「こないだ、北岡に会ったんだって?」 北岡君と会った3日後に、凌ちゃんがうちに来て、来たそうそうの言葉がこれだった。 「うん、そうよ」 私がさりげなく認めて頷くと、凌ちゃんは少しムッとした顔をした。 「何で、言わないの?」 「何で言う必要があるの?」 凌ちゃんの反応に少し驚きながら、冷たく言い返すと、私の言ったことにグッと言葉を詰まらせた。 「言ってくれたら・・・、行かせなかったのに・・・」 絞り出すような低い声と、うつむく横顔に、私は、彼の本気を見たような気がして驚いた。 いつのまにか、彼の私に対する気持ちの手ごたえを、時々感じるようにはなってはいた。 「2人で会ったのが、そんなに嫌?」 「嫌だ」 「それって、やきもち?」 「あたりまえだろう、絶対会ってほしくなかったよ。なんで会ったの?」 責めたてるように言う、凌ちゃんの真剣なまなざしとは裏腹に、私の心は妙に冷めていて、うれしさで満たされはしなかった。 由美子という彼女のいるあなたに、由美子の次に愛されても、全然うれしくなんかない。 由美子よりも、愛してくれなければ・・・。 由美子よりも愛されているという確信がなければ、私の心が満たされることはないのだ。 「じゃあ、北岡君にはもう会わないから、今度一緒にどこか行かない?昼間。それも、週末に」 私は、凌ちゃんの質問には答えずに、凌ちゃんをもっと困らせてみたくなった。 「もうひとつ、お願いがあるの。今度、連休にどこか泊まりに行きたい。それも、少し遠いところ。2人でガイドブック見て、ホテルに予約して、飛行機のチケットを一緒に取りに行きたい」 私は、たたみかけるようにそう言って、凌ちゃんをキッと見た。 凌ちゃんは、困ったように、目を伏せる。 「そんなこと、できないでしょう」 私は、思った通りの凌ちゃんの態度に、がっかりしながらそう言った。 「男の人から見て、由美子みたいな女は安心できて、私みたいな女は危なっかしくて彼女にできないのかしら」 「どうしたんだよ、急に」 「どうして、私には、彼氏ができないんだろう」 「真由美が、魅力的過ぎるからだろう」 「そんなの、理由にならない。それじゃ、どうして・・・」 あなたは由美子と別れて、私を選んでくれないの? 私は、その言葉をグッと飲み込んだ。 「今日は帰って」 「真由美・・・」 「帰ってよ、お願い」 私は初めて、凌ちゃんを追い返した。 腑に落ちない顔をした凌ちゃんの背中を押してドアを開け、無理やり押し出し、鍵をかけた。 ドアの外で、小さく真由美・・・と呼ぶ凌ちゃんの声を背に、涙が溢れて止まらなかった。 凌ちゃん、私はあなたの全ての愛情が欲しいの。 由美子よりも私のことを好きだという確信が欲しかった。 由美子よりも、私のことを選んでほしかった。 私はあなたから、好きだという言葉は聞いたことがあっても、由美子と別れるという言葉は、一度も聞いたことがない。 なぜか私は、北岡君に会いたいと思っていた。
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