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探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第6回   6
僕らの話は昼休みのうちに校内を駆け回ったらしい。『城ヶ岬に逆らった転校生がいる』というもので、その中には砂野君の名前はなかったけれど、とりあえず標的は僕になっただろうか。
教室内の空気が一変したのが第一だった。まだ城ヶ岬の指示が誰にも行っていないのは、僕が何も受けていないことで確認ができる。何かしらアクションがあれば被害が出てもおかしくはないだろう。
まあ、それは多分明日かもしれない。城ヶ岬は頭の中で何を考えているんだろうね。
午後は何もないまま、放課後を迎えた。
「砂野君」
「え、あ、なに、かな・・・・」
「一緒に帰ろうか」
ざわり、と周囲の生徒たちが騒いだ。砂野君も、何かを咎められているかのような表情になり、おびえていた。僕は周囲の状況を見回して、よそよそしく視線が外れていくのを確認した。
「気にする必要はないよ。行こう」
「え、ちょ、あ・・・・」
 手をとって無理に立たせてそのまま教室を出た。教室では、面白くなさそうに城ヶ岬が僕らの出て行った方をにらんでいた。
 「おい、明日からアレ、無私な。適当にやっておけ、泣かせたやつは五万、不登校にさせたら十万、転校させたら二十万な」
 まるで独り言のようなその言葉は、けれども確かにほかの生徒たちには伝わり、ニヤニヤと笑うものもいた。城ヶ岬は絶対に従わせてやる、と小さくつぶやいていた。
 帰り道、話を聞くと砂野君はどうやら途中まで帰り道は一緒らしい。それはそれで好都合だった。では何を聞こうかという考えをめぐらせながらも、隣で困ったように歩く砂野君を気にしていると、不意に彼は立ち止まった。
 「どうかした?」
 「・・・・どうかしたって、やっぱり、おかしいよ君」
 「輝だよ。桐夜 輝。友達なんだから、名前で呼んでよ」
 「それは、君が一方的に決めたことで、ボクはそんなこと・・・・」
 「ああ、そういえばそうだったね。でも、僕は本気でいったんだけどね、君と友達になるってさ」
 一人しか友達を作らない。それは僕が決めたルール。細かくは、その学校では友達を一人しか作らないということ。僕は転校を繰り返す人間だ、たくさん友達なんか作っても分かれるときに面倒。でも、誰とも関わらないで物事をなしえることは出来ない。だから最低の条件として、一人だけの友達を作ることを自分で決めた。前の学校でもそういう友達がいて、今もメールや電話でやり取りをしている。まあ、結果的に行く先々で一人ずつ友達になってたら、普通に友達作るよりも多くなるんだけどね。
 「ボクと友達なんて、やめたほうがいいよ・・・・」
 「いじめの巻き添えを受けるから?」
 はっ、と砂野君は顔を上げた。どうして知っているのか、パシリくらいしか見られていないのに、そんな顔だった。
 「いや、首に青痣があるよ、今朝君を校門で見かけたときはなかったのにさ。だから僕が教室に行くまでの間に、何かされたんじゃないかと思ってね」
 「・・・・」
 首筋に手を当てる砂野君。痛みが走ったのか顔をゆがめた。
 「僕と友達になるのは、嫌かな?」
 「・・・・そんなことは、ないけど、でも迷惑が」
 「かからないよ。ん〜、詳しくは言わないけれど、僕には嫌いなものがあってね」
 「嫌いなもの?」
 「理不尽なこと、言い訳がましいこと、自分の実力を履き違えること、主にこの三つに分類されるかな」
 僕の話の後、少し遠慮がちな表情になって砂野君は口を開いた。
 「それってもしかして・・・・」
 「そうだね、自分の実力であるように権力と財力を誇示して、だから言うことを聞けって脅してくる理不尽を口にして、言い訳はまだしていないけれど、そのうち何かを誤魔化す言葉を吐くだろうね」
 もちろん、城ヶ岬のことだった。
 「彼の話を聞いてね、瞬時に理解したよ。僕の大嫌いな存在だって、だから、従うなんて事はありえない。それに、前の学校でもこういうことは良くあったんだ。いじめられっこを助けていじめられるなんて、良くあることだしね。気にしなくていいよ」
 「でも、やっぱりだめだよ。・・・・せっかく友達になってくれる人を、巻き込むなんて」
 砂野君は、申し訳ないようにつぶやいた。でも、彼は自分の口にした言葉を理解できているのだろうか。今彼は、自分よりも僕を心配したのだ。僕が巻き込まれれば、巧くいけば自分は解放されるかもしれないのに、それすら無視して、僕を心配した。
 僕は、確信した。
 「やっぱりね」
 「え・・・・?」
 「いや、僕の友達になるべき人間は、君しかいないよ。僕が巻き込まれれば君は巧いこと今の状態から解放される可能性もあるのに、僕を巻き込ませないようにしている。それは誰でも出来ることじゃないよ」
 「そんな、だってボクは慣れているけど、君は転校してきたばかりで、友達にもなってくれるのに、迷惑をかけるのは、だめだよ・・・・」
 「そう、その気づきかいが、僕は好きだな」
 「・・・・え?」
 「城ヶ岬にね、聞かれたんだよ。集団を統率する人間に必要なものは何かってね。僕は意図的に口からでまかせで、彼に当てはまる言葉を選んだ。そしたら、彼はその通りだなんて頷いたよ。その時点で、僕はもう彼と理解しあえないって決めた」
 「・・・・」
 「集団を統率。そもそもその言葉が間違いだ。集団はまとめられるものじゃない、一人が行動を起こして誰かが集まれば、集団なんだ。最初からの集団なんてないんだよ、それは個人が集まっているだけだ。
 彼は権力と財力で人を動かしてるけど、それは彼に従っているんじゃない、彼の持っているステータスにくっついてるだけだ。だから、城ヶ岬自身には何の魅力も存在しない。集団を形成できる人間に必要なものはひとつ、それは『相手を思う気持ち』だよ。
 僕の母さんがそうだったように、僕はそれを守る。その一人が、君であって欲しいな」
 砂野君は少しうろたえた。
 「ボ、ボクに集団のリーダーなんて・・・・」
 「それは心持の問題だよ。今朝、授業の合間に花壇に水をあげていたね。どうしてだい、授業に遅れただろう?」
 僕の質問に彼は恥ずかしそうに答えた。
 「だって、あそこは一番水が乾きやすいんだ。でも、水が上げられてなかったから、かわいそうに思えて、だから・・・・」
 「上出来だよ。そういうことを当たり前に思える人間が、リーダーになりえるんだ。別に君になってくれって言っているんじゃない。城ヶ岬と比べれば、君のほうがよっぽどリーダーらしいって話さ」
 「・・・・」
 「僕は、そんな君と友達になりたいんだ。いじめだってなくなるわけじゃないだろ?でも一人で抱え込むよりも、友達がいたほうがいいよ。絶対に。僕は、君を裏切ったりなんて、しないからさ」
 僕は、僕に出来る覚悟で手を差し伸べた。そして、砂野君はゆっくりと、手を差し出してきた。
 「あ、あう、その・・・・ボ、ボク、も・・・・君と友達になりたい・・・・」
 「うん、よろしくっ」
 がっちりと、握手。転校初日、僕は強い味方と知り合えた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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