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探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第42回   42
 「負けた」
 「は?」
 「へぇ」
 教室に戻った城ヶ岬は席についてそんなことを呟いた。その言葉に先に反応したのは、当然二人の取り巻きだった。佐々木は顔をしかめ、田島は何もかも解ったように声を漏らした。
 そして、教室のみんなもその言葉に耳を傾けずにはいられなかった。
 「細かいことは面倒だから説明しねぇ。でも、桐夜に負けたっていう事実は持って帰ってきた。それだけだ。やめだやめだ、教室での独裁精度なんでもしまいだ、悪かったなお前ら、鬱憤たまってんなら殴っていいぞ、俺を」
 と、横柄な態度は変わっていないので反省しているとはとても言いがたい口調だけど、でも確かに彼は今、負けたと口にした。戸惑いを隠せないのは、誰もが同じだった。
 「だめだよ、元独裁者だからってそういう解決のさせ方は。君は反省したんだからそもそも。僕にも謝ったし真にも謝った、すぐに全部元通りって訳ではないけれど、だからって暴力を受ける必要はなしさ」
 「そうかよ」
 「でも、それでも忘れてはいけないことがある。君は多くの人間を不幸にしたんだ。その罪だけは、忘れちゃダメだ」
 「・・・・」
 「でも、まあ」
 と、僕はとりあえず一歩を踏み出して城ヶ岬の前にきた。
 「一人で背負うのもアレだし、三分の一は僕が面倒見るよ、だからさ、友達になってよ。城ヶ岬。君がいると、心強いんだよね、なにかと」
 そんな軽い感じで、僕は手を差し出した。彼の罪は暴かれた、彼は罪を認めた、彼は罪に謝罪した、彼は彼を認識した。
 だから、一つくらいは笑える何かをもらっても、罰は当たらないよ、きっと。
 「けっ、だからお前は嫌いだよ」
 そういって、口元で笑いを作って手を出してきた。そしてがっちりと手を握る。よし、僕の心のリンクにもう一人、追加できたよ。うれしいな、本当に。
 けれど、僕はその時に気づくべきだった。なにを?その光景に唖然としている佐々木のことを?ちがう、その光景に、冷ややかな視線を送っていた田島のことだ。
 放課後になって、僕は真と帰ることになった。
 「あ、ごめん、教室に忘れ物してきた。ちょっとまってて」
 「うん」
 夕暮れの時間、校舎の入り口に真を置いて僕は教室に戻った。明日提出の宿題を書いたノートを教室に忘れたからだ。僕はそれを取りに教室へ戻った。
 「事件解決して、よかったな」
 僕を見送った真は感慨深げに夕日を見つめて呟いた。彼女にとっては地獄とも取れる日々の終わり、その日に見る夕焼けは、やはりいつもとは違って見えるのだろう。
 「もう、誰も傷つかなくて済むんだね。すごいな、桐夜君は・・・・」
 「ああ、そうだね」
 答えるはずの無い声。
 「え?」
 その声に振り向いた真は一瞬目を見開いて。
 「じゃあ、続きをしようか」
 「―――――あ」
 一瞬の激痛の後、意識が深いとこへと落ちていった。
 「あったあった」
 教室に戻った僕は、その出来事を知らない。だから、のんきにノートを片手に教室を出た。
 「おい、桐夜」
 だから、声をかけられた。振り向くと、城ヶ岬がいた。
 「あれ、まだいたんだ城ヶ岬」
 「・・・・」
 彼は自分から声をかけてきたのに、なぜかしかめっ面をしていた。
 「どしたの?」
 「いや、俺が嫌いだとか言ってたときとは顔つきも態度もえらい変わってるなって、改めて思っただけだ」
 と、感想を口にした。
 「まあね、君の罪を嫌っていたから、最大の嫌悪でいつも向かっていたんだもの。でも今は友達、友達にそんな顔はしないよ」
 「よくわかんねぇやつだな、お前」
 「よく言われるよ。で、どうしたのさ」
 改めて、城ヶ岬が呼び止めた理由を聞いた。
 「いや、一ついい忘れたことがあってな。いや、気がかりって言う奴だ」
 「気がかり?」
 「田島のことだ」
 「田島って、君の取り巻き立ったあの佐々木よりも物静かな彼?」
 僕の返答に城ヶ岬は頷いた。
 「そうだが、実を言えば俺はアイツのことを一度も使い勝手のいい舎弟だとか思ったことがない、いや、思うことすら出来なかった。金と権力で以って俺が上だと言い聞かせるだけだった」
 「どうして・・・・」
 「あいつは、普通の奴とは毛色が違うんだよ。佐々木は見た目どおり三下の舎弟役以外にポジションがねぇ、俺に目をつけられるのがイヤでコバンザメ決めていただけだ。けど田島は俺の権力や金になんて目を向けていなかった。いや、金や権力には目は向けてたんだろうよ、実際俺の権力と金ですき放題してたからな。自分のために俺にくっついて至って言う分には佐々木と同じだったが、佐々木は自分の身の安全のためで、田島は自分の娯楽のため、あいつは俺を使い勝手の言い財布と風除けに使っていたんだろうよ。あいつは俺なんかいなくても、何か出来る奴だ」
 「―――――まさか」
 僕は言い知れぬ不安を頭の中に浮かべた。城ヶ岬は堂々と敗北宣言をした、そのとき佐々木の顔は唖然としてとても印象的だった。印象的過ぎて、田島の顔には注意を払っていなかった。あの時田島はどんな顔をしていただろうか、思い出せないということが更に不安を促進させ、僕は走り出した。
 「桐夜っ」
 「やばいことになったかもしれないっ」
 僕は振り返ることもせず校舎の入り口に全力で走った、階段を下りて、廊下を曲がって下駄箱を飛び越えて、飛び出した先には―――――
 「・・・・真」
 いるはずの真が、消えていた。僕の体の中から、血の気が引く感覚を覚えた。いつくらいだろうか、この不安を感じたのは。
 「おい、桐夜・・・・」
 「やられた、真が、拉致されたかもしれない」
 まじか、後ろから城ヶ岬が呟いた。僕は城ヶ岬に振り向いた、振り向いた先の城ヶ岬はなぜ一瞬たじろぐ表情を見せたのは、僕が怒りに満たされた顔をしているからだ。
 「教えてよ。田島の良く行きそうな場所、早くしないと、真が危険だ」
 「・・・・一人で、かよ。なんならうちの実戦部隊何人かつれて―――――」
 「だめだよ」
 城ヶ岬の言葉を僕は一蹴した。そんなものに、意味はない。
 「だめってことはねぇだろ、ちょっとは助けには―――――」
 「僕を入れて十人で乗り込んだとして、真を助けて十一人で戻ってくる保証は無いから」
 「・・・・なぜ」
 「どんなに大勢で行っても、僕と真の二人で戻ってくる以外の結果は、存在しないから」
 夕暮れの校舎、僕の心に、魔が宿った。


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Novel Editor by BS CGI Rental
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