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コケティッシュな微笑み 作者:晶子

第9回   9
 次の日の夜、私は自分の部屋から、凌ちゃんの携帯を鳴らした。
「はい、石崎です」
 凌ちゃんの硬い声が聞こえてきて、少しおかしくなりながら、自分の名前を告げた。
「あっ、真由美かぁ」
 突然声が変わって、親しげな口調になる。
「何まじめな声出してるの」
 からかうように私がそう言うと
「いや、登録してない番号の時は、仕事のお客さんの時が多いから、営業用の声になるんだよ」
 凌ちゃんは少し照れ臭そうにそう言った。
 私は、そうなんだ・・・と笑いながら、昨日のお礼を言った。
 一度だけ携帯を鳴らす。
 これは私の賭けだった。
 昨日は楽しかったということだけが目的で、とりあえず鳴らしてみたということだけが伝わるように、たわいのない話をする。
 次の約束も、思わせぶりなことも言わない。
 手短に、あっけなくさりげなく電話を切った。
 ここからが勝負だった。
 私からはもう携帯は鳴らさない。  
 凌ちゃんがもう一度会おうと思ってくれているのなら、あなたから連絡がくるはず。
 だってあなたは今、私の電話番号を知ったのだから。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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