沈んだ太陽はまた時間が来れば昇る。日付は変わって朝になれば、またいつもの日常が始まる。けれど、それは繰り返しの日でもあって、完結の日でもある。僕らは、今日で全てを終わらせようと思う。 それに、材料はそれなりにそろった。僕には守るものも出来たし、これで十分に戦力になる。さて、と僕はいつもと変わらない朝を迎えて仕度をして、それでは言ってきますと声をかけて家を出た。 家では父さんと母さんがゆっくりと朝食を摂っていた。 「今日の予定は、どうするんだ?」 湯飲みを持ってお茶をのむ父さんがおもむろに母さんへ聞いた。母さんはパンにバターを塗り続けたまま、まるでこれから遊びに行くかのような調子で考えていた。 「そうねぇ。子供のけんかに、大の大人がしゃしゃり出るのはお門違いだけど、向こうの大人も大人しくしていなさそうだから、崩そうと思うの」 さく、と手に持っていたパンを感じっておいしい、と感想を漏らす。父さんはその姿をじっと見て、呟いた。 「ずるいことが嫌いだから、か」 「うん、悪いことしてお金は儲けちゃだめ、子供のけんかに口を出すのもそうだけどそういう部分でちょっと嫌いかな、城ヶ岬グループは」 「だから、ここら辺で幕を降ろしてもらうっていうことか」 父さんは相変わらずだな、とため息をついた。母さんは一度決めればそれには逆らえない。尻に敷かれているとか、かかあ天下とか、二人の関係はそういう一方的なものではないのだけれど、そこが複雑である。家の主は父さんだし、仕事の名義も父さん、だけど全ての方向を決めるのは母さんなのだ。 母さんがこうすると決めれば、父さんは疑いなく言われたことを実行する。それが父さんと母さんのやり方なのだ。だから今回は母さん、すごくやる気になってる。 「一般人にまで戻ってもらうだけだよ。戦国グループの社長さんには話をつけてあるから。輝の友達、ちゃんとお父さんに事情を説明してくれていたから、話がしやすかった」 「準備は、万端って言うことだな」 「もちろん」 二人はカップを持ってコーヒーを飲む。ちなみに、このカップは先日真と一臣さんと町を歩いたときに買ったお揃いのカップ。ようやくセットものが我が家に置かれたことで、見た目は一般人にまで納まったかもしれない。 「それじゃあ支度をして、輝の学校に行きましょうか。話しでは、先方のお父さんが難癖つけて輝を退学させようとしてるみたいだし」 「どこからそんな話―――――あのバカか」 「うふふ、友達が多いって、本当に嬉しいね」 勝手にしろ、父さんはそういってコーヒーを口にした。 「親子そろっての事件解決は、これが始めてかしら。イジメを助けたり、見えない扉を開けたり、死体を捜したり、あなたが死んだり、駆け足できたけれど今ではいい思い出ね」 「死体がいい思い出なわけあるか。二度と御免だ」 「ところで、あの二人大丈夫かしら」 母さんは話をくるりと変えて口にした。 「なんのことだ」 「輝と真さんよ。私たち襲われたのに返り討ちにしたんだもの、また二人に危険がやってくるんじゃないかしら?」 「ザコに負けるようには仕込んでいない、女を守れないようにも仕込んでいない、それ以上の答えが必要か」 「さすがお父さん。愛してるわ」 「・・・・ふん」 父さんは誤魔化すようにそっぽを向いた。母さんの真っ直ぐな意見には弱いようだった。
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