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探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第22回   22
 ウィンドウショッピングは何の滞りも無く予定通りに進み、お昼にはオープンテラスで三人そろって食事をして、道行く人々を眺めながらしばし休憩。なんて、まるで普通の友人三人のような構図だ。
 いや、この構図は間違いなく仲良し三人組であるんだけど、気が緩められないという気持ちも共感しているわけで、やっぱりひと時の休戦のようなことでもあるんだろうね。それでも僕は構わないと思う。戦士にだって休憩はひつようだもの、戦い続けていれば、人間ならその内事切れる。
 こういう時間は、大切だよ。ただ―――――やっぱり僕には、目的が伴ってしまうところが、悲しいような気がしてならないんだけどね。
 「いやぁ、午前中から歩き回ったなぁ」
 「そうだねぇ、ウィンドウショッピングのつもりが、結局気にいったものも買っちゃったし。まあ、僕のじゃないけど」
 「あ、ご両親に、だっけ?」
 僕は傍らにおいてある袋を見て頷いた。
 「そ、両親に揃いのカップをね。子供の僕から見ても、息の合った二人なんだけど、揃いの物って一つもないんだ。二人とも自分の好みでものを揃えてるし。ああ、まあ揃えてるのは主に母さんだけかな、父さんは物をあんまり買わないし」
 「親孝行は良い事だな。無駄な憂いが無ければなおさら、なんだがな」
 「一臣君・・・・」
 「いいよ、そのとおりだし。僕も同じさ、こうして楽しい時間を過ごしているっていうのに、頭の隅じゃ城ヶ岬をどうしようかなんて考えてるんだから。それくらい、彼のやり方は間違いだらけって言うことさ」
 僕は軽口を叩くけれど、真君は不安の表情で、一臣さんは腕を組んで黙している。一臣さんは部外者だから、この問題に深くは口出しできないけれど、こうして一緒にいてくれるだけでも、結構嬉しい。本人は忙しいはずなのに。
 「さて、城ヶ岬の話も出たことだし、不本意だけどその話をしようか」
 「え、あ、うん・・・・でも、城ヶ岬君の何を話すの?」
 「素性とか、ああいう性格になった理由、とかか?」
 「そんなところ」
 僕は懐からメモ帳を取り出してぱらぱらとめくる。と、目的のページの手前で気になる物を見つけてちらり、と真君を見る。一瞬真君は「うん?」と首を傾げたけれどとりあえず無かったことにしてページを数枚まためくって手を止めた。
 「一応ね、色々調べたんだ。城ヶ岬修一郎っていう人間に関してね」
 「あ、あの、いいかな、桐夜―――――」
 「輝、そう呼んでって言ったよね?」
 僕の指摘に、はうっ、と息を詰まらせて真君は節目がちに頬を赤くして上目遣いでこちらを窺っていた。
 「あ、えと、あ、輝く、君・・・・」
 「うん、何かな」
 ちゃんと名前を呼ばれたので笑顔で返事をする。すると、真君は何かを決心したように一泊置いて僕を見据えてきた。
 「あ、輝君は、その、どういう人、なのかな・・・・」
 「うん?と、いうと?」
 その意味を、僕が理解できないわけではなかった。自分の言い方が不適切だったのかと恥ずかしくなって顔を伏せた真君の隣で一臣さんも何かを思うように視線を真君に合わせて、そして目配せのように僕へと移す。
 「そ、その、ずっと考えていたんだけど、転校してきたときからまるで城ヶ岬君に挑戦的だったし、えっと、まるで城ヶ岬君がいるのを知っているような態度で、決められたようにこういうことになったから、あ、輝君はなにか事情があるんじゃないかと、あ、ご、ごめんね!余計なこときいひゃっ!?・・・・ひ、ひたい・・・・」
 あまり長く喋ったことが無いように見える真君。余計なことを聞いたと謝りたかったのだろうけれど、呂律が回らず舌を噛んだようだった。目じりに涙をためて口を押さえている。
 かわいい、と僕も一臣さんもそう思った。と、僕は小さく息を吐いてまいったなと小さく呟いた。
 「そっかぁ、そこを疑問に思われちゃったか・・・・。友達をだますのは、やっぱり駄目だってことなんだろうねぇ」
 「え、だ、だますって・・・・?」
 「輝、城ヶ岬のことよりも先に、お前のことを話せよ。別に聞かれて困ることでもないだろう」
 そうだね、出されたアイスコーヒーのストローを持ってグラスの中の氷を突き崩す。とりあえず、話すことといったら限られていた。
 「うーん、と。僕はね、請負屋なんだ」
 「・・・・請負?」
 「そ、理事長先生から直接両親に話があって、担任の大河内先生も知ってる。でも、先生は強くいえない性格だし、君が虐められている光景をはっきり見たわけじゃないからとめることができなかったんだ。先生は悪くないよ、それを掻い潜ってる城ヶ岬が慣れてるだけなんだよ」
 僕は淡々と語るけれど、はたして真君はどこまで付いてこれてるのだろうか。
 「両親はもっと大変な仕事を担当しているから、僕がこう言った事は請け負っているんだ。今回で四回目、いまだに勝手のわからないペーペーだけどね」
 「前回は、俺のところだった」
 「か、一臣君・・・・?」
 「そうだね、一臣さんが高校一年、僕が中学三年で、成績がいいから一つ繰上げで編入してきたって言うことにして国立国際総合学院に入ったんだ」
 「そ、そのときは、何をしたの?」
 お?なんだか食いついてきたね、そういう好奇心が強いのは好きだな。
 「派閥争い、国際っていうくらいで野心家が多くてね。一年生になったばかりとはいえ一臣さんは中学部で生徒会長をしていた人だから、一臣さんに付く人がいたんだけど、もうひとり、リーダーの気質の人がいてね。高等部の全員巻き込んで派閥争いがあったんだ。高等部は全部で二六五四人いて、見事に真っ二つに割れてね。賛成派が多いほうが譲るって、僕が来たときから決まっていて、僕一人を獲得するのに一臣さんと争いあいてそっちのけで僕の取り合いがあったんだ。派閥に勝てば生徒会長にもなれるし、高等部の生徒会長といえば特権階級だし、そりゃあ争いは激化するよねぇ」
 「あ、輝君は、それでどうしたの・・・・?」
 「どうしたもこうしたも、僕は派閥争いの沈静化が目的だったからね。派閥の中心である二人を調べたさ。結果としてはどっちにも付かなかったけどね。僕がどっちかに付いたって捨てられたほうが反発するに決まってるんだから。二六〇〇人の半分から追い回されるなんて御免だよ。民主主義で決めてもらった」
 「多数決、っていうこと?」
 「そういうことだな。だが方法は複雑だった。『正直村と嘘吐き村』の話、真も知ってるだろう」
 「え、うん、知ってるよ。それがどうしたの?」
 「そのシステムを盛り込んで一臣さんと相手にフラッグの争奪戦をしてもらったんだ。もちろん体力だけじゃなく知力と人材と器量と人間力を総合的に測れるやり方で。説明が細かくなるからこれ以上の説明は省くけど、ようは、みんなが納得する方法で勝負してもらった、そういうこと」
 あれは本当に壮絶だった。考えた僕も、よくあんなことをさせたものだと思う。血が流れなかったのが不思議だし、死人が出なかったのは奇跡だった。一臣さんも相手も死に掛けたし、人間力を測るはずがなんか一騎当千みたいになっちゃったし・・・・。思い出すだけでも恐ろしい。
 就職した人間は三週間、三ヵ月、三年と、三を区切りに堕落するという話があるけど、まさか三回目で調子に乗ってあんなことをするとは思わなかった。
 「で、俺の勝ち」
 「そうだね。一臣さんは僅差で相手からフラッグを奪ったんだ。まあ、そこにはちゃんと公平性があったから相手とも和解したし、上場だったとおもうよ」
 「そっか、よかった・・・・。でも、すごいね輝君、ボクにはそんなことできそうにないや」
 真君は安堵したように息を吐いた。一臣さんと真君は幼馴染だという、互いに別な高校へ行ってしまって、二人とも自分たちの動向が気になっていたのかもしれない。僕にはいないなぁ、そういう人。しかし、真君の言葉はちょっと納得できなかった。
 「・・・・」
 そうなると、やっぱり細かい隠し事って、もうイヤになってくるなぁ。
 「輝、どうした、ぼーっとして?」
 「えっ、ぼっとしてた、僕?」
 二人とも頷いてくる。そっか、と僕は軽く笑う。
 「それじゃあ本題に―――――はいる前に、情報公開をしようか」
 僕は声色を少し変えてそう言った。若干沈んだ雰囲気に、二人はあれ?と僕を注視した。僕は既にページをめくっていた。
 「まあ、僕が請負屋だっていうのは、城ヶ岬の事件が終わったら真君に言うつもりだったんだけどね。一臣さんにも教えたし」
 「そうだな」
 「へぇ」
 「で、今回の件で城ヶ岬を調べたんだけど、僕は母さんの影響でとことん調べないと気がすまない人間なんだ。だから、請負屋なんてできるんだろうけど」
 僕はそういって二人の顔をうかがう、一臣さんは特に変化は無い。いや、内心では何かを思ってるはずだ。やっぱり、とか、ようやく、とか。対して、真君の反応は素直だったから印象的だ。核心を疲れたときのように体がちょっと震えたあと、不安そうな表情になた。正直者は好きだね。
 「城ヶ岬のことを調べるとね、色々と知りたい事が分岐して来るんだ。彼がどうして人を僕扱いするのか、どうして人に暴力的なのか、どうして―――――砂野 真だけを虐めているのか」
 「あ、う・・・・」
 「砂野 真はクラスでも大人しい部類に入る人間だ。失礼だけど自分から積極的に意見を言うことはないと思う。だから、城ヶ岬が従えと全員に口にしたとき、砂野 真も致し方なく賛同することだろう。でも、反抗すらしない砂野 真を城ヶ岬とその下っ端はいいように扱いストレスの吐きだまりにしている。それは、どういうことか。それは多分、砂野 真に面白いいじりどころがあるから、と僕は思うんだ」
 「輝、お前・・・・」
 「一臣さん、だまっててください。ここからは僕と真君の会話です」
 僕は一臣さんに手を向けて制した。それで、一臣さんは口を閉ざした。僕は改めて真君を見据える。
 「友達に、なりたかったんだ」
 「・・・・え?」
 「僕はね、インスピレーションだけは間違えたことが無いんだ。小学校のときも、中学校のときも、一臣さんのときも。だから、一目見て、砂野 真という人間を気に入ったんだ。この人なら、僕の信頼できる友達になってくれるって。でもね、今回のインスピレーションは何か不自然だったんだ。君と友達になりたいって言うのは本当だけど、何かが違うような気がして、僕はなんで城ヶ岬が君を虐めているのかなんて、ひねくれたことまで調べてしまったんだ。友達を調べるなんて、僕の中では最低なのにね。ごめん」
 ははは、と心の底から自虐を思い笑ってみる。でも、知りたい気持ちが勝ってしまい、先生に言って名簿を見せてもらった。そうしたら、僕は全部解けたんだ。城ヶ岬の砂野君に対する攻撃的な理由も、砂野君に感じた違和感も。
 「友達だから、僕は話せるところは、話して欲しいなっておもう。もしも、君の心が僕を嫌いにならないでくれるのなら」
 「あ、輝君・・・・あ、え、でも、えっと・・・・」
 混乱している。そういう表現がぴったりだった。砂野君はもしかすると、自分からちゃんと教えてくれる予定だったのかもしれない。でも、積極性が足りないだけに、先送りにしていたのか、それとも僕に嫌われるのがイヤだったのか、だんだん泣きそうになっていた。
 「ボ、ボクは・・・・その、あ、輝君が―――――す、好きですっ!」
 意を決した、そういう表現が正に、というほど顔を真っ赤にしてそして大声でカミングアウトしてくれた。公衆の面前ということも忘れて。混乱してるね、真君。
 「ままー、あのお兄ちゃんたちなにしてるのー?」
 「だめよ、まーくん。お兄ちゃんたちの問題なんだから、いきますよ」
 ―――――と、なんだか勘違い親子が通り過ぎていきましたとさ。とりあえず、こほんと咳をひとつ。
 「えっと、真君。色々、飛ばしすぎだと思う」
 「へっ!?え、ボク、今なんて―――――あ、うあ、あうあうあう・・・・っ!」
 自分の口にしたことすら記憶から一時消去してしまってる。おおー、人間ってここまでうろたえられるんだ。じゃない、ここだと人の目が多すぎるね。
 「はぁ、移動するぞ。すいません、お勘定」
 一臣さんは伝票を持ってレジヘ向かった。僕は言い方を間違えたかと反省し、真君はただただ真っ赤になって俯くだけだった。



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Novel Editor by BS CGI Rental
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