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探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第24回   24
 「真は、女だ」
 公園移動し、真君を僕と一臣さんの二人で挟んだ形で三人でベンチに座り、一息ついたところで一臣さんは僕にそういった。
 「ようやく、教えてくれたね。あーでも、公衆の面前でのカミングアウトはビックリしたかな」
 とりえあえず素直な感想を口にしてみた。それを聞いた真君は思い出したように顔を真っ赤にしだした。
 「ボ、ボクはあの・・・・言うつもりは、あったんだけど・・・・」
 「いう機会を逃して、先に知られちまったんだ。許してやれよ」
 「え?別に僕は怒ってないよ。ただ、やっぱり本人の口から聞きたいなぁって思って。そしたら、ちょっと順番が入れ違った真実を聞かされちゃったけど」
 「あうううううううう・・・・」
 追い込んだつもりは無いのだけど、なんか追い込まれた形で更に顔を赤くする真君。でも、いつまでも伏せてばかりでは駄目と悟ったのか、顔を覆った手の隙間から僕をうかがって、やがて口を開いた。
 「ボク、知ってのとおりちゃんと自分の意見がいえなくて、なんでも遠慮なく言える男の子が憧れだったんだ。べ、別に本当に男の子になりたかったんじゃなくて、気持ちだけでも変われたらって思って・・・・制服に規制が無い今の学校を選んだんだ。中学のときの子はいないから、男子の制服を着ても大丈夫だったから」
 「そっか、あいにくとそこまでは調べるのは失礼だったから、真君から離してくれてよかったよ。一臣さんは、知ってたんですね」
 「まあ、幼馴染だしな。ただ、こういうのは本人の問題だからな。俺が教えてもなんの意味もないってだけだよ。見てのとおり、男装して人を欺こう何て考えは、こいつにはないからな」
 「うん、見れば判る」
 「ひ、ひどいよ、二人とも・・・・っ」
 僕と一臣さんの言葉に若干むっとする真君。学校でも、今もどちらかといえば男性用の服を着用しているのでそれは判りにくいけれど、女の子だと知って接してこの結果だと、まあ、可愛いと思える。
 「で、女だってわかって輝、感想は?」
 「うん、可愛い女の子だね。むしろ女の子でよかった」
 「ひぇっ!?え、あ、いや、あうううう・・・・」
 何回いじっても楽しい。ああ、違う違う、こういうことをするんじゃなかった。とりあえずちゃんと説明しないと。
 「僕のインスピレーションは間違っていなかったね。真君は僕にとって信用の置ける友達だし、男性だと思って近づいたから違和感があったんだね。でも、女の子だってわかってその違和感も解消したよ」
 「・・・・ごめんね、変に勘繰らせちゃって」
 指をもじもじと弄びながら横目で僕に謝ってくる真君はとてもいじらしい。と、ここではそう思うとしても、まだ話すことはある。順番の変わった先ほどのカミングアウト。今度はそれが一番気になるな。
 「謝らなくていいよ。それよりも、さ。さっきの言葉の意味が、知りたいな」
 「さっき・・・・あ、あれは、その違くて」
 「ん?なにが、違うのかな?」
 つい、と少しだけ真君に顔を寄せてみる。恥ずかしそうにちょっと体を遠ざけようとするけど、反対には一臣さんがいるので大きくは避けられなかったようだ。
 「だから、その、ボクが好きって言ったのは、その・・・・」
 「うん、教えて欲しいな。駄目、かな?」
 「えと、その・・・・あう、ボクは、だから、輝君が・・・・
 もう逃げられないと悟り、顔を真っ赤にして大切なことを口にしようとしている姿がとても可愛らしくて、僕はより一層顔を近づけ、とうとつ口を耳元まで持ってきた。
 「僕も好きだよ、真のこと」
 囁くように、僕は『真』へ言葉を伝えた。違和感、そう、僕は最初から違和感があったんだ。真と初めてであった瞬間から。それは男女の違うという違和感が半分だったけれども、まだ半分、違和感があった。
 僕は、女性に恋したことがなかったから、それが何なのか、判らなかったんだ。男だと決め付けて接した真。今だからわかる、僕は彼女に、一目惚れしたんだ、ってね。
 違和感の半分は数種類。
 恋という感覚への違和感。
 男へ恋したという違和感。
 一目惚れという感覚への違和感。
 その全部が、彼女が女性だったという結果と、僕が彼女を好きであるという結果と、彼女が降す真実によって甲斐される。二つはわかったから、あとは真が教えてくれれば全部解決。
 僕は、顔を離して真の目をみた。僕は、彼女の言葉を待っていた。
 「―――――ボクも、輝君が、好き・・・・です」
 一生懸命に目を見てくれて、必死になって言葉を搾り出してくれて、そして僕の違和感は全て解決した。そっと、彼女の顔に手を添えてあげた。
 「可愛いね、本当」
 ゆっくり撫でる赤い頬、やっぱり一目惚れだ。だって、こんなにも愛しいんだから。
 「なぁ、俺帰っていいか?」
 「あひゃあっ!?か、一臣君、ご、ごめん・・・・」
 真の上からの声は一臣さんのそれ。真は避けに避けたから、すでに一臣さんにもたれかかってる状態だった。それに気づいて慌てて飛びのいたのだ。
 「ごめんごめん、すっかり視界から消えてたよ。―――――ん、あれ?もしかして僕かなりまずいことした?」
 自分の気持ちが少しばかり暴走してしまったことで、僕と真の告白劇は幕を閉じたのだけれども、よく考えれば一臣さんは真の幼馴染じゃないか、もしかすると真を狙っていたのは一臣さんも同じなのかもしれない。
 ということは、僕と一臣さんとで真を取り合うのだろうか。彼女を板ばさみにして僕と一臣さんが壮絶な戦いを繰り広げ、最後には血を見るような大事に―――――
 「ならない、ならない。バカを言うな、輝」
 「あれ、なんで考えてることが解ったの?」
 「こ、声が、出てたよ・・・・」
 それは不覚だった。気をつけないと―――――ん?ないって、何が?
 「確かにな、俺は真の幼馴染だしはっきり言って輝より真のことをよく知っているといっても過言ではない。小さいときには一緒に風呂に入った仲でもある!」
 「うらやましいですね」
 「ちょ、ちょっと一臣君、なにをっ・・・・」
 「だが、俺は真に振られたのだ!よって、好きだったということになる」
 と、こちらもこちらでちょっと言いにくい事を大声でカミングアウトしてくれた。それならそれで嬉しい限りです。
 「ふーん、やっぱり幼馴染だね。簡単に関係は崩れない、か」
 「おーなんだ?ジェラシーか?真本人を手に入れておいて、まだ欲しがるのか?この欲張りめ」
 「あはは。惚れた手前、もらえる物はもらっておきたいねぇ。まあ、取り上げたりしないけどさ。それじゃああれかな、一臣さんは独り身で寂しいんですか?」
 「まさか、俺を舐めるなよ。会長のモテ力は伊達じゃないんだからな、今は副会長の女子を俺の専属の―――――あ」
 「・・・・一臣君、最低」
 「だそうですよ」
 「ち、違う!冗談だ冗談、健全に付き合ってるつーの!」
 と、まあ言い訳がましい一臣さんの言葉は流すとして、まずは一段落ということにしておこうかな。それじゃあ、本来の話を始めないといけない。
 「城ヶ岬は、だから真を集中的に虐めていたんだろうね」
 「―――――え?」
 「どういうことだ?」
 僕の話の切り替えは気にせず、二人は疑問を口にした。城ヶ岬は、調べれば調べるほどに酷く捻じ曲がった思想を持っているらしい。原因も、はっきりしている。僕はそれをかいつまんで話しを始めた。
 「城ヶ岬はね、今現在母親がいないんだ」
 「お母さんが、いない?」
 「死んだのか」
 一臣さん、城ヶ岬のことだからってそういう失礼なことを言うのは駄目ですよ。他人の事情を調べるんだからそれなりに弁えてください。
 「死んでません生きてます。城ヶ岬の父親は既に離婚しているんです」
 「離婚か、なるほど。ん?なんでだ?」
 もっともな疑問が一臣さんから出てきた。あれだけの財産と権力があるのにどうして離婚をするのか、確かに疑問には値する。
「父親は野心家であり、支配欲が人一倍強いという話で、別れた奥さんにも強く当たっていたらしいんだ。権力や財力があっても肉体精神ともに耐え切れなくなったんだろうと思う」
「ひどい、自分勝手・・・・」
真が顔をしかめて呟いた。まったくだ、自分が家の主で稼ぎ頭で責任者であるから、だからなんだというのだろうか。そんなもの多く持っているか少ないかの違いでしかなくせに、伴侶に当たるなんて、頭がおかしいとしか、僕には考えられない。
「そう、酷い物だよ。でもね、問題は、夫婦間のいざこざで別れただけなら問題ないんだけど、それが息子の城ヶ岬修一郎にも伝染しているというところが、問題を継続させているんだ」
 「伝染・・・・?」
 「そう、精神的病気にも似た伝染病。それが城ヶ岬にかかっている病気ともいえる」
「なんだそりゃ、そんな病気があるのか?」
わからないな、と一臣さんは首をかしげた。当然だ、まともな人間ならそんな病気には絶対にかかることはないんだもの。
「体は健康だけど、心が間違った方向に向かっている病気。城ヶ岬が小さい頃から、彼の父親は母親にきつく当たっており、父親は子供にそれは正しいことだと自分の中の正義を押し付けて育てたらしいんだ」
「そんな・・・・。そんなの父親でも、夫でも、ないよ・・・・」
愕然とする真に僕は頷いてこたえた。そう、でも、そういう人間が現に存在しているんだから仕方がない。話を続けた。
「母親は離婚のときに息子の取り合いをしなかったという記録もある」
「そりゃそうだ、どう考えたって財力も権力も設備も、父親のほうがはるかに水準以上なんだ。親としての責任を負えられるかなんて審査とかもあるらしいけど、そんなあくどい人間だ、審査官を欺くことなんて朝飯前だろうよ」
腹立たしそうに苛立ちを見せる一臣さん。その言葉のとおり、そういったことが理由で城ヶ岬は父親のところにいるということだ。
「そのとおりだよ。裁判や法廷は成否を判断するところじゃないからね」
「え、ち、違うの?だって、法律って善悪を判定するものじゃ・・・・」
「違うんだよ、それがな」
一臣さんが苛立たしげに口にした。
「法律ってのは、あくまで決まりごとの羅列だ。裁判や法廷は、その決まりごとと照らし合わせて合致するかそうでないかだけを判断する場所だ。だから、持って来た材料や既にある材料を足し算引き算して、結果決まりごとに合致していなくてもそれに近いほうが勝ちなんだよ。だから、本当は無罪でも、材料が足りなくて有罪になることなんて、当たり前のように存在しているんだ。それが、この国の決まりごとの全部だ」
「そんな、それじゃ城ヶ岬君のお母さんが可哀想・・・・」
 「うん、僕も思うよ・・・・。おかげで、城ヶ岬は今日まで父親から間違った教育を受け続けていたんだ。その中に、真を集中的に虐めてくる項目がある」
 「―――――え?」
 「なんだよ、それ」
 二人は話への興味が高まったように僕へと詰め寄った。でも、その答えはもう口にしているんだけどね。言い方の問題、って言うことなんだろう。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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