ある日曜の昼下がり、私はこの世で一番出会いたくない瞬間に出会ってしまった。 前から歩いてくる、仲のよいカップル、凌ちゃんと由美子。 私は、凌ちゃんとの後ろめたさから、とっさに身を翻して、通り過ぎる2人の背中を見送った。 2人の後ろ姿に、やりきれない思いが走った。 羨望と嫉妬の念が入り混じって、何とも言えない気持ちになる。 そのまま通り過ぎようとして、私の足は、勝手に二人の後を追っていた。 時々肩と肩とを触れ合わせながら、少し軽快に歩く姿は、仲のよさを物語っていた。 二人は、目的もなく店から店を渡り歩き、デパートのエスカレーターでは、前後に並んでじゃれ合い、靴屋では、二人しゃがみこんでスニーカーを見ていた。 靴を指差す由美子の指先と、顔を見合わせる二人の笑顔。 こんなにつらくて悲しいことがあるだろうか。 自分の所有する凌ちゃんの存在が、とても虚像に思えて仕方なかった。 所詮、彼女なのは、由美子なのだ。 日の目を浴びるのは、彼女である由美子。 その証拠に、私は昼間あんなふうに、堂々と街を歩くことは出来ない。 悔しくて、悲しくて、やりきれない思いが体中を走る。 日頃私が願ってやまないことを、いとも簡単にやり遂げている由美子が悔しかった。 許せなかった。うらやましくて仕方なかった。 私はわざと、二人の正面から歩いてみた。 気づかれたかった。 そして、二人がどんな反応をするのか確かめてみたかった。 靴屋を離れようとする二人の進行方向から、私はゆっくりと歩き出した。 なにげなくとおり沿いの店を覗くふりをして、わざと二人の真ん中に自分を置くようにして歩く。 「真由美」 案の定、私は名前を呼ばれた。 私はゆっくりと立ち止まって、呼ばれた相手に焦点を合わす。 「あれっ、由美子」 懐かしいという笑顔を作って、隣の凌ちゃんをさりげなく見て、そしてすぐに由美子に視線を戻した。 「久しぶりだねー、元気してた?」 「真由美こそ、今何してるの?」 久しぶりに会った者同士が交わす、ありきたりなやりとりを交わす。 「今日は二人でデート?相変わらず仲がいいのね、今からどこに行くの?」 少し冷やかし気味にそう言って、由美子を肘で軽くつついた。 「今から、ティータイムしに行こうと思ってたところなの。あっ、真由美も一緒に行かない?」 待ち望んでいた言葉だった。 「あら、でも、私なんかがいたらお邪魔でしょう」 「何言ってんの、いいのよ。ね、凌ちゃん、真由美も一緒でもいいでしょう?」 「うん、いいよ」 凌ちゃんが由美子の彼氏という笑顔で答える。 私は、そんな凌ちゃんに胸が痛んで、少し後悔した。 由美子の彼氏である凌ちゃんを見るのがつらかった。 カフェに入って、注文を終えると、私たちは当然のように、昔話で盛り上がった。 「真由美、今彼氏は?」 「それが、いないのよ」 「え〜、そうなの〜?好きな人は?」 「全然。あっそうだ、ね、また誰か紹介してよ。また4人で遊びに行こう」 私は屈託のないふりをして、そう言った。 「そうだよね、ね、凌ちゃん、誰かいないの?」 由美子が楽しそうに凌ちゃんの腕を揺さぶる。 「うーん、俺の友達で、こっちに残ってる奴ってあんまりいないからね〜」 「そうだよねー、内田君は彼女いるし、宮本君は真由美の好みじゃないよねー」 由美子が、私の知らない凌ちゃんの友達の名前を言ったので、私はものすごい嫉妬の念を感じた。 私は、凌ちゃんの事しか知らない。 愛だの恋だのにしか興味がないかのように、凌ちゃんしか見えていないみたいに、凌ちゃん以外の生活のことを知らない。 彼の家族も友達も、彼を取り囲む全てのことを・・・。 それが私を、とても屈辱的にした。
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