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探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第4回   4
 「午前の授業はこれで終わります」
 四時限目、授業は終了し先生が出て行くと同時にチャイムが鳴った。さて、昼休みである。早速数人が僕の席へやってきた。
 質問の内容なんて、それこそどこへ行ってもお決まりの物しか飛んできはしない。
前の学校はどこか、よく入学できたね、休日は何をしているの、得意な科目は、得意な運動は、趣味とかは、好きな芸能人は。
まったく決まったようなものばかりが聞いてくる。しかし、そんな質問もこの後の出来事の事前調査に他ならなかったと理解した。
「おい、砂野。昼飯買ってこいよ」
僕を囲う生徒の群れの向こうで、そんな声が聞こえてきた。隙間から覗くと、件の城ヶ岬と、取り巻きと思われる二人の男子生徒がいた。よく見れば、僕を転ばしたあの男子生徒だ。そして、その視線の向こうにはまた別の男子生徒が一人。
「あ、え・・・、で、でも・・・・」
「ああ?なんだお前、逆らおうってのか?いいか、てめぇは弱者なんだよ、俺らの命令聞いてりゃ幸せなんだ、さっさと、買ってこいよ」
続いてお金の飛び散る音、砂野という生徒にお金が投げつけられたらしい。そして、ビクビクとお金を拾い、彼は教室を出て行った。
「ねぇ、今の砂野って子・・・・」
僕は、恐る恐ると言う感じで人垣になっている一人に聞いた。一度振り返って僕を再び見た顔は、まるでくだらないものを見たような顔だった。
「あー、あれね。いつものことだよ。あいつトロいからさ、俺たちで鍛えてやってんだよ。城ヶ岬さんが責任者でね」
 「・・・・」
 さも当然のようにほかの人たちもクスクスと笑ったり、彼を馬鹿にするような言葉を口にしていた。
なるほど、と僕は頭でうなずいた。さて、ここで気づいたことは二つ。
ひとつは、やはりこの教室にはアンバランスが存在していると言うこと。あの取り巻きの二人の中心である城ヶ岬は、明らかに何か権力的なものを持っていた。
ふたつ、あの砂野っていう子は驚くなかれ、先ほど花壇に水をやっていたあの優しい表情の生徒だった。城ヶ岬のことばかりに夢中になっていたため気づかなかったが、まさかクラスメイトだったとは。でも、あの状態だと、鍛えているという内容は入学の頃からあったに違いない、それから二ヶ月の今まで続けられていれば、確かに気分をめいることだろう。
よく不登校にならないものだ。
そして、しばらく人垣の間から城ヶ岬を見ていると、彼が気づいたようにこちらへ視線を向け、そしてぶつかった。小さく口元をゆがめると、立ち上がってこちらへ向かってくる。取り巻きの二人も突然動き出した大将にあわてて付いてくる。
「桐夜、だったよな、君」
「あ、うん。よろしく、君は?」
「俺は城ヶ岬っていうんだけど、まあこの名前だけで俺が誰だか、分かるよな」
自己顕示欲、今彼の後ろにそれが見えた。
「あ、城ヶ岬ってあの一流電気メーカーの?」
「そうだ、さすがに知ってたな」
よしよし、とまるで上から目線で城ヶ岬は僕にうなずいた。
城ヶ岬グループ――国内一位、国外三位の実力を持つ一流電気製品メーカー。製品の企画、製作から販売、メンテナンスにいたるまでを全て自社でグループを分け行うことで効率よく業績を伸ばし、また製品の製作にも手を抜かないことから便利性と頑丈さで長持ちする商品を作り、一般家庭を軸に多くの業績を手に入れてきた。
まさに、電化製品メーカーの代表である。今は確か、携帯電話の製作も手がけ、かなり設けているはずだ。
彼、城ヶ岬 修一郎は、その電化製品メーカーの会長の息子なのだろう。会長の年齢は五十代、子供がいても不思議ではないし、現にこうしてここにいる。で、そんな彼が何の話をしにきたのだろうか。
「有名だからね、あの製品は。僕も良く使ってたよ」
「なら、話は早いな、桐夜」
「なんだい?」
「集団を取り仕切るには、どんな人間がうってつけだと思う。お前の意見を聞かせろ」
命令口調、すでに自分がどんな位置にいる人間かを見せ付け理解させたうえで、僕が大人しく話を聞く人間になったと思っているのだろう。なるほど、他力本願。
「集団を取り仕切るに値する人間?そうだね、まずは人に自分の言葉を聞かせられる雰囲気が必要かな。それに、正確な判断が下せる人間がいい、状況に応じて対応できて、なおかつ冷静である。そして何よりも、ひとつ力があると人は付いてくるかもしれないね」
僕の言葉に、彼はうんうん、とうなずき満足そうだった。もちろん、大嘘である。僕は彼の望む言葉を選んで口にしているだけであり、あわせているのだ。
集団を仕切れるリーダー?そんなの、僕の母さんのような人間に決まっている。
城ヶ岬の周囲で、さっきまで僕に質問をしていた生徒たちもまるで彼の話は大切なものだと言わんばかりに一歩引いて聞いていた。
「そうだな、そのとおりだ。なら、客観的に見て、お前は俺をどう判断する?」
なるほど、ミスディレクションではないけれど、自分の意見を相手と重ねさせることでああなるほどと、理解させようとしているのか。
「城ヶ岬君をかい?そうだね、やっぱり一流メーカーの次期会長という力があるかな。それに財力も」
「なるほど」
「それと、なんとなくカリスマ性ってやつかな、そんなものも感じられるような気がするよ」
「そうだろうな。まあ確かに、実際俺はこのクラスを取り仕切っている。このクラスの人間は、俺を頼っているのさ。なあ、みんな」
「おお、もちろんだ城ヶ岬!」
「頼りにしてるぜ」
「城ヶ岬さん素敵ぃ〜!」
周囲の生徒たちの賛同の声。僕は作った笑顔の向こうで理解した、財力と権力に物を言わせ彼が猿山のボスに成っていると。だとすると、砂山君はもしかすると・・・・
「そういうことだ桐夜、転校生ならみんなと仲良くしたいよな。なら、俺の言うことは聞いておいたほうがいいぜ。俺の言うことを聞いとけば、痛い目にもあわねぇし、金だってやる。どうだ悪い話じゃないだろう」
「あれ、じゃあみんなもそうなのかな?」
周囲を見渡すと、みんなは頷いたり笑ったり、なるほどと思う。確かに、権力と財力を持っていても使い方が違えば人はついてこない。たった二ヶ月で教室を自分の物にしてしまうのだから、カリスマ性もあるのだろう。ただし、方向は大きくファウルボール。
みんなで取り囲むのは、僕にプレッシャーを与えてノーと言わせないようにする為、なのだろうね。
「そういうこった。ってことで、今日からお前も俺の言うことを聞くこと、いいな」
「うん、断るよ」
腕を組み、また一人手下が増えたみたいな顔をして勝ち誇る城ヶ岬。けれど、僕の否定の言葉に彼は「はっ?」と素っ頓狂な顔をした。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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