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コケティッシュな微笑み 作者:晶子

第8回   8
 車は何も言わないのに、私の家の前に着いた。
 覚えていてくれたんだ・・・。
 たったそれだけのことがとてもうれしかった。
「ありがとう、楽しかった」
 凌ちゃんの顔を見て、思い切り笑顔を作った。
 凌ちゃんも唇の端を上げて軽く微笑む。
「この次はどうするの?また偶然に会えるのを待つの?」
「そうね・・・」
 私は思いがけない凌ちゃんの言葉に驚きながらも、考えるふりをした。
 乗り気な態度を見せたら、また彼が逃げていきそうで、これっきりになることにとても怯えていた。
「携帯鳴らせよ」
 驚きとうれしさで声が出ない。
「書くものある?」
 私がボールペンを渡すと、凌ちゃんは私の手のひらに番号を書いた。
「じゃ、またね」
 私が車を降りると、凌ちゃんはさわやかに笑って、「絶対に鳴らせよ」と言って、車を走らせてクラクションを2回鳴らした。
 走り去る車を見ながら、急に足が震え出してきた。
 これでよかったのだろうか・・・。
 運命の再会、待ち望んでいた再会・・・。
 ずっとずっと空想してきて、その通りに接してみたけど、これでよかったの?
 部屋に戻ってから、今日の自分のとった行動を思い返して、凌ちゃんとの甘い快楽を何度もたどって、眠れぬ夜を過ごした。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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