寝ていた。
 昼間見たときは怖かったけどこうしてみると、どことなく愛嬌がある。
 しばらくすると朝日が昇ってきた、洞窟に光が差し込む。
 「う〜ん」
 どうやら悪魔も目覚めたようだ。
 「・・・う、もう起きてたの?早いな〜」
 まだ寝ぼけているんだろうか?眠そうな声をだしている。
 「俺、いつも朝早いからその習慣で」
 「偉いなお前、俺様朝苦手なんだよな〜・・・もうちょっと寝ていいか?」
 なんか思っていた感じの悪魔じゃないな。
 「別にいいけど」
 「じゃあ、おやすみん・・・」
 というとまた寝てしまった。結構よく寝るみたいだ、昨日も俺より早く寝てた、そういえば俺と会うまでは昼寝してたっていってたな、こいつ一日どのくらい寝るんだろうかな?
 俺は取り合えず出かける準備をした。
 準備が終わるころに悪魔が起きてきた。
 「おはよん、わあぁ〜あ」
 大きな欠伸をした。
 「ちょっとまってろよ、いま準備してくるから」
 そう言うと悪魔は洞窟の奥に入っていった。
 しばらくすると大きな荷物をもって現れた。
 「よ〜しいこうか?」
 「うん」
 そして洞窟を後にした。



 「こっちであってるのか?」
 悪魔と歩き出してしばらくすると急な坂がつづいた、たぶん山を登っているんだと思う。
 「大丈夫だって、こっちであってるよ」
 ちょっと不安だが悪魔についていくしかなかった。
 しばらく歩くと森がひらけた。どうやら山の頂上に着いたようだ。
 「ちょっとじっとしててね、暴れるなよ」
 そういうと悪魔はいきなり俺の後ろに立って俺を後ろから抱きかかえた。
 「え!?なにを・・・」
 俺は一瞬パニックになった。すると後ろから。
 「いくよ、しっかりつかまといてよ」
 そういうとなんと悪魔が俺を抱きかかえたまま崖の方へ走っていった。
 「ちょ、まてって!そっち崖だぞ!」
 「まあ見てなって」
 刹那悪魔は崖に飛び込んだ!!
 「わあぁぁぁ!!!!」
 落ちる!!俺は目をつむったままただ大声でわめいていた。
 「大丈夫だって、目を開けてごらん」
 そういわれて恐る恐る目を開けてみた。
 「う、浮いてる?え?飛んでる!?」
 「俺様が飛んでる」
 悪魔の方を見上げると大きな黒い翼で羽ばたきながら大空を飛んでいた。
 空の上から眺める景色は今までに見たことの無い神秘的な世界だった。
 「わお〜!!ずごい!本当に飛んでる!」
 初めて見る光景に俺ははしゃいでいた。
 「どうだ?上から見る景色は?」
 「最高!こんなの初めてだよ!」
 「このまま森の出口に行くからな、しっかり捕まっとけよ〜」
 「分かった」
 俺たちは存分に空中散歩を堪能してから森の出口へと向かった。




 「ありがとう、楽しかったよ」
 悪魔は約束通り俺を出口まで連れて行ってくれた。
 「じゃあ約束通り、ここからは俺を町まで案内してくれよ」
 悪魔はあの時耳元でこう囁いた。
    
    俺様は森のことは誰よりも詳しい、
    けど、人間会にあまり行ったことがない、だから人間の町に俺様を連れて行っ    てくれ、一度見てみたいんだ。

 俺は悩んだ、もしは町中を悪魔が歩いたらどうなるか・・・みんな恐怖するだろうし、悪魔をよく思っている人はあまりいないはずだ
だから悪魔には人間に変装してもらうことにした、そのままでは危険が多すぎる。
 「わかってるよ、じゃあまず俺の家に来て、そこで着替えてからだよ」
 「分かった」
 悪魔を村の人にばれないように家へ連れて行った、そして俺の服を貸してやった。ちょっと大きかったけど、羽とか角とかある分丁度うまく隠せた。
 「よし、完璧!絶対ばれない」
 悪魔は着慣れない様子だった。
 「動きにくいな〜こんな窮屈な物きているのか人間は」
 「すぐになれるよ、じゃあ約束通り案内するからついてきてよ」
 「わかった」
 まず町まで歩いた・・・のではなくばれないように悪魔に運んでもらった。
 歩けば半日かかる距離があっという間に目的地に到着した。
 ここはレリック、大陸の西方にあたる。このあたりでは一番大きな都市になる。
 町の中央に大きな城が建っている、レリック城だ。
 この町はレリック城とその城下町でできている、旅人や商人の出入りも多かった。
 この町を治めるのがレリック王、町の名前も王の名前からとられた。
 レリック王は人がいい事でよく知られていた、新しい物好きで民衆にも好かれる人物だった。
 「でっけ〜!!すごいな!これ!!」
 悪魔が見るものすべてが始めてのものだった。はじゃぐ悪魔の姿をみていると、大して人間と変わらないかな?なんて思ったりもする。
 「お、なんだあれ?な、あっちいこうよ」
 子供のように俺の裾を引っ張る。
 「あんまりはしゃぐなよ、はぐれたら困るから」
 そういいながら子供のように振舞う悪魔と一緒に町を散策して歩いた。
 しばらく歩くと悪魔がメモのような物をとりだした。
 「なあ、これどこかわかるか?」
 悪魔が取り出したメモには住所らしいものがかかれていた。
 「これどうしたんだ?」
 「たまにな、俺様の所に訪ねてくる奴がいるんだけどな、そいつが住んでるとこなんだって、俺様字読めないから」
 「そうなんだ、えーと」
 メモを見るとその住所はどうやらこの町だった。
 「結構ちかいな、いってみる?」
 「行く!」
 俺もこいつを訪ねてくる客を見てみたいと思った、けど町に住んでいるって事は人間?
 住所を頼りに探していると一軒の古い洋館にたどり着いた。
 「ここ・・・みたいだな」
 「ほんとか?入ろう!」
 いきなり駆け込もうとする悪魔を俺は制止した。
 「なんでとめるんだよ〜」
 「ちょっとまてよ、こんな大きな家だぞ、かなり身分の高い人がすんでるんだ、間違いじゃ・・・」
 といくらメモを見ても住所はここをさしている。
 しばらく考え込んでいると後ろから・・・
 「何しているのかね?」
 びっくりして振り向くと後ろには初老の紳士が立っていた。
 「あ、あのこの住所なんですけどご存じないですか?」
 初老の紳士はメモをじっと見てこう答えた。
 「ここですよ、私の家に何か御用ですか?」
 どうやらこの洋館の主はこの紳士のようだ。
 すると悪魔が紳士に話かけた。
 「ひさしぶりじゃん、なぁー俺様だよ」
 そういうと悪魔が帽子を脱ぎ出した、やばい!こいつが悪魔だって事がばれてしまう!そうなればパニックになるかもしれない、そうおもって悪魔に帽子をいそいで着せなおした。
 「はて、もしかしてあの森の悪魔くんですかな?」
 「そうだよ、俺様〜」
え?知り合い?



 よっぽどお金持ちなんだろうか、すごい調度品がずらりと並んでいる、高そうな絵画に壷、一番奥にある部屋に案内された。
出してもらったお茶を飲みながら今までの経緯をこの初老の紳士に話した。
 この紳士の名前はジョセフさん、こいつはジージと呼んでいた。
 「ほほぅ、そうでしたか、あの森でお知り合いにで、悪魔くんはわざわざ私に会いにきてくれたんですね」
 俺は聞いてみた。
「あの、どういった知り合いなんですか?」
 「いや〜、お恥ずかしい話なんですが、私の持病の腰痛に効く薬草はあの湖周辺にしか生息してないんですよ、私がまだもう少し若かったころそこにとりに行ったんですけどね、途中で迷ってしまいまして・・・」
 「地元の俺でも入ったことなかったのによく行きましたね?」
 「そうですね、まだ若かったんでしょうね、そこでこの悪魔くんと出会って一晩とめてもらってふもとの村まで送ってもらったんですよ、それからちょくちょくこちらから尋ねるようになりまして」
 ということらしい、悪魔はお茶と一緒にだしてもらったケーキに夢中だった。
 「そうだったんですか」
 「まさか悪魔くんからたずねてきてくれるとは、嬉しいですね」
 ジョセフさんはとてもうれしそうだった。
 「ところでこれからどうしますか?もう日もくれますし、泊まっていかれたらどうですか?お連れさんも」
 「泊まる〜」
 こいつは即答した。
 「俺もいいんですか?」
 「はい、もちろん」
 そして俺たちはここに泊めてもらうことになった。



 

 「やはり帰るんですか?」
 ジョセフさんはこいつが帰るのが寂しいらしい、こいつのことが孫のように可愛いらしい。
 「どーしようかな・・・」
 悪魔はすこし悩んでいるみたいだった。
 ジョセフさんはここに残ってほしいみたいだ、俺もそうこいつに進めた。
 「うーん、でもやっぱ帰るよ、またあの辺りで迷う奴もいるだろうし」
 「そうですか・・・残念です」
 ジョセフさんはしょぼんとしたけど、こいつがまた来るからというと元気を取り戻したようだった。
 そして俺たちは町を後にした。
 「あそこにいたほうがよかったんじゃないか?」
 俺は本当にそう思っていた。うまいものは食えるし、きっといい扱いをしてくれる。でもこいつの考えは変わらなかった。
 「だって、ジージは好きだけどな・・・一緒にいたいけどな・・・でも俺様の家はあそこだから・・・」
 こいつも辛いのかもしれない、そう思った。 
 帰りはゆっくり歩いて帰った。
 そして森の入り口までやってきた。
 「ありがとうな、俺様楽しかった」
 「よかったな」 
 やはりちょっと落ち込んでいるんだろうかな?表情がさえない。
 「また遊びに行くから暗い顔するなよ」
 「ほんとか?また来る?」
 「ああ、そしてまたジョセフさんに一緒に会いに行こうな」
 「うん!そうだな!じゃあ俺様帰るわ!」
 元気を取り戻して帰るこいつの後ろ姿をおれは日がくれるまで見守っていた。
 「さあ、そろそろ俺も帰ろう」
 なんか・・・そう晴れ晴れとした気分だった。そして楽しかった。
 「そういえばあいつの名前聞いてなかったな?」
 ふっとおもったけど・・・まあいいや今度あった時に聞くことにしよう。
 そして俺は家路についた。
 空は夕日に赤く染まっていた。


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Novel Editor by BS CGI Rental
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