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探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第37回   37
 「輝か」
 「あらこの子たら、来ちゃ駄目でしょう」
 まず声を発したのはウチの両親だった。父さんはどうでもよさそうに、母さんは出来の悪い息子を見られたような態度だった。
 「お、お前ら、何でここに」
 次に席を立ってまで驚きの声を上げたのは、一臣さんだった。そしてこちらを観察する目が二つ。一人は一臣さんのすぐ隣、紳士的な顔と髭をたくわえた男性だった。
 「やあ輝君、久しぶりだね。一臣のめかけを横取りしたそうで、相変わらずこの子は手が遅くて困るよ。はははは」
 と、顔に似合わず結構な話題と笑いを見せたのは、まあ察しのとおり一臣さんの父親である。相変わらずだった。
 そしてもう一人、酷く攻撃的な目で、不機嫌そうな顔をした堀の深い男性がいた。
 「修一郎、ここで何をしている」
 「けっ、知るかよ。俺は転校生につれてこられただけだ、ここで誰が何しているなんて知らなかったんだよ。それよりも、親父こそこんな連中と何してんだ」
 「私が聞きたいな。忙しい身だというのに、この連中が私をここまで呼び出したのだ。それくらいするのだから、有意義な話が聞けると思うんだがな」
 まるで心外、そんな感じに笑うと男は黙った。そう、この男こそ城ヶ岬の母親が出て行った後で彼を長らく育てていた男、城ヶ岬の父親だった。
 そして、真正面には理事長先生が座っていた。
 「これはこれは、全員が集まってしまったように思えますが、はて、君は・・・・?」
 理事長先生は僕の隣で不安にしている女生徒に目を向けた。
 「ああ、あの、ぼ、僕はその輝君に呼ばれたというか、心配も含めて自分から来たといいますか、あの・・・・」
 「いいよ真。君はいいわけが下手なんだからさ。僕たちは後から聞かされるよりも目の前で見せてもらったほうが手っ取り早いと思って見学にきただけです。一臣さん以外の子供は黙ってみていますので、どうぞ」
 僕は真と城ヶ岬を奥の椅子を示して移動した。そう、本来であればこの場に僕も真も城ヶ岬もいる必要はない。後日に話を聞いて結果だけ見ればいいのだから。でも、やはり城ヶ岬には後から聞かされるよりも現実を叩きつけたほうがいいと、両親に伝えた内容を大きく捻じ曲げてここへ赴いたのだ。
 父さんは予想していたのか、本当にどうでもいいのか、さっきのような対応だったけれど。母さんは予想が的中してこのバカっていう顔だったね。いや、さすがは僕の両親だね本当。
 「さて、何度も言うように、私も忙しい身ですからなぜ本日ここへ呼ばれたのかをそろそろお話いただけますか、ご主人」
 城ヶ岬の父親は父さんを見て攻撃的に話を振ってきた。しかし、父さんはその着ている和服に似合う出で立ちで構えているばかりで、その視線すらも閉じて黙していた。返答がないことに城ヶ岬の父親は苛立ちを見せていた。
 「ご主人、黙祷をしにきたわけではなんです。いいかげんに話を―――――」
 「すみません、主人は基本的に責任者であって演説者ではないので、基本的にお話は私のほうから進めさせていただきたいと思います」
 「だったら始めからそういいなさい、なんで黙っているんですかっ」
 「いえ、私に目を向けてきませんでしたので。ただの同伴と思われていらっしゃったように思えましたものですから。
あれ、でしょうか。女性はそもそも会議や話し合いの場に出てくるような存在ではない、そんな風に思っていたり?まさか、大企業のトップともあろう人が男尊女卑などするわけはないでしょうから、私の一方的な考え違いですね。それではお話をさせていただきます」
 「あんたはっ・・・・いえ、なんでもありません。続けてください」
 侮辱されたと怒鳴りたかったのか、だがそれでは認めるようなものと考えたのか言葉を抑えて話を促した。母さん、本気だ。
 「ご理解が良くて嬉しいです。それではまず始めに、ウチの子がいるクラスでイジメが散見されているということなんですが―――――」
 「ちょ、ちょっと待ってくれっ」
 「はい、なんでしょう。さっさと始めてくれといわれたので始めたのですが、なにか不都合でもございました?」
 母さんはしれっとした顔で言い放つ。それもそうだろう、これだけの面子が、しかもこの学校とは関係のない部外者まで集めてまで行う話し合いの中身。それは見る人が見ればとても外には見せられない物だと思われる。だというのに、その始めの話し合いがイジメに関してという、予想外の物だったのだから、ストップもかけるというものだ。でも、この話が出なければ、意味が無い。
 「あ、あんたはこの忙しい私や、戦国グループという部外者を呼んでまで話し合うことがあるのだろう、だっていうのになんだねイジメ?ふざけているのかね!」
 苛立たしげに声を荒げて城ヶ岬の父親は母さんを睨んだ。これが父さんなら不機嫌程度なのだろうが、女性である母さんに馬鹿にされたと思い、より一層の怒りを感じているのかもしれない。
 「はい、まずはウチの子やお宅のご子息が通っている学校のクラスで起こっているイジメの話から始めさせていただきます。よもや、くだらないなんていいませんよね。自分の子供が所属しているクラスでイジメが起こっていると聞かされて、子供の身を案じない親がいないとは思いたくありませんし。
 それとも、そういった心配は皆無、故にもっと大事な話をしないのか?そうおっしゃりたいとでも?」
 「当たり前だ!イジメだと?ウチの子は曲がり間違ってもイジメを受けるような弱い子ではない」
 「でしょうね。第一印象からイジメられるがわの子供には見えません。ということは、曲がり間違わなかったらイジメる側の人間であることが、正解なんでしょうか?」
 「・・・・・」
 とたん、城ヶ岬の父親は声を押し殺した。否定の思考の中で真実を突かれた瞬間、脳が肯定をしようとしたのを理性が否定を交えて混乱したためだろう。だとしても、その態度だけで十分だった。
 「ここで一つカードを明かしてしまいますとですね。ウチの子は先日こちらへ転入させていただいたんですが、『この学校』に入って『お宅の子がいるクラスへ配属された』のは偶然ではなく、必然なんです」
 「・・・・なんだと」
 「我が家の家計は探偵のようなことをしておりまして、息子も許可を得て手伝いをしてもらっています。今回頂いた依頼の内容は、『クラスで特定の生徒の指揮の元、イジメが行われているかもしれない』というもので、それが真実であれば沈静化を依頼されました。学校というのはメディアを嫌いますし、下手に生徒を疑えばその親がしゃしゃり出てくることもあります。モンスターペアレントなんて今更珍しくもありませんからね。ですから子供の問題は子供に解決してもらうことにしました。ということで、お宅のご子息が通うクラスへ意図的に配属させました」

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Novel Editor by BS CGI Rental
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