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探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第17回   17
 輝に宣戦布告をされた城ヶ岬は機嫌を損ね、今日の授業は全面的にサボる事にしたらしい。取り巻きの佐々木と田島を連れて、いつものたむろ場所である校舎の裏でたたずんでいた。
 そう、佇んでいた。校舎裏に着てから十分ほどが経過するが、城ヶ岬はじっと立ったまま何かを考えているのか動かない。だから、後ろで待機している佐々木と田島の二人も声を掛けていいものかどうか判断がつかず、たったままだった。
 とはいえ、その二人の内心は対照的だった。
 「(うわぁ・・・・やべぇよ、やべぇって、転校生のやつ本気であいつ怒らせちまったよぉ・・・・。こっちにとばっちりがきたらどうすんだよくそっ)」
 「(かわいそう、あの転校生も自殺するかも。ま、どうでもいいか。あー、お腹すいたなぁ)」
 と、まあこのような感じで佐々木は小物の手下らしく内心で自分への飛び火を心配しており、田島は特にどうとも思っていなかった。むしろ空腹を感じていた。
 「なぁ、あの転校生、どうする?」
 「・・・・」
 「・・・・」
 きた、と二人は同時に思った。佐々木は意見が出なければ怒られると思い、田島は意見をだしてからかってみたくなる。だが、とりあえず黙していた。
 「ああいう自分は正しいってやつ、壊し甲斐があるとおもわねぇか?」
 「あ、ああ、そうだな。ああ、そりゃあ楽しそうだ、はははは・・・・」
 「別になんでもいいよ。どうせ壊すんでしょ?砂野も一緒に壊すかどうか、でしょ?」
 そうだな、城ヶ岬は佐々木の言葉か、田島の言葉か、ともかく同意した。
 「とりあえず、今日は帰って親父に言うわ。俺、久しぶりにはらわた煮えくりかえってんだ。マジで、マジでマジでマジで――――あの転校生、殺してやる」
 殺してやる、そう言葉を発し振り返ったとき、田島は喜び佐々木は恐怖した。その形相を見たのは佐々木は初めてで田島は二回目だった。それは入学式の初日、城ヶ岬に逆らったクラスメイトに向けた顔だった。翌日、そのクラスメイトは入学を破棄され、学校を後にした。
 死んだような目で口元だけをゆがめて、まるで死人が笑っているような表情。城ヶ岬がじかに動くとき、彼はこういう顔をする。城ヶ岬は力が強すぎる、それは腕力ではなくこの時代の決まりごとの中での力が、だ。故に、彼自身は取り巻きに任せて獲物が壊れていくのを高みから、手を汚さず鑑賞できるのだ。
 だが、獲物が逆らう――――アリごときがゾウに噛み付こうとする――――ならば、アリだとしても全力で踏みつぶす。間違った情熱はそうしてあらわれている。
 「とりあえずさぁ、あの転校生、一人っ子なんだよな」
 つまらなさそうに城ヶ岬はつぶやいた。桐夜が城ヶ岬を調べたように、城ヶ岬も桐夜を調べていた。その調査の通り、輝は一人っ子だ。
 「前噛み付いてきた奴は、妹がいたよな。あれってどうなった」
 「妹のことが聞きたいの?彼のことじゃなくて?っていうか自分で仕向けておいて忘れたの?」
 「どうなったか俺は聞いてるんだ!」
 田島の軽い指摘も、いつもなら普通に聞き返すのだろうが、本気で怒っている今の城ヶ岬には火に油だった。怒鳴られた田島ははいはい、と昔あった出来事を語った。
 「入学取り消しさせた日に、評判の悪い高校から何人か雇って妹さん襲わせたじゃん。初めての相手が見知らぬ不良達だって言うんだから、悪魔だよねぇ。妹さん、人格崩壊しちゃってリストカッターデビューしたらしいよ。責任感じて彼は自殺して、両親は離婚、母親は娘を養いながら働いてるって」
 ひどいよねぇ、と口で言ってその口に笑いが含まれた。まるで遠くの国で起きた昔のニュースを話しているようで、常人が聞いていればその場から一国も立ち去りたくなるだろう話だった。それは取り巻きである佐々木ですら思った事だろう。
 「ああ、そうだったそうだった。そいつの妹のレイプ現場の映像とか写真とか後からもらってオカズにしたっけな。ついでにネットにも流したっけか?」
 「そうそう、で、それがばれちゃって不良達は逮捕されたっけね。まあ君には何の被害もなかったけどさ。さすがは国内トップは違うよねぇ。かはははは」
 「あ、あんま声がでかいとやばいんじゃ・・・・?」
 さすがに、佐々木はこの会話に恐怖を覚え口を挟んだ。田島は無表情で振り返り、話を止められた城ヶ岬は佐々木をにらみつけた。
 「おまえさぁ、いい加減慣れろよ。もう共同体なんだよ俺たち三人はさぁ。腹くくれってんだよ、どうせ俺といりゃあ犯罪なんてばれやしないんだ。甘い汁だけ舐め続けられるんだぜ?万が一ばれたって、未成年は人を殺したって長くは牢屋にはいらねぇよ。堂々としろよ――――なっ」
 「うぐぁうっ!・・・・」
 ざりざりと砂を踏みしめて佐々木へ近づいた城ヶ岬は彼をしたたかに蹴り倒した。倒れた佐々木は恐怖にそまった顔で城ヶ岬を見上げた。
 「わ、わかった、わかったよっ・・・・、ど、堂々とすれば、いいんだろっ」
 「わかりゃあいいんだよ。それじゃあ解ったついでに、あの転校生潰す方法を考えろよな。俺たちの手が汚れず、かつ自殺くらいしちまいそうな手段をよ」
 そういいながら遠ざかる城ヶ岬、横から田島が話しかけた。
 「僕も考えるよ。佐々木君だけだと、穴が出来そうだし。それに、極力君の親の力を借りない方法で、で考えるけど、最悪借りてもいいよね?前も、そうしたんだし」
 「いい、いい。好きなようにしろ。面白くて安全ならなんでも、いい」
 だるそうに呟いて、ようやくここにきてから二十分、ブルーシートをかぶされた土袋の簡易ソファに腰をおろした。そして携帯電話を取り出すと、躊躇無く電話を掛けた。
 「あ、親父?またひとり消すかもしんねぇけどさ、お金くれる?え、好きなようにしろって?へへへ、さすが親父、さすが社長。関心関心、んじゃあ適当に借りとくよ。今月の『おこづかい』をさ」
 そういって電話を切る城ヶ岬。この子供にしてあの親あり。親子揃って最低な人間性を持っているらしかった。
 「田島、なんか思いついたか?」
 「うん、とりあえずまた何人か雇って親父狩りとかさせようか?あと母親の方も襲わせるとかさ、自分の責任に思わせれば、意外と人って簡単に壊れるしさ」
 人とは思えない意見だった。とはいえ、これは田島だけが考えた内容だった。結局佐々木は何も考えなかったらしいが、そもそも城ヶ岬は佐々木に頭を使う事に期待などはしていなかった。
 佐々木は言われた事を実行するだけで十分であり、考えるのは狡猾な田島が考えればいいのだ、そして自分は全体を指揮するし居るだけで人を従わせるプレッシャーを出していればいいのだ。
 これが戦国時代ならば、一国一城の主になれたことだろうが、時代が悪いのか、やはり人間が悪いのか、どのみち一般人にこの三人の考えなど、読み取れるわけがないのだ。
 桐夜 輝と城ヶ岬 修一郎の戦いは、まだ、いやようやく始まったに過ぎない。


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Novel Editor by BS CGI Rental
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