「おい、なんかものすげー外車がきたぞ」 「マジ?うえ、なんだあの黒の外車と白のベンツ。金持ちですって誇示してるような組み合わせじゃん」 「あ?」 休み時間、クラスメイトたちがなにやら外の光景へと話題を膨らませていた。その言葉につられて城ヶ岬も窓の外をだるそういみやると、僅かに目を見開いていた。それを確認して僕も窓へと近づいて外を確認した。 「君のお父さんだね。それと、戦国グループ社長とその息子さん。どうしたんだろうねこんなところへ」 僕と城ヶ岬が会話をする、それは既に爆発物が起動するのと同等の状況に捉えられ、教室内は僕らに注視した。城ヶ岬は僕に睨みをきかせる。 「てめぇ、なにしやがった」 「僕は何もしていないよ。なにかしたのは、君のお父さんじゃないのかな?」 「あんまり舐めた口をしないほうがいいよ。シュウの前に、こっちが切れちゃうよ。これでも気は短いんだよ、特に男には」 会話に割って入ってきたのは城ヶ岬の舎弟である田島だった。口調は穏やかなそれに聞こえないことも無いが、僕を捕らえる視線は殺意を帯びていた。僕は思わず笑ってしまいそうになるのを堪えた。 「君には関係ないよ、下っ端君。これは僕と城ヶ岬の問題だ」 「この場で殺していい、シュウ?」 「止めとけ。俺ならともかくお前がやったら言い逃れできない」 カッターナイフを片手に立ち上がる田島を城ヶ岬は制した。思うように動けないことに田島は視線で苛立ちをあらわし、そしてあろうことか視線を窓の外へ向けて、持っていたカッターナイフを投擲した。 ピィィィィィィッ、と通りがかったスズメにその鋭いナイフが命中し、むなしく落下していった。今日室内の一部で悲鳴が上がった。 「すこし、すっきりした」 「だったら座れ」 そして僕はその場から踵を返した。そして自分の席に手をついて、少し考えた。これは僕と城ヶ岬の間で起こったことかもしれないけれど、両親を巻き込んでしまったこともあるし、立ち会う必要があるのではないだろうか。 「よし、真。僕らも行こうか」 「え、輝君・・・・行くってどこに?」 「城ヶ岬も来るかい?いい加減現実に決着をつけよう。本当は体に教え込んだほうが身のためかもしれないけどさ、まずは頭から納得してもらおう。君の持っているものがいかに中身の無い物か、という事実をさ」 「・・・・上等」 挑発に乗る、とはちがうけれども城ヶ岬は不機嫌そうに言って立ちあがると僕についてきた。僕、真、城ヶ岬はそろって歩き出す。 「先生、次の授業は欠席でお願いします。それと、みんなも僕らが帰ってくるまで、ちゃんと考えておいてね。自分たちが本当にこのままでいいのか、真は隠し事をさらけ出したんだ。イジメられているこの状況で、ね。それだって言うのに、それを見せ付けられてまだ彼女をいじめようと思うなら、君たちに日常を過ごす権利は無いね。精々、正しいと思える選択をしてよ。そんなこと、正しいって言うことが何かを知っていれば、考えるまでも無いからね」 じゃあ、と僕はそのまま返答も待たずに教室の外へと移動した。 「おい桐夜、調子に乗ってると、まじで潰すぞ。お前、本気で俺を倒そうとか思ってるんじゃないだろうな」 城ヶ岬は苛立ったように言葉をぶつけてきた。真は城ヶ岬の近くにいるのが怖いのか、僕の腕を掴んで離さなかった。 「僕はね、君の事は嫌いじゃないんだ。その性格や考え方は、君が一人で成長して出来た過程の物じゃない。もっと親がちゃんとしていれば、君は今のようにお金や親の権力を誇示して偉ぶることも無かっただろう。父親の一方的な考え方を鵜呑みにした、それが原因だ。 だからね、もしこの問題が解決したらさ、僕は君とも友達になりたいんだけど。どうかな。みんなの手前、口に出来なかったんだんだけど」 と、僕は自分で出来る限りの真面の笑みを向けてみた。城ヶ岬は目を大きく見開いてあり得ない物を見るように、でもすぐに表情は元に戻った。 「いかれてんなよてめぇ、誰がてめぇと友達なんて。俺に必要なのは言うことを聞く手下だけだ。どこに連れて行くかしらねぇけどな、俺は俺の考え方を変えたりしねぇ」 「あはは、十分だよ。じゃあ見届けようじゃないか」 廊下を歩く。 教室を出て上の階へ移動し、更に歩く。 職員室を通り過ぎ、視聴覚室も通り過ぎ、更に歩くこと数分。そしてたどり着いた一つの扉の前。理事長室、そこが僕らの目的地だった。 「失礼します」 扉をノックして返答を待たずに入室、そこにはそうそうたるメンバーが集まっていた。
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