「へぇ。そーなんだ。」 「うん♪あ。入って〜」 壱はそう言うと、甘味と書かれた濃い緑色の暖簾を開けてくれた。 教室の中は本格的で、女子がこんなものを作れるのかというぐらい、本格的だった。 「さ、さ。これ、メニューだよ。」 壱が渡してくれたメニューを見ると、「カキ氷」とか「団子」とか。 「どれがおススメ?」 ボクがそう聞くと、彼女は「お団子のね、みたらしかな」と教えてくれたので みたらし団子を頼むことにした。 ボクは辺りを見回すとどいつもこいつもカップルだらけで気がたつ。 「お待たせしましたー。みたらし団子だよ」 壱の笑顔を見ると、何となく心が落ち着いた。 ん?心が落ち着くー・・・・?何でだろう。なんで・・・? ボクは今朝、静香姉ぇに言われた言葉を思い出した。 『双、いい?別に東大なんか行かなくてもいいのよ。好きな子にはちゃーんと 優しくしなさいよね。そうでなくてもアンタは人を見下すし、鈍いんだから』 ボクはその言葉をスルーして「うるさいよ」と答えたけど、静香姉ぇは まだ続けた。 『まー。可愛くないわぁ。でも、西華学園に行くなんてさぁ。お目当ての子がいるんだぁ。ま?あたしは『西華の華』といわれた女だし?見方になってあげてもいいわよ?』 自意識過剰すぎる姉の言葉を思い出して、何となく壱を見てみたー・・・ 最初あった時も思ったけど、端正な顔してるし・・・髪もきれいにそろえてある。 「?」 「あ。ゴメン。じゃ、頂きます。」 ボクは姉の自意識過剰な言葉を脳から抹消すると、みたらし団子に口をつけた。 「・・・うまい。」 「ホント?良かったー。お店のものはウチのだけど、食べ物は全部 私たちが考えて作ってるの。だから3日間しかないけど結構ヒーヒーなのよ。」 お世辞じゃなくて、みたらし団子は本当に美味かった。 団子が口の中でとけるような固さで、みたらしの庵はしつこくない甘さで 熱い茶と一緒にすると、口の中の甘さは消えて次がだべれた。 「あ。双、今日何時までいる?」 「えーっと。夜までいるかな?」 ボクがそう言うと、壱はにっこり笑った。 「あのね。今日の最後は屋台がでるの。でね、一緒に回れたらいいなぁって 思ったんだけど・・・時間大丈夫?」 大丈夫だ。なんたって今日の為に頑張ってきたわけだから、時間に融通が利く。 あれー・・・?何でボク、ここまでしてるんだろ・・・。 「うん・・・いいよ。一緒に回ろう。屋台何時から?」 「えっと、6時から。ウチのグランド広いから本格的なの。」 壱はそう言うと、何となく寂しそうな顔をした。 「ど・・した?」 「え!?ううん。ね、一緒に回らない?」 「いいよ。その前に高橋のトコ行きたいんだけどー・・」 「いいよ。未ッちゃんのトコだよね。制服に着替えるから先に行ってて。」 「うん」 ボク達は会話を終了させるとそれそれ、ボクは高橋の所に。壱は ロッカーに向った。 脳の中で壱の寂しそうな顔がぐるぐる回って仕方ない。 「そりゃーさ、壱ちゃんのこと好きなんだよ。お前。」 高橋にこの事を言うと、真面目な顔でそう答えた。 「なんで?お前もそうだった?」 ボクが聞くと高橋は照れて「うん」と小声で言った。 「未明はさ、俺のこと恐くないって言ってくれたんだよ。こんなツラしてるから 今まで得意なことは勉強しかなかったけどさ。未明は『恐くない』って言ってくれたんだ。それだけでスッゴク嬉しくてさ。」 前もこの話は聞いたことあったけど、共感はしなかったし、 くだらないヤツに落ちぶれたとしか思ってなかった。 なのに、いまは共感できる。 「そっか。そーだよなー。」 壱だってそうだ。ボクの態度に文句を一つも言わなかった。 初めて見た時はやっぱり「おつむ悪いんじゃないの?」って思ったし。 ボクは、ボクは壱が好きなんだー・・・。 「双、お待たせー。あ。高橋君。こんにちは。」 壱は高橋にペコっと頭を下げて挨拶をした。 「おー。壱ちゃん今日はーー。」 高橋の目は沢倉未明しか見てないようだった。 そんな純粋でアホな友・高橋をボクは褒め、讃えようではないか! 「そーぅ。どうしたの?」 「ん?何か楽しくて。」 楽しい。壱が隣にいるだけで時間はたって、屋台の出る時間となった。 壱は浴衣に着替えるらしく、ボクは校舎の裏にある木の側で待つことにした。 好きな子には、優しくー・・・ね。
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