「あれから、仲直りした?」 「ううん、まだ」 実際のところ、あれからもう4日もたっているのに、凌ちゃんからの電話は途絶えたままだった。 「もう私たち、ダメかもしれない。彼は私との恋に飽きて、安定という彼女のふところに帰っていったのかもね」 「それで君は、そいつからこのまま連絡がこなかったらどうするの」 「わからない」 「俺とつきあってみる?」 あまりにもさりげなくそう言われて、私はえっ?と北岡君の顔を見た。 「別に、本格的じゃなくてもいいんだよ。気晴らしにっていうかさ、気分転換に違う人と遊んでみて、それでうまくいけばいいし、いかなかったらいかないで構わないしさ」 「あの人を忘れるために、あなたを利用することになるのよ」 「いいよ」 「あの人を忘れられないかもしれないのに」 「簡単に忘れてもらっても困るよ」 「それはそうだけど」 「じゃ、契約成立だね」 強引な北岡君に、まっ、いっか・・・と半分投げやりな気持ちでため息をついた。 もう凌ちゃんとは終わりかもしれない。 凌ちゃんのことは忘れられないけれども。 もう凌ちゃんに会える日はこないの? こんなに好きなままなのに・・・。 このまま北岡君と付き合ってみてもいいの?いいの?凌ちゃん・・・。 私は、北岡君と別れた後も、帰り着いてからも、眠るその瞬間まで、自問自答を繰り返していた。 そして、諦めよう、北岡君と付き合ってみようと結論を出したその日、皮肉なことに、凌ちゃんがうちにやってきた。 ドアを開けた瞬間、私は息をのんで、彼を見つめて、そして私は、ああ、やっぱりこの人が好きだと思って、胸がキュンとなった。 来てくれたんだと思うと、うれしくてうれしくて仕方なかった。 だけど、それだけに、この一週間という空白が悔しくて、どうしてもっと早く来てくれなかったのという腹立たしさがこみ上げてきて、私は素直になれなくて、本音とは反対のことを口走っていた。 「何しに来たの?」 「真由美とやり直しにきた」 ああ、凌ちゃん・・・。 その待ち望んでいた言葉を嬉しく思いながらも、私はまた心にもないことを言ってしまっていた。 「もう、遅いのよ」 「どうして?」 「私、北岡君と付き合うことにしたから」 瞬間、凌ちゃんの瞳がカッと見開いて、私はグイッと腕をつかまれた。 「なんでっ、なんで付き合うことになったの」 「なんとなく」 「やめろよ、北岡なんかと付き合うな。俺と付き合おう、俺だけを見てくれよ」 私は驚いて、凌ちゃんを見つめた。 切羽詰った凌ちゃんの真剣なまなざしが、私の心をせつなく揺さぶった。 だけど、聞いておかなければならないことがあって、私の心は少し冷静だった。 「凌ちゃんの気持ちはありがたいけど、今の凌ちゃんはそんなこと言える立場なの?今の凌ちゃんは、堂々とそんなことが言えるくらい、身辺は片付いているの?」 私の言葉に凌ちゃんはふっと瞳を伏せ、それが由美子とはまだ終わっていないことを物語っていた。 凌ちゃんの気持ちが向ってきているのがわかるだけに、凌ちゃんの心を独り占めしたい願望も日増しに強くなってきて、由美子と付き合っているということが、たまらなく悔しかった。 「凌ちゃんが他に時間を共有する女性がいる限り、私を選ぶ権利はないのよ。この家にはこれからは北岡君が来るから、凌ちゃんはもう来ないで」 凌ちゃんの瞳が、潤んだようにキラッと光った。 ジッと私を見つめて、そして、目を伏せて、フッと口元をゆがませて微笑んだ。 「ごめん・・・」 そして、そう言って、凌ちゃんはドアを開けて、出て行ってしまった。 私は急に力が抜けて、ガクンと床の上に膝をついた。 最後の凌ちゃんの顔が思い出されて、涙が溢れて止まらなかった。 どうして、どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。 本当はうれしかったのに、由美子がいてもよかったのに、今のままでもよかったのに・・・。 私はしばらくの間、ワーっと声を上げて、泣き続けた。
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