■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第9回   9
 イジメ、という物は、まあ僕から言えばどうというものの事ではない出来事だ。そもそもどうしてそんなことが起こるのだろうか?これは一言では表現できないくらいの人間の人間であるためのベクトルが何かを起させるのかもしれないとして、ここでは少し単純に考えてみたいと思う。
 まず、イジメってどこまでがそうなのだろうか。
仲の良い友達同士がふざけ半分に一人をからかう、これは特に問題ではない。
一時期の勢いに任せて長時間にわたって一人の友人を迫害する、これはこれで問題があるが時間が解決してくれるだろう。
ただ自分たちが優越に浸るための手段として、友人一人を生贄にして集団で何日にもわたって迫害を続ける。これは、これこそは、イジメだろうか?
いいや、僕はそんなこととは思わない。
僕の母さんに言わせれば、イジメなんて言うのは目に見えるものではない、との事らしい。母さんは、母さんこそは、僕が知る中で一番イジメというものを理解している人間と思う。
なにせ、母さん自身がイジメを体験したこがないこそはすれ、この世の終わりとも思えるイジメを目の当たりにし続けた人間だからだ。
母さん曰く、イジメとは。
自身が指導者であるという意識ももった者。
自身は力に屈しやすいと認識している者。
この両者が同じ無色の集団に混じったとき、黒いイジメという色が浮かび上がるらしい。
表現は乱暴かもしれないが、確かにそうだ。標的になりえる人物がいない場所では、いつまで経っても何も起こりはしない。そこに絶対的弱者が存在したときに、イジメという現象が発生するのだ。
これを僕のクラスに当て嵌めるのであれば、絶対的指導者と思っているのは、この一流学校で、中でも国内最大の電気製品メーカーの会長の息子で、権力と財力をまとっているいわずもがな―――――城ヶ岬修一郎。
そして、その対象として、絶対的弱者として成り立っているのは、成績、運動、コミュニケーションに関して特に秀でた部分も無くまたその目立つ華奢な体つきのためにひ弱を体現したような人間―――――砂野真。
絶対的な強者はこのクラスに限っての弱者の中でも一番下だと思ってる砂野君を力で制圧することで、周囲を自分の思いのままにしようとしており、この学校で名前でも残そうとしているのかもしれない。
もしくは、成功者の息子として威張りたいのかもしれない。簡単に言って―――――
「優越に浸りたい独りよがり」
で、ある。
昨日の夕飯の後、もう一度自分のクラスのことを話してみると、父さんも母さんも、口を揃えて『くだらない』と意見を合わせた。この『くだらない』は父さんの若い頃からの口癖であり、たまに母さんも使うことがある。父も母も、ということはその内僕もこの言葉を使うかもしれないと予想される。
うん、ちょっと練習してみよう。
「・・・・くだらない」
あれ、なんか発音がおかしくなった。やはり言い慣れない単語は使うべきではないね。さて、話を戻そう。
砂野君は入学式の次の日から、城ヶ岬に目をつけられたらしい。最初は高圧的な話し方に怯えた態度で反応したら、彼の機嫌を損ねたそうだ。まるで自分が悪いことでもしたみたいだ、と。その一件以来、城ヶ岬は砂野君を暇さえあればバカにしたり罵ったり、取り巻きをそばに置いてからは数人で砂野君をこき使うようになり、最後にはイジメという現象を始めたらしい。
ものを隠される、落書きされる、転ばされる、それでも無理矢理買い物に行かされる、機嫌が悪いときには叩かれたりもしたらしい。
砂野君を可哀想だと思う人の声も無いことはない、だが相手はあの城ヶ岬だということもあり、体で痛い目にあうのならまだしも社会的に不利にされる可能性がちらつき誰も意見できていない。教師たちでさえも。
たかがクラスメイトの肩を持っただけで自分が不幸になる道理はない、それが砂野君の現状を知る人間が抱いている全てだった。そして、誰がはじめたかは知らないが、だったら自分も、と砂野君をイジメる人数が増えていった。
そして、今に至る。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections