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探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第2回   2
 いざ麗しの我が学園へ、と勇んで一歩を踏み出したところで、その校門を通る生徒を見かけた。こんな時間に?時計を見ると、始業時間ぎりぎりだった。遅刻の常習者だろうかと思われたが、それにしては顔色が優れなかった。
 ふむ、直感的だが、興味がわいた。時間があれば、今の生徒のことも調べてみるとしよう。それよりも、まずは自分のことだ。
 最初に赴いたのは職員室。いわゆるティーチャールームって所。失礼しますと中に入ると、待っていたとばかりに僕の担任になる先生が声をかけてきた。名前は大河内 隆之という、まあオールバックにめがねの中途半端に小奇麗な見た目の先生だ。
 この先生、事前の説明では今年の一年生と同じようにここ鳳学園へやってきた新任教師らしい。先生としての経験はあるのだろうが、ここのように礼節を大事にしているような、いわゆるお堅い学校は初めてで、いままでの身なりだと何か言われそうなのでちょっとでも良く見れるように頑張ったのだろう。
 つまり、要するに、結果的に、僕としては良い先生だ。
 「宜しくお願いします、大河内先生」
 一礼すると、硬くならなくていいよ、と優しく声をかけてくれた。その声の通り裏表のない良い先生であり、人が良すぎるのかもしれない。まあ、この人のことは追々でいいとしても、現在はそれが原因で『ある問題』が生じているらしい。まあ、ここまで肥大化してしまった私立の学園なのだから、自由を表題に掲げている以上、自由を履き違える人間がいてもなんの不思議ではない。
 「学園長から、話は聞いています。一年もいないと思いますが、どうか宜しくお願いします」
 「こちらこそ、宜しくお願いします。君の話を聞いて、少し緊張したけれど、本当に大丈夫なのかい?」
 「大丈夫です。というよりも、そう思ってかからないとどんな事も巧くはいきませんよ。仕立てに出過ぎる教師と同じです」
 「・・・・」
 最初の先制攻撃を与える。その言葉は、思い当たる節のある大河内先生は顔を少しだけ曇らせた。でも、それが事実だ。
 「先生の性格は元からあるものですから、それをどうしようとかは思いません。まずは生徒たちを改善してから、先生が彼らを巧く誘導切るだけの技量を勝ち得ていただきます。得意なことは、なんでも運動系全てとか?」
 「あ、あははは・・・・まあ、よろしく頼むよ」
 苦笑いの大河内先生は、このままため息を吐いてもおかしくはない顔ではあった。だが時間は待ってはくれない、早速先生は教室へと行こうと話を進めた。
 廊下をあるく、西向きに窓の並ぶ廊下は太陽の光を廊下に浴びせ、ここだけ切り取ってみればまさに理想の公共施設と情景だ。ここで正しく教育を受けられているのであれば、それはそれはすばらしい人間が輩出されるのは良く分かる。教員のレベルも高いと聞いているのだから、この大河内先生も適当に選ばれてここにいるわけではない。たしか担当の教科は社会だったはず。ならば、それなりになにかを持っているはずだ。
 「先生、事前に状況をきかず現状で全部を目で見てから判断するのが僕のやり方なんですが、その問題を起こしている生徒の名前は分かりますか?もちろん問題を目の前で見ているわけではないと聞いているので、それらしい生徒でもかまいません」
 「はい、確かに問題を起こしているところをじかに見たわけではないですが、どうもほかの生徒たちはその子の言葉が正しいと決め付けて話している節があって、どうもなにか一枚膜があるように見えて仕方がないんです。違和感と言うか」
 「生徒の名前は?」
 「城ヶ岬 修一郎といいます」
 「ジョウガサキ?ああ、あの城ヶ岬ですか?」
 「はい」
 さすが一流と呼ばれる学園、そんな子供がいたのか。
 「まあ、あとは自分で確認します。先生は、僕と二人のときはいいですけど、みんなの前では呼び捨てでいいですからね。僕の名前、聞いてますよね?練習しましょうか」
 「は、はい・・・・」
 「違います、もうここからは一人の生徒として扱ってください」
 「あ、わ、わかった。き、桐夜 輝君」
 「はい、行きましょうか」
 教室への廊下を歩く。僕のクラスは一年五組で、廊下の一番奥であるため少し距離がある。隣のクラスを通り過ぎたとき、僕はふと頭に違和感を覚えた。電子機器が作動しているあの感覚だ。まあ教室内でテレビを使っていれば不思議ではないが、この学校の教室にテレビは置かれていない。
 では、なんだこの感覚は。大河内先生に気づかれないように周囲を見回すと、何のことはない廊下の柱に提げられた消火器に挟まれて小さな機械が顔を覗かせていた。どうも狡猾な人間も僕のクラスにはいるらしい。
 「なんだか、楽しくなってきましたね」
 「・・・・ケガは、しないように」
 「はい」
 最後の最後まで優しい言葉をかけて、先生と僕は教室へ入った。先生は教壇へ立ち僕はその隣へたつ。静かにしろ、席に着け、そんな言葉はなかった。教室に入ったときから、生徒たちは静かに席へ座っているのだから。
 以前の学校では、新しい生徒が来たと知るとそれぞれがこそこそと話し合っていた光景があったけれど、ここではそれすらもない。全員、静かに先生の言葉を待っていた。それだけに奇妙な空気があった。まるで僕の力量と言うか、底を見極めるような、そうい厭らしい視線と空気、中でもひときわ異彩の空気を見せているのは教室の後ろから二列目、窓側に座っている男子生徒、ひと目であれが城ヶ岬と分かった。
 「時期としては中途半端だが、転校生を紹介する。桐夜 輝君だ。自己紹介を」
 「はい」
 黒板に振り返り、自分の名前を書く。文字を書くことは得意で、先生よりも巧いと言われたこともある。今日もそんな感じで、教科書体的な書体で名前を書いた。
 「桐夜 輝です。私立は初めてで公立とやり方が違うそうですが、慣れながらみんなと仲良くしていきたいと思います。よろしくお願いします」
 一礼、すぐに歓迎の拍手、まあ形だけの物が贈られた。
 「桐夜の席は今空いてる席で。みんな、仲良くしてやってくれ」
 はーい、と簡単な返事が返ってきた。さて、自分の席へ向かおうと歩き出す。その時僕の見えないところで城ヶ岬が一人の生徒にアゴで指示を出した。僕はそれに気づかず堰を目指す。
 そして、次の一歩を出すとき、不意に一人の生徒が僕の前に足を突き出した。そして、あっけなく僕はそれに引っかかりしたたかに転倒した。演技ではない、この教室に入ったときから、僕は全てを見極めなければ習いのだから、変に行動するわけには行かない。だから転ぶときも本気で転ぶ。足を引っ掛けられるのは予想の範囲だから、転ぶことも備えられる。
 「だ、大丈夫か桐夜君!?」
 「ああ、はい。大丈夫ですよ、ちょっと足元不注意だったので」
 問題なく立ち上がり返答する。ちら、と足を突き出した本人を見ると、ニヤニヤと笑っていた。僕がどの程度の人間か、測られたらしい。
 さらに城ヶ岬を確認すると、特に困惑していない僕が不思議なのか無表情でこちらを伺っていた。さて、早速の先制攻撃、だけどまだまだこんなものじゃないんだろうね。観察の始まりだ。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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