4月21日、日曜日。 私たちは映画を見に行こうと約束して、11時に高プラの前で待ち合わせした。 「何が見たいですか?」 私が尋ねると、少し迷ってから「ベイブ」と言った。 ちょうどすぐ上映時間で、私たちは慌てて中に入った。 1時過ぎに終わって、映画の感想を語り合いながら、おなかすいたねと言い合って、「Tea−L」に行くことにした。 「このあと山形屋に付き合ってもらえますか?」 「いいよ」 「山形屋でいろいろ見てまわるの。買わないけど、買うならどれがいいかとかアドバイスしてね」 私がそう言うと、俊一朗さまはニッコリ笑ってうなづいた。 「アニエスbは着ないんですか?」 アニエスbのある入口から入って店を通り過ぎながらそう尋ねると「う〜ん着ないねぇ」俊一朗さまは少し考えるようにそう言った。 いろんなものを順番に見てまわって、お互いにこの中でだったらどれを選ぶ?と聞き合って意見を交換した。 香水の匂いもひとつひとつ確かめて、どれが好みかと言うことも語り合った。 「私の一番好きな匂いはね、クリスチャンディオールのディオリッシモなの」 私はこっちこっちと、ディオールまで俊一朗さまの腕を引っ張った。 ディオリッシモをシュッと紙にひと吹きして俊一朗さまに渡した。 「どうですか?」 「うん、そうだね、いいんじゃない?」 「前に友達が2万円するほうの香水を持ってたんだけど、そっちのほうはもっといい匂いだったような気がするの。いつか欲しいとは思ってるんだけど、なかなか買えないですよねー」 私はそう言ってその場を離れて、アクセサリーコーナーへ向かった。 「男の人とアクセサリー見てまわるのって夢だったんです。モスキーノやソニアリキエルのアクセサリー見ながら、いつも彼氏が出来たら買ってもらいたいなぁって思ってたの。なんかプレゼントの定番じゃないですか、このへんのブランドって」 「そうだね」 「でも、私が彼氏に買ってもらうアクセサリーは4℃のって決めてるんです」 「どうして?」 「んーなんとなく、4℃がかっこいいかなーと思って」 「4℃はどこにあるの?」 「こっちこっち」 私はまた俊一朗さまの腕を引っ張った。 4℃のコーナーに行くと、綺麗なガラスケースの中に素敵なアクセサリーがたくさんディスプレイされていた。 「この中ではどれがいと思ってるの?」 私はまえから目をつけてあったアクセサリーのところに俊一朗さまを呼んだ。 「これ、かわいいと思いません?」 「うん、かわいいね」 ゴールドのイルカが小さなパールを抱えていて、ゴールドの細いチェーンが2重に細く重なりあっているネックレスを指差した。 「すみません、これ見せてもらえますか?」 俊一朗さまが店員にそう言った。 ケースから取り出すと、俊一朗さまがそれを受け取って、私の胸元にあててみた。 「つけてみてもかまいませんか?」 「どうぞ」 店員にそう言われるかいわれないかのうちに、俊一朗さまの指先が私の首筋にふわっと触れた。 「似合ってるよ」 「ホント?やっぱりかわいいいよねー」 動揺を隠すように鏡を覗き込みながら、私は突然の出来事にドキドキしていた。 ネックレスをはずして店員に渡すと、 「すみません、それ包んでください」 すかさず俊一朗さまがそう言った。 「えっ?」 私が驚いて俊一朗さまを見ると 「俺からのプレゼント」 そう言ってニッコリ笑った。 「でも・・・」 「彼氏が出来たら買ってもらいたかったんでしょ?」 俊一朗さまはもう一度ニコッと微笑んだ。 店員から受け取った箱をポンと手渡されて、私たちは歩き出した。 「本当にありがとうございます。一生の宝物にします」 私は興奮して、何度も何度も御礼を言った。 歩きながら包みを開けて、ネックレスをつけてみると、心地良い風に吹かれて、首元でサラサラと幸せの音をたてた。
次の土曜日、私たちはご飯を食べに行った後、夜景を見に行くことにした。 「今夜は知ってる限りの夜景を見に行こうか?」 桜ヶ丘にある夜景の見える洋風居酒屋「どんぱ」でピザを食べながら俊一朗さまがそう提案した。 私は興奮して賛成した。 「松嶋はどこの夜景を知ってるの?」 「城山と、長島美術館と、川辺峠と、国分のテクノパークと城山公園でしょ、それから・・・」 私は知ってる限りの夜景の名所を挙げた。 「じゃあ、そこに全部行こう」 「えーっでも、そんなにたくさん行けるかなぁ?」 「大丈夫。夜明けまでにはまだたっぷり時間あるよ」 俊一朗さまにいたずらっぽくそう言われて、私はワクワクしてきた。 「南のほうから下ってこよう」 どんぱを出て、私たちはさっそく魚見岳へ向かった。 魚見岳から川辺峠に行って、長島美術館、城山、国分へと向かった。 すべての夜景がキラキラとまぶしく美しく、この幸せな気持ちと重なり合って言いようのない至福感に包まれた。 何かしらの思い出を秘めていた夜景が、今全てを消去して、俊一朗さまだけの思い出となった。 「俊一朗さま、もうひとつ究極の、私の中で大切に大切にしまわれていた夜景があるんですけど、そこはあまりにも特別なので、後日改めて連れてってくださいませんか。連れてって欲しい日も決めてあるんです」 「いつ?」 「5月5日」 約束の1ヶ月が終わってしまう前の夜。 俊一朗さまはそれを察したかのように、優しくうなづいた。
日曜日は12時に迎えに来てくれて、そのまま「ホルト」でランチを食べた。 少しだけ展望台で昼間の景色を見ながら話をして、天文館に行った。 今日もあてもなくブラブラと歩いて、目についた店にどんどん入って、いろんなものを見てまわった。 「ここ、私がよく服を買うところなんです。私が持ってる服って、ほとんどここのなんですよ」 天文館のアーケードをまっすぐ通り抜けて、「ルーニィー」の前を通りかかったとき、私はそう説明した。 今日もウインドウには素敵なワンピースが飾ってある。 「このワンピースかわいいと思いません?すっごく私好み」 「うん、いいんじゃない?あの中に掛かってるニットのスーツもいいと思うよ」 「あ、ほんとだ」 私は店の中を覗き込んだ。 「入ってみれば?」 「いいの?」 私たちは店の中に入った。 「あっ、こんにちわ〜」 私の大好きな福田さんが私を見つけてきてくれた。 「まぁ、めずらしく松嶋さん、今日は男の方と一緒なんですねー」 福田さんが冗談っぽくそう言ったので 「私の彼氏なんです〜」 私も冗談っぽく返した。 「あっそうだ、春物の服が入ったんだけど、見てみません?」 春物のコーナーに案内されて、私が見ていると 「彼氏さんは松嶋さんにどの服が似合うと思います〜?」 すかさず福田さんにそう言われた。 俊一朗さまは腕を後ろに組んでゆったりと立って微笑みながら、うーんと考え込んでいた。 「わっ、松嶋さん、すごく素敵な方と一緒ですね〜」 外から店長さんが帰ってきて、いつものように大げさな声でそう言った。 「松嶋さんの彼氏なんですって」 福田さんが説明する。 「へぇーそうなんだ〜。さすが彼氏さんも松嶋さんと同じでおしゃれさんですね〜」 「外にあるあのワンピースかわいいですね」 「あー、うん、松嶋さんが好きそう」 福田さんがそう言うと 「うーん、似合いそう!」 後ろから店長がそう言った。 「着てみたらどうですか?試着して、彼氏さんに見てもらったら?」 「いや〜、でも〜」 着てみたい気持ちはあったけど、俊一朗さまと一緒だから・・・とためらって俊一朗さまのほうを見た。 「着てみたらいいよ」 にっこり笑ってそう言われて、試着してみることにした。 「似合う〜〜」 試着室から出てくると、店長が真っ先に褒めたたえた。 福田さんも冷静にコメントしてくれて、俊一朗さまも似合うんじゃないと言ってくれた。 「ねー、松嶋さんはこの手のワンピース似合いますよねー」 店長が俊一朗さまにそう言った。 「ホントに似合う?」 私がそう尋ねると 「うん、似合ってる」 俊一朗さまは微笑んでうなづいた。 「う〜ん、また欲しくなってきちゃった。試着すると必ず欲しくなるの」 私は鏡の前で横を向いたり後姿を見たりして悩んだ。 「買ってあげるよ」 「えっ?」 私は驚いて、ニコニコ笑ってそう言う俊一朗さまの顔をじっと見つめた。 「うわ〜、よかったですね〜、松嶋さん」 無邪気に福田さんにそう言われて、私は何と言おうかと迷った。 「いいなぁ、松嶋さん、早く着替えてこないと〜」 また福田さんにそう言われて、私はもう一度俊一朗さまを見た。 「早く着替えておいで」 俊一朗さまにそう言われて、 「いいんですか?」 私は窺うように尋ねた。 再び俊一朗さまにニッコリうなづかれて、私はすごくうれしくなった。
「私も俊一朗さまに何かプレゼントしたいんですけど、何がいいですか?」 「えっ、いいよ」 ルーニーィを出てブラブラ歩きながら私は思いついてそう言った。 「だって、私ばっかりもらってますよ〜。私も俊一朗さまにプレゼントしたいんです。靴なんてどうですか?」 「靴ねぇ・・・」 俊一朗さまは立ち止まって深く考え込んだ。 「そうだ」 突然パチンと手をたたく。 「2人でおそろいの時計を買おうか。おそろいのスウォッチを買おう」 「おそろいのですか?」 おそろいというのがうれしくて、私は目を輝かせた。 「そう、おそろいのを買って、俺がロスに帰るまでは、交換してはめとくの」 「すごいっ、それいい!!」 私はものすごくうれしくて、周りをぴょんぴょん跳びはねて喜んだ。 「じゃあ、これからたっくさん店まわるよ。覚悟しなさい」 「ハイッ!」 俊一朗さまにいたずらっぽくそう言われて、私は元気よく返事した。 何軒店を行ったり来たりしただろう。 たくさんのお店をまわって、2人で意見を交換し合って、とてもいいものを見つけた。 シルバーとゴールドのペアースウォッチ。 男物がシルバーで、女物がゴールドのすごくおしゃれな時計。 「じゃあ、俺がこれを買ってくるから、松嶋はこれを買っておいで」 俊一朗さまが、お互いのをそれぞれ買うようにと言った。 私は俊一朗さまへのシルバーのスウォッチを手にして少しためらっていた。 「これ、たったの6500円しかしないから、他にも何か選んでください」 私がそう言うと 「金額じゃないの」 そう言って俊一朗さまは優しいまなざしで私を見て笑って、頭をぽんとたたいた。 「ほら、早く買っておいで」 俊一朗さまに背中を押されて、私はレジに並んだ。 私たちはお互いの包みを持ったまま外に出た。 「ハイ、プレゼント」 俊一朗さまがポケットから箱を取り出して渡してくれた。 私も慌てて差し出す。 「おっ、かっこいいじゃん!」 すばやく包みを破って、4本指に通してクルクル回して陽にかざしながらそう言った。 そして、すばやく時計をはめた。 「今日1日は自分のをはめて気をためといて、明日になったら交換しようね」 そう言って、俊一朗さまは私を見てニッコリ笑った。 「ほら、松嶋も早くはめないと」 俊一朗さまに見とれていた私は、慌てて時計をはめた。 「俊一朗さまの腕見せて」 私は自分の腕と並べて、ニンマリ笑った。 「これ、かっこいいね」 「2人で選んだからね」 私はとってもうれしくて、何度も何度も時計を見た。
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