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探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第39回   39
 「・・・・」
 傍観を決めるのは戦国親子だけれど、表情は穏やかではなかった。決して城ヶ岬グループと引けを取らない戦国グループ。だが一臣さんが通っている学校は城ヶ岬グループの出資で成り立っている、出資を止められたくなければ、城ヶ岬グループの参加に入れば見逃すという話がある。完全なる脅迫だった。それだけのことをされて、本当は怒りを口にしたいに決まっている。しかし、たぶん母さんに任せることで傍観をしているのだろう。ここは我慢のところだ。
 「敗北者、ですか。なら、勝利者は本当にあなた、なんでしょうか?」
 「なに?」
 母さんの言葉に城ヶ岬の父親は表情を険しくした。自分が勝利者、そう思っているからで他こその表情だったのだろう。母さんはその表情を見てとても満足そうだった、そしてそれが合図だったかのように再びこの部屋の扉がノックされた。
 「最後の立会人が来たようです。どうぞ」
 「失礼しますよ、っと」
 扉は開けられ、この面子に更に新しい人物が加わった。とはいえ、ほとんどの人間は拍子抜け、そんな顔だった。理事長先生、城ヶ岬親子、戦国親子、そして方向性は違えども、真もまた誰だろうという顔だった。
 年のころは30代後半、カジュアルな服に身を包み、小奇麗な形ではあるが飾った風もなく誠実そうな男性。見た目は軽そうに見えるが、武道を嗜んでいることがうかがえる身のこなしだった。
 「どうも、そちらの方々から立会人を任されましてね。俺になんができるかよく判りませんが、とりあえず見物させていただきますよ。よしなに」
 そういって肩に提げていたカバンを脇に置いて適当に椅子に座ってしまった男性。
 「失礼な男だ。名前の一つも口にしないとは」
 「ああ、確かに失礼。見物客が試合をする人間に一々名前を口にすることなんてないと思っていたもんで。試合に参加するようになったら、名前の一つもいいますよ、それよりも自分にぶつけられた疑問の一つでも考えたらいいんじゃないの?」
 けらけら、とやって男性は城ヶ岬の父親にそんな言葉をぶつけた。相手もあまりの失礼な態度に顔を険しくはするが、こんな男には何も出来ないと思ったのか、視線を母さんへと向けた。
 「私は勝利者ではない、そういったが、では私はなんだというのかね?そして、君たちはなんだというのかね?」
 「その疑問は順を追って話しますよ。といっても、すぐに教えてあげますがね。端的に申し上げて、城ヶ岬グループは戦国グループを吸収することは不可能です」
 「なんだと?」
 母さんがこれ以上ないほどの異常な笑顔を見せた。僕や父さんには絶対に見せない、敵対する相手にしか見せることのない、攻撃的な笑顔を。母さんがこの笑顔を相手に見せて負けた依頼は、一つとしてない。
 「先日、私が買い物の帰り、見慣れない黒服の男性に遭遇しまして、とても高圧な殺気を向けてきました。彼らは妙な技術を用いて周囲の目から私と合流した友人を秘密裏に暴行を加えるそぶりでした」
 「ほう、それは災難でしたな」
 「そのとき録音した音声もありますが、お聞きになりますか?」
 と、母さんはボイスレコーダーを取り出し見せてみた。しかし相手はそれを一蹴して笑って見せた。
 「よしてください。あんたが暴漢に襲われた話とのその証拠なんて私には何の意味もありませんよ」
 「そうですか、ちなみにいいますとうちの主人も似たような人間に襲われたそうなんですよ。最近は物騒で困りますね」
 「まったく、そのとおりですな」
 と、いやみな笑顔を見せてきた。
 「主人は、私ほど賢くはないのでボイスレコーダーとかも持っておりませんでした。幸いなことに、主人は武道の心得がありましたので、暴漢を撃退し、身分証を拝借させていただきました」
 「・・・・・」
 「私たちは、これでも探偵のような仕事をしておりますので、それなりに情報網の多い友人が何人か居ります。その方に今回協力を要請いたしましてとりあえずその暴漢、ここへ連れてきてもらいことになりました」
 言い終わるか否か、その瞬間、またしても扉が大きく開かれた。飛び込んできたのは縄でぐるぐる巻きに去れた全身黒尽くめの男だった。
 「はーいお待ちどうさまー!いつも全身全霊、確かな情報と行動力でお馴染みの『三上情報集積センター』ただいま参上!」
 「その奥さんの遥さんでーす!」
 続いて現れたのは二人の男女、一人は先日我が家に遊びに来た遥おば―――――遥さんだった。っていうかいま、モノローグに睨みきかせましたよね、あなた・・・・。
 そして、もう一人の男性は遥さんと同じくらいの背丈で若干若い顔をしている。あれで父さんと一つ違いだというのだから、人間の遺伝子とは怖いね。僕も何度か面識のある顔だった。
 三上陽一さん、父さんと母さんの後輩でなんどもサポートをしてくれた人。ちなみに遥さんの旦那さんです。
 「いやぁ、今回も無茶な仕事でしたよぉ。城ヶ岬グループと関係があるかもしれない裏方の人間を探せなんて―――――二十七時間もかかっちゃいましたよ先輩。あの免許証、本物とそっくりに作って、それでも身元がばれないように一部だけ情報が改ざんされてるから、検問でも引っかからないんですよ?
作ったところから洗い出して、作成を注文した人間は本人だったみたいですが、どうやって書類を揃えたのか、二十種類の会社を介入して本籍がわからないようになってるんですから。
 そしたら城ヶ岬グループの下請けの子会社の関係会社の孫受けの親会社ってもう文法がしっちゃかめっちゃかな会社に所属しているんですから。っていうか結局は城ヶ岬グループの子会社の人間だったってだけでした〜。もう困っちゃいますね、本当。あ、これそのときの書類です」
 と、カバンから資料の束を出すと母さんに渡した。
 「相変わらず仕事が速いね。それでこそ私たちの後輩だ」
 母さんは嬉しそうに書類を受け取ると中身を確認した。
 「うん、社員の登録表記と履歴書のコピー、これでまでの成績とか所属とか、へぇこの人電気会社の子会社社員のくせに、実績課なんて聞いたこともない課に配属されているんだ。城ヶ岬さん、これってどんな課なんですか?」
 「実績課?そんな部署は知りませんな、それにそんな男もしりませんよ。実業課ならあったと思いますが。まったく、どこのどいつですか、そこの屑は?」
 「しゃ、社長、そんな・・・・」
 黒服の男は城ヶ岬の父親に縋るように声を上げる。だが城ヶ岬の父親は睨むようにさげすんだ顔をした。そんな男は知らない、それが解答だからだ。それが、積みである。
 「知らない?そうですかぁ、それは不思議ですねぇ。ここには―――――」
 ぺら、と一枚の資料をめくって見せた。
 「城ヶ岬さんのところの社印と、実印とデータ印のあとがあるんですが?」
 「―――――っ」
 城ヶ岬の父親は、あり得ない、そんな顔をして立ち上がった。そして書類に指を刺して叫んだ。
 「ありえない、うちは履歴書には入社課の人間が判を捺すと決めているんだ、私のデータ印は直属の社員だけに、そんなめちゃくちゃな印は―――――あ」
 そこまで叫んで、事の重大さに気づいたようだった。母さんは、これ以上ない笑顔を浮かべていた。
 「言っちゃいましたね。知らない人間の履歴書のはずなのに、処理の仕方を知っているなんて、矛盾ですよね?とはいえ、あとがあるといっただけで、捺されているとは一言もいっていませんよ」
 「なっ、あ―――――」
 「これ、作らせていただきました。三上君に頼んで。この書類に捺された三種類の印、もちろん一部は偽者です。本当は、あなたのデータ印だけが捺されていました。ということは、この人はあなたの直属の部下ということですよね?違いますか?」
 終了、城ヶ岬の父親は自ら崖から飛び降りてしまった。少なくとも、息子が犯した罪や賄賂の贈呈に関してはうやむやだけど、母さんたちを襲った連中が城ヶ岬グループの直属の連中だったことは明らかになった。
 「親父・・・・」
 僕の隣で息子の城ヶ岬が声をうならせた。現実とは、つまりはこういうことなんだよ。いくら権力とお金があっても、こうして恥からぼろを出されれば、逃げ場はなくなる。でも当然ながら、城ヶ岬の父親はそこでは終わらないのだ。
 「く、くくくく、くかかかかかっ。あははははははは!」
 「・・・・」
 平静を取り戻したのか、城ヶ岬の父親は豪快に笑った。
 「いやいや、これはこれはとんだ失態を見せてしまった。ああ、まあ確かにその男は撃ちの人間だ。実績課というのも確かにある、私のために体を張って行動する実働部隊の人間を集めた課だ。そして、私は息子の希望を叶えるために君たちを襲わせましたよ。ええそれがなんだという。私の邪魔をする物は、誰であろうとなかろうと、排除する。ただそれだけのこと」
 「なら、法律にのっとりあなた方にはしかるべき行動を―――――」
 「ナンセンス!そんなこと、誰がどう立証するというんですか?」
 「・・・・と、いいますと?」
 「私には専属の弁護士もいますし、もちろん警察の上層部にも顔が利く。はたして立会人がいるからといって、それだけの資料があるからといって、果たして本当に警察が取り合ってくれると思うんですかねぇ?」
 やはり、だった。城ヶ岬はその権力と資金で今回のようにぼろを出す失敗をしたが、だがやはり権力は権力。法的な部分にまで影響を与えることが、強みとなって顔に出ていた。
 けれど、それでも。母さんは特に慌てた顔でもなかった。むしろ、なんだという顔だった。
 「ああ、そういうことですか。でも城ヶ岬さん、考えがあまいですよ」
 「なに?」
 「確かに、城ヶ岬さんは弁護士もいれば警察の上役にも顔が利くのかもしれません。だとしても、その上役というのはどこの誰でしょうか?名前をおっしゃられなくても構いません。ですが、咎を責められるいわれがないと思えるほどの人物に顔が利く、ということは、もしかして警視総監にまで顔が利くというのでしょうか?だとすれば、確かに身の危険は感じなくていいでしょうね」
 母さんの質問に城ヶ岬の父親は、はん、と鼻を鳴らした。
 「さぁてねえ、それはそちらのご想像にお任せしますよ。ですから、私を責めたところで警察など―――――」
 「うはははは、それは面白い話だ。もっとよく聞きたいねぇ。出来ればその上役連中の名前も聞いてみたいものだ」
 と、そこで話しに割り込んできたのは、三上さんたちよりも先にやってきた、あの男性だった。立ち上がってバカらしい話を笑うような態度だった。
 「なんだあんたは、ただの立会人が我々の話に首を突っ込むんじゃない。そもそも、いい加減に名前を名乗ったらどうなんだ!」
 城ヶ岬の父親は立ち上がった男性に苛立った視線と言葉をぶつけた。そうしてようやく男性は先ほどまでの笑いを止めて、まじめな顔を作った。
 「よし、そろそろ俺の出番だな。はじめまして、俺の名前は大塚 綺羅春といいます。まあしがない公務員ですよ。うはははは」
 「大塚・・・・?どこかで聞いたような名だな」
 城ヶ岬の父親だけではない、その息子も、真も、戦国親子も、その何でもなさそうな得に何の役割もなさそうな男の名前に引っかかる物を感じていた。そして、僕ら家族と知り合いたちを除く人物の中で、一臣さんがいち早く気づいた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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