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探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第38回   38
 「・・・・まじかよ」
 「・・・・」
 となりで城ヶ岬が僕をうかがう視線を感じる。しかし、あくまで僕らは見学、僕はその視線を無視して状況を見守った。もちろん、驚いたのは城ヶ岬だけではなく、真も真実を知って驚いた顔をしていた。
 「結果としまして、息子は転入初日、お宅の息子から『俺の下へつけ』『逆らうと酷い目にあう』という脅迫まがいの言葉を本人からではありませんが、すでに制圧下にあった生徒たち数人から聞かされていたそうです」
 「だが、本人は何も言っていないんだろう」
 「ええ、ですからここまででは真実ではありません。ですが、イジメがあるというのは事実ですよ。標的にされていたのは、そこにいる砂野 真さんだそうです。ああ、イジメの終了はまだなので、現在進行形で『だそうです』と言わせていただきました」
 「・・・・」
 「で、ですね。誰が首班なのか、とりあえず調べることになりました。まあ、十中八九お宅の息子さんだというのはわかりきっていたんですが、どの場合においても証拠という物が必要なので。とりあえず、証言という形でボイスレコーダーを使いました。聞きますか?」
 「結構だ!それで、なにかね、ようはウチの息子が好き勝手やって迷惑をかけているから、親としてしかりつけて欲しい。そういうことですか?」
 くだらない、そういう風に言いたげに城ヶ岬の父親はふんぞり返った態度を取る。本来ならばこれでも十分に反感を買う余地もあるが、本題はこの先にあるのでその態度も母さんは適当に流すことにしたようだった。というよりも、今の発言で城ヶ岬がイジメの首班であると暗に認めているといわざるを得ないと、本人は理解しているのだろうか。よもやそれすらも微々たる出来事、そんな風に思っているのかもしれない。
 「まあ、イジメを止めるように息子さんに言い含めていただきたいのもそうですが、そもそもの問題として、どうもあまり見逃せない動きがあるようでして、本題としてはそちらを解決したいと思います」
 「本題?なんだねこんどは、イジメがどうのと口にしてそれは刺身の『つま』だと?そして今度は本題と話して、アンタは一体何を言いたいんだ!」
 城ヶ岬の父親は先ほどからの回りくどい言い方や母さんの是とも否ともとれない言い方が重なって、とうとう怒り浸透してしまったようだった。机を叩き、せっかく出されたお茶が倒れそうになった。
 が、母さんはそんな態度も道路工事の音と大差ないような態度で、手元の資料を確認した。何を言いたいのか、その質問に答えようということだった。
 「まずご子息のクラスメイトへの脅迫、命令を聞かなかったという理由で教育委員会へ顔の利くご主人がその合格を入学後に取り消すという手配をされましたね。いくばくかのお金が動いたと思いますが、その明細は後ほどお見せします。そして、追い討ちをかけるように、これはご子息の勝手な行動でしたが、その入学を取り消された生徒の妹さんを近所のあまり評判のよくない生徒を何人かお金で雇い、レイプさせました。妹さんはそのショックで自殺を図り、命は取り留めましたが現在も精神科へ通うことになりました。自分の責任と受け取り退学―――――失礼、入学を取り消された生徒は自殺をしました。ご両親も離婚されています。
 それが、まあ、累計で見積もっても二十件目ですかね」
 「二十件・・・・」
 「疑問は口に出来ませんよ。自分の思想を押し付けて、子供が攻撃的な性格に育っているのがいいことのように思い、ずいぶんと他人を不幸にされたようですね。まあ、警察沙汰にするのは簡単なんですが、とりあえずブレーキはかけてありますので。ここまで質問はありますか?」
 母さんは書類から目を離し、城ヶ岬の父親を見据えた。その本人は態度を変えている様子はなかったが、果たして頭の中では何を考えているのだろうか。そして、その本人が母さんに促されて発した言葉は、『ばからしい』だった。
 「ばからしい、とおっしゃいますと?」
 「何を言ってるのか理解に苦しむ、そう言っているんですよ。まったく持って度し難いほどの妄言者ですか、あんたは。ウチの息子のわがままで生徒を一人合格取り消しにした?それが累計で二十件目?警察沙汰?ははははは!こんなところにまで呼び出して、仰々しく説明を始めたと思えばそんなこと―――――いい加減にしろ!これ以上は侮辱罪で訴えるぞ!こっちには専属の弁護士をもいるんだからな!」
 「口を慎め、下郎が」
 城ヶ岬の父親が怒鳴ったとき、それに反論したのは母さんではなかった。父親には父親で、父さんが、それまで黙っていた僕の父さんがものすごい目つきで睨んでいた。ひるんだりはしなくとも、言葉を発することは城ヶ岬の父親も止めたようだった。
 「いいか、今はうちの家内が説明と質問をしているんだ。あんたが感情に任せて怒鳴る場面じゃない、後ろめたいことのない人間が怒鳴ること事態が既に矛盾だということを理解しろ。こっちは貴様らのろくでもない仕業に労力を裂いてやっているんだ。貴様が口にするのは承知か不承知の意味を含む言葉だけだ。わかったかっ」
 「あ、あなた、そこまでにして。気遣いは嬉しいけれど、向こうにも失礼ですよ。わざわざ来てくれているんだから」
 と、母さんは父さんをなだめることになった。が、僕は逆にその母さんの行動が怖すぎると思っていた。あれは結局演技なんだよね、あとで完璧に相手を落とすための・・・・。
 「あ、輝君のお父さん、ちょっと怖いね・・・・」
 「あ、いや、どっちかというと母さんのほうが怖いんだけどね」
 「・・・・?」
 真は父さんの威圧感にちょっと引いていた。大丈夫、敵でなければいい父親だから。
 「八千六百万円。城ヶ岬さん、何の数字か覚えていますか?」
 「・・・・なんだね、その金額は」
 母さんは父さんをなだめた後でその金額を口にした。だが、質問されたほうの本人はまったく理解できていないようだった。母さんは相手にわかるように説明を始めた。
 「えーとですね、半年前の中頃、教育委員会に支援金という名義でこの金額が入金されていました。この支援金は教育委員会の副委員会長が管理する部署へ管理が決まっているそうです。この副委員会長、城ヶ岬さんと面識があるそうですが、確かですか?」
 「・・・・確かに、知らない仲ではない」
 「ですね。こちらに、コピーではありますがある辞令書がありました。まず見てもらいたいのはこちらの印鑑です」
 と、母さんは紙を一枚取り出して城ヶ岬の父親の前に置いた。
 「これはその副委員会長の印鑑です。この辞令書の内容は下記のとおりです。『辞令 私立鳳学園における今年度入学合格者手違いによる取り消しに関して。本件において、合格基準に達していない受験者が発覚したため、早急に取り消し措置を行うものなり』という内容でして、平たく言って合格基準に達していない生徒が見つかったので申し訳ないが連絡をお願いします、ということですね。ですが―――――」
 と、母さんは更に何枚かの紙を取り出した。それは、数学、国語、社会、英語、のテスト問題だった。そして全ての答案には合格を取り消された生徒の名前があった。
 「こちらが合格が取り消された生徒の、当時の答案用紙のコピーです。まあ不必要ではありましたが、回答を確認させていただきました。四科目の合計点が三百五十点、各科目の割り振りが九十点前後、どう考えても不合格というのはあり得ません。面接もあったようですが、担当した教員の方に話を聞いても、態度の良い熱意のある素晴らしい生徒だったそうです。なんで、合格を取り消されたのでしょうか?ちなみに、この書類の発効日は認印の表記のとおり、その支援金が入金されてからです。」
 「さあね、教育委員会の仕事なぞ、私の考える範疇ではないですからね」
 悪までそんなことは知らない、そういう態度だった。父さんは、はっきり言ってこういう場面は嫌いだ。母さんがいるために立ち会っているだけに過ぎず、本当はこういった話し合いだけの場面は父さんにとってイライラの募る場所なのだ。父さんは行動し、母さんが考える。二人の行動は決まりきっているのだ。
 だから、城ヶ岬の父親がのらりくらり、と話をそらす態度がとても苛立たしいに違いない。
 そして、母さんは見えないように小さくため息を吐いた。
 「すこし、人道的な話をしましょうか城ヶ岬さん。確かに、これだけの資料を突きつけたところでそちらには警察の上層部も味方にいるようですし訴えたところであなたを裁けるか―――――いえ、あなた方を裁けるかどうかは定かではありません。ですが、私はあなたに聞いてみたい、人を傷つけて楽しいですか?権力と財産に任せて好き勝ってやることが許されると思っているんですか?」
 「―――――はっ。まあその資料が本当かどうかは置いておくとしても、だ。私は人を傷つけている覚えもないし、好き勝手やっているとも思っていませんな。私の行く手を邪魔する人間が勝手に傷ついているだけ出し、必要なことをしているのが好き勝手に見えているだけでしょう。敗北者、弱者の連中には成功者の行動に嫉妬しているだけですよ。そこの親子も、敗北者だ。もうすぐ私の部下になるのだからな」

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Novel Editor by BS CGI Rental
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