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探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第45回   45
 「ここが、田島のアジトかぁ。低俗でチャッチィねぇ。窓もない、最上階は屋根もないときたものだ。己を守る堅固なる囲いでない場所は、ただの箱だって言うのに、それをアジト呼ばわり、使ってる人間の矮小な部分が露呈しているよ。君たちも、そう思わないか?」
 「だれだ!」
 僕の服に手を掛けた一人がその手を話し、新たにやってきた誰かに叫んだ。闇の中、かつん、かつんと近づいてくる足音。闇の中から徐々にシルエットが浮かび上がり、足が現れ、そして―――――消えた。
 「みぎゃっ!?」
 そんな、何かの動物を潰したような声が響いた。新たにやってきた人物は僕らの見ていた視線の先にはいなかった。いつの間に移動したのか、僕らの反応をはるかに超えて、その人物はネズミのような田島君の手下を殴り飛ばした―――――らしい。音が聞こえて振り返ったとき、その一番小さな手下は壁とぶつかって倒れていた。そして、あの人物が立っていた。
 僕は恐怖の中でも、誰なのかよく判った。だって、僕を助けに来てくれたんだ。僕はそこでようやく自分が泣いていることに気づいた。でも、その涙は恐怖の物から歓喜の涙へと変わっていて、僕は愛しい人の名前を口にした。
 「あ、輝君・・・・」
 「うん、待たせてごめん。真」
 明るいいつもの声で、僕の名前を呼んでくれた。そこには、そこにだけは、いつもの日常だけがちゃんと存在していて、僕に安心感を与えてくれた。でも、すぐに表情を堅くして輝君は田島君に視線を移した。
 「城ヶ岬は、改善の余地のある人間だった。でも、君は少し罪と悪を重ねすぎたね。城ヶ岬の父親は権威と財力を失い罪の償いに回った。城ヶ岬本人は今後、自分がしてきたことを悔いるために自分から行動するだろう。さて、じゃあ君には改善の余地があるのかな、田島 勝」
 「おい」
 輝君の口上、それが気に食わなかったのか田島君は小さく合図して手下の一人を動かした。その人は容易に輝君の肩を掴みすごんだ。
 「なに仲間ひとり潰してくれてんだ、ああ?いい度胸だなぁ、ここに一人で乗り込んでくるとはよぉ。てめぇ、ここの人間が俺たちだけだと思ってんじゃねぇだろうな?召集かけりゃあ、十でも二十でも仲間はよ―――――」
 肩を掴んでいた手を、輝君はしっかりと掴み、最後まで言葉を口にさせることはなくまるで枕でも放り投げるかのように、その男の人は一人目と同じように壁へと投げつけられて、ぐったりとして動かなくなった。
 「だめだよ、暴力は嫌いなんだから、ボク」
 「暴力を行使しておいて、そういうこというんだ。だから嫌いだよ、君」
 田島君は悪態をつくように、ようやく感情をこめた声で、輝君への不満の声を上げた。でも輝君は、そんなことを意に介さず話を進めた。
 「田島 勝。君を粛清する。君の罪はすでに和解で済ませられるものじゃない、しかるべき処置を施す必要があり、僕が君を修正する」
 「力、強いんだね、桐夜は」
 話をつなげるつもりがないのか、田島君は動かなくなった手下を見やると懐からナイフを一本取り出した。あれで向かってくるのだろうか、そう思った矢先、残ったひとりの手下へ向けて、田島君はナイフを投げた。
 投げ渡した、ではない、文字通りダーツのように投げたのだ。
 「ぎゃああああああああああああっ!」
 暗闇で、唐突なナイフの投擲に避けられず肩にナイフを刺して叫び声を上げる手下の人。何をしているのだと輝君が振り返ったとき、田島君が動いた。今のは陽動で、もう一本ナイフを隠し持っていた田島君はそれを取り出して輝君に向かった。あぶない、と声を掛ける間もなく二人の距離は詰められそして―――――田島君のナイフは空を切った。
 「不意打ち、卑怯だよ。田島勝」
 いつの間に移動したのか、田島君の真後ろに移動した輝君。ずっと見ていたボクですらその移動した瞬間を捉えられなかった。
 「・・・・いま、なにしたの?」
 「何もしてないよ。しいて言うなら、父さん直伝の足運びだよ。僕は探求する側の人間だ、母さん仕込みの頭の使い方を前面に押し出す。でもね、こうして暴力沙汰になることだって、ないとは言い切れない。だから、父さんに小さい頃か格闘技や武道を教わっていたんだけれど、これがすごくてね。あとから参考に本とかを読むんだけど、父さんの教えてくれた格闘技は全部、オリジナルなんだ。だから、父さんから教わる以外にこの格闘技を教わる方法はないんだ。でもね、この格闘技、結構怖いよ」
 田島君は口上を聞くのが面倒になって振り向き様にナイフを撫でる。けれど、そこにももう輝君の姿はなく、ちょうど九十度となりに立っていた。そして、田島君の腕を掴むというより、置くように手を触れた。
 「―――――う、あっ」
 とたん、まるでなにか言い知れない物と遭遇しように、田島君は動揺した顔を見せて後ずさった。とれるものなら、とれるだけ距離をもって。たった今まで、ナイフを向けようとしていたのに、ナイフどころか刀でも届かないところまで田島君は引いた。
 「い、いまのは・・・・」
 怯えたような声で田島君は恐る恐る声を出した。
 「へぇ、まだあまり流していないのに、感じたんだね。結構体の中は綺麗なんだ。それじゃあ密度を上げなくても済みそうだね」
 よく見れば、輝君は手袋をしていた。普段はつけていないその手袋、それが田島君が突然怯えたことと関係があるのだろうか?
 「父さんの格闘技はオリジナルで、本来の精神修行や競技に対するものではなく、実戦で実践するための格闘技。そのために、父さんは若い頃から自分を実験台に、あらゆる格闘技の基礎や基本を取り入れて改良し、そして完成させて僕へとつなげた。そしてこの格闘技は、内向と外向の両方を攻撃するんだ。でもね、これって体得できる人間がいないんだよ、何でか判る?」
 「はぁ、はぁ・・・・な、なにが」
 田島君の呼吸が荒い、言い知れない恐怖を感じているのかもしれない。恐怖はボクに与えるために口にしていたのに、今は自分がそれを感じている、動揺に困惑、恐怖が混ざり合って、輝君の質問にも返答できていない。
 「この格闘技は、外向へ与えるダメージは型の訓練でなんとでもなる。でも、この格闘技の本来の姿は一回の攻撃で内向と外向を攻めること。そう、その内向を攻撃するための技術は、世界で僕しか体得できないんだ。なぜなら、内向を攻撃する方法は父さんが持っている才能であり、それを遺伝子で受け継いでいる僕にしか体得可能な人間がいないんだよ」
 判るかな?と輝君は聞き返すけれど、田島君はもとより聞いているだけのボクでも意味がわからなかった。内向って言うのはつまり、内側への攻撃で、たしか普通の格闘技にも内臓へ攻撃するための物はあったとおもう。でも、どうして輝君のお父さんが考案した格闘技は輝君しか体得できないのだろう。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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