「今日はごめん、俺、調子にのって余計なことまでしゃべりすぎたよね」 帰り道、北岡君が自分を反省したのか、少し申し訳なさそうにそう言った。 「気分、害したんじゃない?」 「ううん、そんなことないわよ。私こそごめんね。由美子に圧倒されちゃって、あまりのれなかったのよね。北岡君が相手にしてくれて、助かったわ」 「確かに、今日の由美子ちゃんはすごかったね」 北岡君は、由美子のことを思い出したのか、ちょっと笑って肩をすくめた。 「石崎なんてさ、完全に引いてたよね」 「そうね」 私はまた、今日の凌ちゃんのいろんな表情を思い出して、胸が痛んだ。 別れ際まで、凌ちゃんは寡黙で、北岡君が当然のように送る形になって、私たちがそれぞれにふた手に別れたとき、凌ちゃんと目が合った。 「気をつけて・・・」 静かな声で、少し淋しそうに優しく微笑む凌ちゃんの顔がいつまでも心に残った。 今日の私は、凌ちゃんの目にどんなふうに写ったんだろう。 北岡君が話すがままにとらえて、私は幸せに楽しく過ごしているのだと思っているのだろうか。 私の心も北岡君にあると・・・。 私はそこまで考えて、頭を振って、思いを打ち消した。 気を取り直して、北岡君とたわいない話をしながら、タクシーに乗って、今夜は真っ直ぐ帰った。 薄暗い部屋の中で服を脱ぎ捨てて、一人ボーっとなる時間ができると、思い出すのはやっぱり、今日の凌ちゃんのことだった。 愛しい凌ちゃん・・・。 私たちは一体、何をすれ違っているのだろう。 お互いの愛を感じてはいるのに、一体誰が悪いんだろう。 由美子と別れられない凌ちゃん? それとも、好きなのに、意地を張っている私・・・? 本当は、黙って見てないで、私を北岡くんから奪って欲しいのに。 そんな淋しそうな顔で私を見ないでよ。 北岡君といる私を怒ってよ。 私はやるせなくてやるせなくて、かたく目をつぶって、涙をこらえた。 今度はいつ会えるんだろう。 明日のない私たちの関係に、私の体は、哀しさと切なさで、震えが止まらなかった。 また私たちは、どのくらい会えないんだろう。 凌ちゃんと由美子、私と北岡君という、それぞれの時間を持ちながら、どのくらいの時が流れてゆくのだろう。 取り返しのつかない距離が空いてしまう前に、私たちはまた会えるのだろうか。 それとも、先のない私たちは、これが最後になってしまうのだろうか。 あんなに哀しそうな顔の凌ちゃんとの再会が最後に・・・。
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