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探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第25回   25
 「父親の支配欲の強さ。というよりも、女性に対する扱いの教えだよ。彼の父親は女性を明らかに隠したに扱う人間なんだ。だから、罵ることや罵倒することは至極当然で、暴力にいたっては必要性があるなんて口にしているらしい。それが間違っていることは他の人たちはわかっている、でも、反論できないんだ。トップへの口答えなんて、早々出来るものじゃないからね」
 そういうことだよ。と僕は完結させる。
 「それじゃあ、口答えすると、どうなるの・・・・」
 「クビで幸い、財産差し押さえや家族崩壊。ともかく、酷い結果が待っている」
 「ちょっとまてよ。じゃあなにか、城ヶ岬は、女は男以下で下等だと教育されているって理由で真を虐めているって言うのか!?」
 僕は頷くしかなかった。
 「ならおかしいじゃねぇか、真が女だって知ってるのは俺と今はお前だけのはずだ。城ヶ岬には教えては―――――」
 「情報網は、向こうのほうが上なんじゃないかな・・・・」
 僕の言葉に一臣君は黙った。真は、嫌なことを聞かされたと、うつむいて震えていた。
 「僕みたいな個人が調べられる情報を、巨大なネットワークの化身が無理ということは無いと思う。城ヶ岬は、真が女のくせに男の格好をして生意気だ。そんな低俗な理由で、真が男装をしている理由も考えずにイジメの対象にしているんだと思う」
 ふざけるな、一臣さんはベンチを殴りつけて叫んだ。怒った一臣さんを見たことのない僕は少し驚き、真は泣きそうなくらいに手が震えていた。僕はそっとその手に自分の手を重ねた。
 「異常だよ。自分が受けた教育が全てだと決め付けて、人の気持ちを考えないで、人を迫害し支配しようとする。でもね、城ヶ岬には罪は無いんだよ。罪は彼の父親にあるんだから、彼は間違った教育で今の人格を持っているんだ。正しさを教えれば、更生は可能だと思うよ。時間は、かかると思うけどね」
 「そんなことより、お前は大丈夫なのかよ」
 険しい顔のまま僕に向き直る一臣さん。
 「僕?」
 「そうだよ、そんなこと聞かされて、今まさに楯突いているお前は最大の標的じゃねぇかよ!」
 「あ―――――あ、輝君っ」
 はっ、となり真が僕の顔を心配そうに見てきた。そうだよね、そうなるよね。
 「入学してすぐ一人が城ヶ岬にはむかったために退学した記録がある。真も顔くらいは覚えているかもしれないけれど、退学の真実を知らない一人だろうと思う。二人とも聞きたい?出来れば、聞かないほうがいいかもし―――――」
 「ここまで聞いておいて、出し惜しみするな」
 一臣さんは強気に答えた。僕は真を見る。当然、自信たっぷりに聞かせてくれと目は言っていない、でも、そこには自分が一緒に立ち向かっているという覚悟が感じられた。僕は頷いて口を開いた。
「その生徒はとても読書が好きで自分でも小説を書いていて、将来は小説家になるという夢があった。この学校に入ったのは目標とする小説家の母校ということもあって同じ土俵に立つために一生懸命勉強したんだろうね。合格したときの嬉しさは、絵にもかけないよ」
「・・・・」
「・・・・」
「でも、振り分けられたクラスが運命の分かれ道だった。正義感もあったんだろうね、城ヶ岬の一方的な言い草に腹を立て、意地になってはむかった。結果、理由も不明のまま彼の入学内定が入学式の後に取り消された」
 ばかな、と一臣さんは目を見開いた。そう、本来はありえない。入学式まで済ませたのに内定の取り消しなんて、入学の基準に達しているからこその入学合格なのに、それが取り消されることは、ありえない。でも、城ヶ岬がそれを可能にした。
 「そんな、可哀想だよ・・・・」
 「まだ終わってないよ。簡単にクラスを支配できると踏んでいた城ヶ岬の出鼻を挫いた彼の不幸は、終わっていない。彼は追い討ちをかけたんだ」
 追い討ち?と、何のことか判らない顔で二人は僕の言葉を待った。僕は本当に教えていいものか、躊躇した。でも、話し始めて止めることは、出来ない。
 「彼には、妹さんがいてね。彼氏もいたらしい。付き合い始めて一ヶ月くらいの、初々しいカップルだった。それを壊したんだ、城ヶ岬は」
 「おい、それって・・・・」
 「いや、そんな・・・・」
 「記録にはあまり名前の知られていない学校の柄の悪い連中が、城ヶ岬と会っているのを見かけられてる。その集団は、彼の妹を襲い、輪姦した。徹底的に」
 真を口元を押さえた。
 「まだ、彼氏と夜も過ごしたことのない未経験の女の子を、城ヶ岬は自分の手を汚さず壊したんだ。もちろん、状況証拠ばかりで立証なんて、今のところ不可能だけどね。この行動も、内定を取り消させただけでは収まりが付かなかった追い討ちさ。おかげで、妹さんは人格が崩壊し、リストカットまで行い精神科に今も通っている」
 僕はそこで一度、話を区切った。でも、終わっていない、この追い討ちは、あと少し続いている。口から搾り出せるか、正直、怖い・・・・。
 「この事件がきっかけで、退学させられた生徒は自分の責任だと感じ、ふらりと出かけたまま三日帰ってこなかった。見つかったとき、彼は隣町で、町を一望できる展望台から飛び降りていた。そして、期間限定だったけれど、彼の妹さんの輪姦の映像はネットに流され多くの大衆の目に晒された。もちろん、流出場所なんて、わかっていない。かろうじて一部を拾って確認したけれど―――――」
 「・・・・おい、どうしたんだよ」
 「あ、輝君・・・・?」
 僕は自分の手を見せてみた。ちょっと痣になっているのがわかった。
 「あまりの光景に、パソコン壊しちゃった。誕生日に母さんが買ってくれたんだけど、あはは・・・・」
 それほどまでに、酷い状態だった。やらせじゃない、十割が十割とも実際に出来事の記録だった。まだ、彼女の断末魔にも似た悲鳴が耳に残ってしまっている。おかげで、母さんたちに心配をかけてしまった。
 「そんな、そんなの・・・・」
 「彼の両親は離婚した。妹さんは母親が引き取り、今もどこかで暮らしている。それが城ヶ岬の出鼻を挫いた、彼と彼の関係者の、代償。彼が自殺したことも伏せられ、誰も聞いていないだろうけど、事実なんだ」
 「そんなことをする奴が、今まさにお前は楯突いてるんだぞ、お前は確か、兄弟はいなかっただろうけど、だったら―――――」
 一臣さんは解り切った事を緊迫した顔と声でたずねてきた。わかってるよ、僕には兄弟がいないんだから、残っているの僕と両親だけだ。
 「そうだね、父さんと母さんが、標的かな」
 そんな、と二人とも言葉を詰まらせた。まったく、こういうことになるよねぇ、本当。もう夕方か、父さんは散歩の時間だし、母さんは夕飯の買い物中かな。


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Novel Editor by BS CGI Rental
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