「帰らなきゃ」 「まだ11時だよ」 「明日仕事なの」 ベッドの上で上半身を起こし、服をたぐり寄せようとする私の腕を掴んで、自分に引き寄せようとする。 私は片手で服を掴むと、凌ちゃんに振り返り、軽く頬にキスをしてシャツに腕を通した。 凌ちゃんは、軽くため息をついて、煙草に火をつける。 私はそれを無視するように立ち上がって、洗面所に向かった。 あれから2年の月日が経っているけど、私はあなた以外の人と寝たことは一度もないのよ。 あなたは信じないでしょうけど。 テクニックと男性経験は、必ずしも比例するわけじゃないわ。 何人もの男の人と遊んできたけど、最後の一線だけは絶対に越えなかった。 それを私のポリシー、あなたへのこだわりとして過ごしてきたわ。 こんなにもあなたのことを好きな私を知ったら、あなたはまた逃げてしまうでしょうけど。 私は鏡を見て、2、3度髪を手ぐしで整えてから、部屋に戻った。 まだベッドの上にいる凌ちゃんの視線が私にからんでいるのがわかる。 私はそれを感じながらも気づかないふりをしてコーヒーを入れた。 「凌ちゃんも飲む?」 「ああ」 凌ちゃんは放心気味な瞳で軽くうなづいた。 「はい」 私は気にしないふりをしながらも凌ちゃんのせつないまなざしがたまらなく愛しくなって、何気なく布団に入り込んで凌ちゃんに寄り添った。 凌ちゃんの腕が私を引き寄せる。 私は、この快楽に酔いしれそうになりながらも、必死に自分を取り戻そうとしていた。 久しぶりに会えば、誰だってここまでは優しくしてくれる。 ここで甘えてはいけない。 今回限りのただの懐かしい再会で終わらせないためにも、もう少し、素顔は隠しておかなければ。 コーヒーを脇に置いて、私の胸を愛撫し始め、シャツのボタンをひとつはずしかけた凌ちゃんの指先を軽くつかんだ。 「コーヒーを飲んだら、帰ろう」 「どうして?」 それには答えず、少し意味ありげに微笑みながら、凌ちゃんを見つめた。 そしてゆっくりと凌ちゃんの指に自分の指を絡ませ、もう一方の手を胸元から首筋にと這わせながら、こらえきれなくなったように首にしがみついて口づけをした。 ゆっくりと自分から舌を絡ませる。 放心状態の凌ちゃんの指先に力がこもり、私はギュッと手を握りしめられた。 凌ちゃんの精気が電流のように私の体中に走り、私はより激しく口づけをした。 これが最後かもしれない。 私は狂ったように彼の唇を求めつづけた。 そして、狂おしいほどの愛情の限界がきた時、私は凌ちゃんから唇を離して、まだ力強く握りしめられたままの指先の力を抜いた。 私が力を抜いたことに反応して、より一層強く握りしめてきた凌ちゃんの手を拒否して、わざと力なく微笑んで「帰ろう」と言った。 凌ちゃんは考えるような瞳をして、黙ったままうなづいた。
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