〔 私の生きる、、 〕
命なんてちっぽけだ。
この前まではギャーギャー目立っていたやつが今日はものすごく静かだった。
―――交通事故。
高校生ぐらいになれば必ず一人は死ぬもんだ。なんでだろう。義務教育が過ぎると価値下がるのかな。
私は焼香をやり終わると、早歩きで大きなストーブのあるテントばりのところへ行く。
寒い。こんな寒い日に葬式なんてするやつあるか。ストーブに背中を向け、手にははぁーっと息をかける。溜め息。死んだ悲しみとかの溜め息じゃないことは確かである。でも周りから見れば落胆していると思われるかもしれない、というほどの大きな吐息だった。
「死んじゃったねぇ」友達のユマは、私に向かいそう言う。「んだね」と私は目を合わせず、テキトーに返事をする。
「寂しい?」
「全然」
「だよね。だって話したことすらないもん、この男子」
まぁ、そういうことだ。死んだ悲しみなどない。クラスでは目立っていたりしていたが、私にはまったくの無関係者そのものだった。初、接近したのはなぁ。半年前に、「家庭科の教科書貸して。あれ分厚いから、社会の教科書って騙せるんだ」と言われて、別に断る理由も特に無かったから貸しただけ。それだけ。こいつと近づいたのは。そういえば、まだ返してもらってないな。教科書。
「まったくねぇ。泣けって言われてもなけないよ」
由真は白い溜め息をついた。所詮命なんてそんなものにすぎない。死んだら死んだで「死んじゃったねぇ」で終わるものだ。私は軽く頷き遺族の方を見る。泣いているのか泣いていないのか。そもそも元はどういう顔だったのかわからないけど、みんな青ざめてくしゃくしゃにしているのはわかった。
「帰ろうか」由真はそういい、「帰りは自由に解散なんだってさ」と付け足した。
「うん」と頷き、私は空っぽの肩掛け鞄を掛け直した。
帰り道。
冬なせいか日が短く、帰ることにはすでに真っ暗に近かった。
「じゃあね」と、由真と別れて白い斜線ギリギリの歩道をダラダラと歩いていった。
車が通るたびに「シートベルト!!!」という看板がライトに反射する。それがチカチカ目に飛び込んできてムカついてくる。看板に近づくと転がっていた石ころでギーギーと削ってその場からすばやく逃げた。
なんでこんな苛々してるんだろう。あいつが死んだこと?でもあいつにと私は何の関わりもないはず。いくら一・二年前に気になっていたとしていても死ぬ前まで「あいつに対する関心」は記憶の隅の隅にあったのだ。関係ない。関係ないはずだ。
そんなことを思っているともっと苛立ってくる。チクショウ。今日はCDを買おうと思っていたのに葬式のせいでパーだ。 あいつ。
あいつがこんなときに死んだから。
――――と、ものすごく大きいブレーキの音が、後ろのほうから聞こえてくる。猫でも飛び出したのかな、とぼんやりと考えていた私は、自分がどうなるかなんて知らなかった。
―――――――――どん
案外あっという間だった。その「あ」という間で私は何も感じなかったから。痛みも、悲しみも。絶望感なんて尚更かも。
―――――やっぱりちっぽけだ。
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