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探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第29回   29
 「え、襲われた?」
 お茶の席、談笑をしている中で僕は三上のおば―――――お姉さん、なんか言いにくいからハルさんでいいよね―――――に、どうして珍しく家にきたのか訪ねると、母さんが買い物帰りに男三人に囲まれているところへ遭遇したらしい。その成り行きでハルさんを家に招いたらしい。
 突然の発表に一臣さんも真も声がでないようだった。
 「お前もか」
 そんな一瞬止まった空間になんの感情も見せず父さんは返答した。よく見れば、いつもは乱れることの無い着物にシワが寄っている、激しい運動をしたのだろうか。
 「あら、あなたもですか?お怪我は―――――あるわけないわね」
 「え、心配なしですか!?」
 さすがの一臣さんも突っ込んだ。真が隣でビクビクしてた。なんだろう、この構図。とりあえず僕は咳払いを一つ。
 「ね、心配ないって言ったでしょ。こういう家族なんだから、うちは」
 「輝、あの程度の連中にお前は俺たちに警戒しろと言ったようだが・・・・お前の眼力も足りない、明日からもういちど鍛えなおす」
 「そうそう、こういう風に―――――え、またっ!?」
 今度は僕が驚いた。ちょっとまった、親を心配してなんでそんなことになるのさ!だめじゃん!やだよあんな地獄、死ぬよ僕!
 「そうねぇ、四日もしないで弱音を吐くし、下調べも足りないみたいだし、鍛えなおしたほうがいいかもしれないわぇ」
 僕は父さんから顔を一気に離して母さんを確認した。冗談、って言う顔じゃない。え、ちょっと、母さんまで!?
 「いいねぇ、それ。んじゃあウチの夫もつれてくる?昔みたいに」
 と、大人三人かなり盛り上がってきている。ちょっと、化け物四人に鍛えられるなんて冗談じゃないよ。逃げるよ僕!
 「じゃなくて、なんだったのさその連中。普通冷静に一般人に危害を加えてくる連中はいないと思うんだけど」
 「・・・・城ヶ岬君」
 「だろうな、それ以外の理由が無い」
 ぼそりと呟く真に一臣さんが同意した。その言葉に、再び茶の間は静まり返る。
 「ん?あれ、っていうか、そっちの二人はどこの誰?」
 と、いまさら疑問に思ったのかハルさんが二人を交互に見て聞いてきた。母さんは母さんで天然っぽい感じもあるけれど、ハルさんはハルさんで重要でない事柄は後に回す正確だし、その割には気になったことは先に聞くくせに・・・・。
 「そういえば紹介してなかったね。こちらは戦国一臣さん、国立国際総合学院高等部の生徒会会長をしてる僕の一つ上の友達」
 「はじめまして、よろしくおねがいします」
 「で、こっちが僕のクラスメイトの砂野 真さん」
 「は、はじめまして」
 改めて二人を紹介する。で、変な間が空いた。はて、とハルさんに視線を戻すと、なんか目が輝いていた。
 「え、なに、あなたこんな美形と可愛い子と友達なわけ!?」
 「え?は、はぁ」
 美形って・・・・、まあ一臣さんはモデルもやるくらい世間ではカッコいいとか言われているし、真が可愛いのはいまさらだし、っていうかハルさん怖い・・・・。
 「美形はと、ともかく、真ちゃん!」
 「は、はひっ!?」
 「ちょっとお姉さんと遊ぼう、ね、ちょっとでいいか―――――はべしっ!?」
 「はいそこまでー」
 ハルさんがなにごとか暴走し始めたとき、母さんが後ろから服を引っ張り首を締め上げた。ハルさんがものすごく苦しそうな顔になった。
 「その性格、まだ治ってなかったの?だんながいるでしょ、もう」
 「か、可愛いのを愛でるのは本能よっ、それのなにが悪くるしいくるしい、死んじゃう死んじゃうぅぅぅぅ・・・・」
 母さんがハルさんを大人しくしてようやくその場が落ち着いた。ハルさん、そういう性癖があったんですね。旦那さん、大変そうだなぁ。
 「それよりも輝、真さんって、呼び方変えたのね」
 「え?あ、うん。色々あって、というか勘違いというか。もしかすると、母さん知ってたとか?」
 僕は真をちらと確認してすこし言いよどむ。真もそれを思い出して少し笑顔だった。そんな僕と真をニヤニヤと母さんはあまり誉められない笑顔を向けてきた。
 「ふーん、そういうことなんだ。父さんと違って手が早いのね、輝は」
 なんのことですか?と、言い返したかったが無理でした。事実だし、真赤くなってるしで、認めるしかなかった。確かに、割れながら手が早かった。
 「母さん、要らないことを言うな」
 そんな少しはしゃいだ母さんに父さんが釘をさす。
 「あら、そんなこと言っちゃ駄目よお父さん。お父さんには事情があったけれど、普通のこの子がようやく仕事以外に目を向けたんだもの、喜ばないと」
 母さんの一言に父さんは言葉を止めてじっと僕を見つめてきた。父さんの目は、気にしていなくとも突き刺さるような鋭い目つきで、母さんの話によればそれが原因で学生の頃はよくいざこざが絶えなかったらしい。
 そのナイフのような視線で、今は僕を見据えていた。何か言われるのだろうか、百年早いとか、認めん、とか。いや、でもそんな言葉父さんが口にするとは思えないっていうか本当に口にされても、困る。
 「・・・・ふん」
 しかし、予想は杞憂に終わり、父さんは最後に真を見た後目を閉じた。その後は何も言わなくなってしまった。えーと、つまり、どういうことですか?
 「へぇ、あのナイフみたいな少年も今じゃすっかり一人前ってことね。まあ、子供の成長は親の証だし、いいことよねぇ」
 「からかわないでよ。ともかく、お父さんは文句ないって」
 と、母さん。わからない、僕でも今のが父さんの一歩引いた態度だったなんてまったく理解できなかった。この二人、どれだけツーカーの仲なんだろうか。いや、夫婦ってこういうものなのかもしれない。
 「あの、城ヶ岬君のはなしは・・・・」
 「え、あ・・・・ごめん」
 話に夢中になってしまっていた。そもそも、城ヶ岬のことに関してどうしようかと、公園からこっちに移動してきたんだ。
 「いいんじゃねぇの、こういう時間も。とりあえず、全員無事だし」
 「落ち着いてるのね君、当事者じゃないからかしら?」
 と、場を落ち着かせようとしている一臣さんにハルさんが挑発するように聞いた。だとしてもそんな言葉に一臣さんは動じることなど無かった。むしろ、まさかと苦い笑顔で済ませていた。
 「馬鹿いわないでくださいよ。直接関わっていない人間がいないなんてことがないんですから。俺は輝の友達で、真の幼馴染、これだけ条件そろってれば当事者ですよ。というかこれ以外にも当事者たる資格はあるんですから」
 「へぇ、是非聞かせて頂きたいわねぇ。戦国グループの御曹司様」
 「―――――知ってたんですかっ」
 ハルさんの撫でるような声に僕は待ったをかけた。ばれてる、一臣さんが一般人と違うところを知られていた。
 「名前を聞けばわかるわよ。戦国なんて苗字、一つしかないし」
 「落ち着けよ輝。俺がどこのどいつかなんてこの場に意味はない。あるとすれば、その立場くらいか」
 一臣さんはどうしたものか、と自分のあごを撫でた。
 「立場?」
 「そういえば、そうだったわね。戦国グループは、城ヶ岬グループに飲み込まれかけてるのよ」
 「え?」
 なにそれ?それっていわゆる吸収合併とかって奴ですか母さん?でも、それって経営が不振になっている企業に対して調子のいい企業が行うことのはず。戦国グループは、傾いているそぶりなんてまったく無いじゃないか。
 「良くご存知で、っていっても一部の業界じゃ話は行き届いてるか。輝知ってるか、ウチの親父の身内愛主義のこと」
 「え?うん、一度会ってるから。大企業の責任者なのに、すごく立派なひとでお金持ちを鼻にかけないし、下請け会社の社員の名前まで覚えてる素晴らしい人だったね。僕は自分の父さんが一番だけど、一臣さんのお父さんも輝いて見えたくらいだもの」
 本当にあの人は素晴らしい人だ。大企業の責任者で忙しいというのに、どんなに簡単な商談でも一生懸命で、相手を考えていて、社員も重役も家族も、みんなを平等に扱う経営者の鑑みたいだった。それが、どうしたのだろうか。
 「今はそれが仇になってな。城ヶ岬グループは、国立国際総合学院のメインスポンサーなんだよ。国立といっても十割国が金を出してるわけじゃないしな。んで、そこの生徒のトップが俺だっていうことも知ってるんだよ」
 「はっは〜ん。学校の出資を止めれば何かに理由をつけてそれが戦国グループが原因だって言い広めて、君の立場を悪くし、グループのイメージも悪くして、会社と学校で立場を落とさせるって腹ね」
 「ひどい、そんなくだらないことで・・・・」
 真が一臣さんに言葉を投げかけた。まったくだな、と一臣さんも頷いてため息を吐くしかなかった。話はそのまま続いた。
 「もちろん、そんな攻撃的なことを直接言ってきたなんて事はない。俺はその場にいなかったが、日本人特有の回りくどい言い回しで親父に伝えたんだろう。親父はそれを察すると、家族や社員を路頭に迷わすくらいなら自分の席を譲っても構わないと、俺や母さんに言ってきた。親父は、自分を犠牲にして家族と一万を超える社員を守ろうとしてるんだ」
 「一を捨てて全を助ける、か。天秤にかけられているのが自分自身だというのが幸いだったんだろう」
 「父さん、そんな言い方は無いだろう。僕の友達のお父さんなんだよ、努力して築き上げた地位を簡単に壊されそうになっているって言うのに―――――」
 「落ち着け輝!」
 僕が少し取り乱した瞬間、父さんはこれまでにない大声で僕をどころか、その場を支配してしまった。怖い、普通に怒鳴られただけなら僕は不機嫌なままで押し黙るだけかも知れない。でも、父さんはそれすらも許さず、僕の不満を問答無用で殺した。怖いとしか言いようが無いその雰囲気。僕だけだろうか、本当に殺されそうだ何て思っているのは。
 「お、旦那が久しぶりにご立腹ぅ?和解わねぇ」
 「だからからかわないでよ。男同士の話し合いでしょ」
 「父さん・・・・?」
 「客人の前で失態を晒させやがって。本当にお前のそういうところは昔の母さんにそっくりだな。いや、俺にも良く似ている」
 私を引き合いに出さないでよ、と母さんもちょっと不満そうに父さんに言った。この状況にただただ驚いているのは、一臣さんと真だけだった。僕は、視線をそらせなかった。
 「いまだに状況の整理中だというのに混乱するんじゃない。母さん、俺が襲われたときにやってきた男、カラスと名乗っていた。それとこれを使って情報を集めろ」
 父さんは、着物の袖からカードを取り出すと母さんに渡した。そこには目つきが悪く髪の毛を茶色に染めてオールバックに固めた人物が写っている。ただそれだけのカードだった。何も書いていないし彫られてもいない。
 「情報集積回路内蔵の物かしら。とりあえず、預かっておくわね」
 母さんはそれを手にとってポケットにしまった。
 「な、何をする気ですか・・・・?」
 一臣さんが恐る恐る尋ねてきた。真にはそれを聞く勇気が無く、不安そうに座っていたのをみかけて、僕は手を握ってあげた。
 「今回ばかりは、この子にも手が負えそうに無いから、家族総出で解決することにしましょうか。生徒だけのいざこざのはずが、大人まで出てきてるんだから。でも、輝のミスではないとしても予定外は困るのよねぇ。戦国グループを助けるのは、学校からの依頼には入っていないし」
 こまったわぁ、と母さんは何かとんでもないことを口走り始めた。あれ、もしかし仕事モードの始まりですか母さん。
 「お礼なら、父に言って用意させます。ですから力を―――――」
 「あら、いらないわよ。ついでだし」
 やっぱり、仕事モードの母さんだった。母さんが仕事モードに入ったとわかる瞬間には二通りあって、一つは本当に怒ったとき、そしてもう一つは事件解決の見返りをお金以外でもらうとき。
 一臣さんはお父さんに言っていくばくかの謝礼をといったけれど、母さんはそれを簡単に断った。お金よりも欲しい物があるに違いない。それを求めるのはいいけれど、求める先がいつも一定じゃないんだ。そう、僕にだって求めてくるんだから。
 「私ね、知りたい事があるの。輝、さっき砂野さんのこと真さんって言ってたね。この間まで砂野君って、苗字で君付けだったのに、どういうことなのかしら?」
 母さんは探るようにやさしい声音で聞いてきた。僕はびくりと肩を振るわせた。今回の報酬はこれだった。そして、やっぱり誤魔化せなかった。注力が強すぎるんだよ母さんはもう。
 僕は真を見る。と、仕方ないよって感じで笑顔を見せてくれた。握っていた手に力がこもる。はぁ、と一度息を吐いて母さんに向き直った。
 「クラスメイトの、砂野 真さん。僕の―――――彼女だよ」
 ま、こういう紹介の仕方も、悪くないかな。


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Novel Editor by BS CGI Rental
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