「親父、で、用意はしてくれたんだろ?」 部屋、というにはあまりにも広い。会議室として使うにはちょうどいいかもしれない。そんな大きな部屋で、城ヶ岬修一郎は問いかけた。 「当たり前だ。まったく、私の息子に歯向かいおって。長い物には巻かれろ、これは先代からの教えだ、私も先代にまかれ続けてこうして今の地位にいる、修一郎、お前も私にまかれていれば、将来は何の問題も無い」 「何度も聞いたよ。今はそんな先のことより、桐夜を泣かせてやれりゃあそれでいいんだよ。あいつ一人っ子だし、親が痛い目を見れば堕ちるだろうよ」 邪悪な笑顔で城ヶ岬修一郎は己の父親をうかがった。 「ただ、気になるな。その桐夜とかいう生徒の親は、自営業らしい。クビだとかそういうことには出来そうにない。そうなると―――――」 「いいじゃん、物理的にいためつけりゃあ、得意なのいるだろ。拷問好きと人妻好き、両方けしかけて、体が動かなくなるまでいためつけりゃあいいじゃん。俺は桐夜本人がそれ見て泣いてるのを確認できりゃあそれでいいさ。親父のことだから、朝飯前だろ?」 けらけら、とまるで遊園地に行く前のはしゃぐ子供のようだった。悪、ここまでの悪を人は抱くことが出来るのだろうか。まるで、それが当たり前のように、それで普通だといわんばかりに、他人を支配することが全てのように、邪悪に笑った。 修一郎の父親はカウンターへ移動すると自らの手でグラスをブランデーを選びグラスにそそいで飲み干した。 「それよりも、新しくグループ会社を吸収できる商談がまとまりそうだ」 「へぇ、どこさ?」 「プリンター技術で世界基準レベルの経営を持っている戦国カンパニーだ。あそこの技術が手に入れば、今度は自社で広告業にも手が出せる。コストは下げられて売り上げは伸びるばかりだ。うはははははは」 「戦国?ってーと、もしかして国際学園の戦国って生徒会長の野郎の爺さんが社長のあの戦国カンパニーか?」 「なんだ、知り合いか?確かに年寄りだが、一応は妻子もちだ」 修一郎は、その質問に何かを思い出し、そして更に獲物を見つけたような目でその瞳に濁った光をともした。 「ちょうどいいや。俺、そいつに昨日会ったんだけどよ、むかつく態度取られたからそいつも痛めつけるわ。国際学園てウチがスポンサーだろ、吸収されなかったら出資打ち止めって言っといてよ。かかかか、楽しくなってきたぜ!」 「さすがに私の息子だ。考え方がすばらしい。とりあえず、おい」 「ここに」 父親に呼ばれ、黒尽くめの男がやってきた。 「カラス、この二人、痛めつけろ。コンドルも連れていけ」 「コンドル、ですか?っていうことは、女がらみですね」 「余計な詮索をするな!カラスは男を、コンドルは女を痛めつければいい。さっさといけ!」 「御意に」 そういうと、カラスといわれた男は音も無く下がり部屋から姿を消した。それを見届けると修一郎はふん、と鼻を鳴らした。 「口数の多い実行部隊だな。アイツ」 「好奇心が多いんだろうが、これ以上口答えが多ければ入れ替えが必要だな。まったくどいつもこいつも・・・・」 イラついたようにブランデーを注ぎ飲み干す。 「まあいい、私たちこそが頂点だからな」 「違いない、かははははは」 下卑た笑いが、広い部屋に木霊す以外に声は無かった。人として、他人が見ればどうなっただろうか、それは、誰にもわからないことだった。
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