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第19回
１９
次の日、電話のベルが鳴った。
「もしもし、真由美さんはいらっしゃいますか？」
「私ですけど」
「すみません、夜分に、北岡です」
「あ、北岡君？昨日はどうもありがとう。でも、どうして私の番号知ってるの？」
「由美子ちゃんに聞きました」
「ああ、由美子ね･･･」
「初め、石崎に聞いたんだけど、勝手に教えてもいいのかなぁって渋られて、由美子ちゃんに聞いたらもしかして気に入った？ってものすごく楽しそうで、あっさり教えてもらえたよ。かけてもいいか確認とってもらってからにしようかなとも思ったんだけど、ややこしくなりそうだったんで、直接かけたけど、迷惑だった？」
「ううん、そんなことない」
「そう、よかった」
硬かった北岡君の声が、ほっとしたように、柔らかくなった。
「昨日の今日で誘うのもどうかなとも思ったんだけど、今度の土曜日はあいてないかな？」
「多分、大丈夫だと思う」
一瞬、凌ちゃんの顔が浮かんだけれども、自分でも不思議なくらいあっさりと、北岡君の誘いにＯＫを出していた。
「じゃ、土曜日に。前日くらいにまた確認の電話するよ」
しばらく、たわいのない話をしたあと、こう締めくくられて、電話は切れた。
そして、そのすぐ後に、電話のベルが鳴り、出てみると、由美子からだった。
「もしもし、真由美？あたし」
「あ、由美子？たった今、北岡君から電話がきてたところよ。勝手に番号教えたでしょう」
「ごめんごめん、やばかった？」
「別に、やばくはないけど」
「でしょう、真由美は大丈夫なんじゃないかなと思ったの。それにほら、北岡君、あのとおりのいい男だし、真由美も今回ばかりは気に入ったんじゃないかなぁと思って」
「別に気に入ってなんかいないわよ」
「えーっ、なんだ、残念！初の紹介大成功だと思ったのに」
「残念でした。まぁ、別に嫌いってわけでもないけどね」
「じゃ、まだ見込みはあるわけだ。でも真由美はすごいわよー。北岡君も真由美同様、誰を紹介しても全然なびかない人だったんだから」
「そんな、まだ好きとか言われたわけじゃないんだし･･･」
「ううん、彼が電話番号聞きたがるなんて、初めてのことだもの。でも私には少し確信があったわね。多分気に入るんじゃないかって。凌ちゃんに相談した時も、あいつはムリだってって言われたけど、やっぱり私の勘は正しかったわね」
凌ちゃんの名前が出てきて、私の胸はなぜか切ない痛みを訴えた。
「でも、私はどうしても２人うまくいってほしいな。そしたら昔から念願のダブルデートができるじゃないの。旅行に行ったり、キャンプしたり。もし結婚したら、家族ぐるみのお付き合いをして、子供たちは幼馴染になるの、ねっ、すごく理想的じゃない？」
「そうね」
結婚という２文字を聞いてから、私は遠いところで、由美子の話を聞いていた。
「もう、結婚の話は出てるの？」
「ううん、全然、当分まだかな」
その言葉にホッとしながら、私は質問を続けた。
「どうして、もう長い付き合いじゃない。したいと思わないの？」
「うーん、私はいつでもしたいんだけど、凌ちゃんにはまだその気がないみたい。話を持ち出すと、うまくはぐらかされちゃうのよね」
「へぇ、意外。なんでだろうね。まだ遊びたいのかしら」
「少し待ちくたびれちゃうこともあって、いい人がいたら乗りかえちゃうぞと思うこともあるんだけど」
「あー、そんなこと言っていいのー？じゃあその時は、私がもらっちゃおうかなー」
「どうぞどうぞ、その時はいらないから、あげるね」
「うそよー、いらないわよ、凌ちゃんなんか」
私は、いらないとか、冗談に聞こえるように努力しながら、心の底ではとてもせつなくて、由美子の何気ない、その気のないセリフにとても傷ついた。
恋する者にとって、この世で一番、好きな人の彼女による、その気のない安心上のセリフほど、哀しくて、つらくて、せつなくて、残酷なものはない。
彼女である立場上の、安心上の言葉が、とても痛かった。
その夜、また偶然にも、凌ちゃんまでもがうちにやってきて･･･。
さっきの由美子との会話がずっと頭に残っていて、彼にもう一度、同じ質問を繰り返してみた。
「凌ちゃんは結婚願望ってないの？」
「ないねー」
あっさりそう言われて、安堵のため息をこっそりつくと、真由美は？と逆に凌ちゃんから質問された。
「私も、結婚願望ってないの。あんまりしたいとも思わないし、憧れないのよねー」
私が、興味ないというようなニュアンスでそう言うと、
「ダメだよ、女の子がそんなこと言っちゃ」
と真剣な顔で語り出した。
「結婚したくない俺が言うのもなんだけど、女の子はやっぱり、結婚したいっていうかわいい夢を持っていなくちゃ。人生の幸せは、結婚して、子供が生まれることだと俺は思うよ」
その言葉を聞いて、私は少しだけ後悔した。
本当は、一緒だね、気が合うねって･･･。
俺達、束縛し合わない者同士、うまくいくかもねって言葉を期待してたのに。
その言葉がほしかったのに。
何もかもが空回りの、後味の悪さだけが残る夜だった。
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Novel Editor by BS CGI Rental
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