次の日の夜、私は自分の部屋から、凌ちゃんの携帯を鳴らした。 「はい、石崎です」 凌ちゃんの硬い声が聞こえてきて、少しおかしくなりながら、自分の名前を告げた。 「あっ、真由美かぁ」 突然声が変わって、親しげな口調になる。 「何まじめな声出してるの」 からかうように私がそう言うと 「いや、登録してない番号の時は、仕事のお客さんの時が多いから、営業用の声になるんだよ」 凌ちゃんは少し照れ臭そうにそう言った。 私は、そうなんだ・・・と笑いながら、昨日のお礼を言った。 一度だけ携帯を鳴らす。 これは私の賭けだった。 昨日は楽しかったということだけが目的で、とりあえず鳴らしてみたということだけが伝わるように、たわいのない話をする。 次の約束も、思わせぶりなことも言わない。 手短に、あっけなくさりげなく電話を切った。 ここからが勝負だった。 私からはもう携帯は鳴らさない。 凌ちゃんがもう一度会おうと思ってくれているのなら、あなたから連絡がくるはず。 だってあなたは今、私の電話番号を知ったのだから。
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