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探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第16回   16
 「おはよう」
 「あ、お、おはよ・・・・」
 教室に入れば、当然ながら周囲は一瞬張り詰めた雰囲気になる。だがそんな物などなかったように、僕と砂野君を無視してホームルームまでの賑わいを再開した。まあ当然か、と二人は自分たちの席へと向かった。今日は珍しいことに机に落書きはなかった。机の中に妙な物が入っているということも無い、それもそうだろう、本当であれば、僕と砂野君はここに傷だらけで入ってくる予定だったのだから。だが、それは敵わなかった。確認するように視線を城ヶ岬に視線を送ると、不満そうに睨みつけられた。
 「砂野君、ちょっと城ヶ岬と話くるよ。君は近づかないほうがいい」
 「え、あ、桐夜君・・・・!」
 唐突の行動に砂野君は反応できず、既に城ヶ岬のほうへ向かう僕に戸惑いながら声をかけることしか出来なかったようだった。けれど、僕はその足を止めることはできないしとめてはいけない。昨日の夜、夜中の三時までかかってようやく調べたけれど、城ヶ岬はとんでもないことをしている。もちろん法に触れることはしていないけれど、人として罪を犯している。あり得ないくらいの人間を不幸にしていた。
 それも、自分の手を汚さず、親の七光りを当てにして。虎の畏を借る狐、イの字が違うけれども間違いではない、彼は間違った畏れを借りて人を不幸にしている。全部調べ上げたとき、眠気なんて吹き飛んだ、そして余計に、城ヶ岬は僕の敵であると理解した。
 「や、おはよう城ヶ岬」
 「・・・・あ?」
 なに話しかけているんだ下等生物、そういって僕に挨拶した城ヶ岬はいたく不機嫌そうだった。だから、質問してみた。
 「機嫌が悪そうだね、僕と砂野君が傷一つつかないで登校してきたからかい?」
 「何言ってんだ、てめぇ」
 「いや、別に。ただ、君が一番良く理解していると思うけれど、知らないならいいや。取り巻きの二人も、知ってるんだろうね。知っていて知らないふりを―――――」
 「おい、調子に乗るなよ?」
 がたん、と立ち上がって胸倉を掴んできた。城ヶ岬じゃない、取り巻きの二人のうちの片方―――――たしか、佐々木という男子生徒だ。周囲がざわめいた。端役の手足が僕とぶつかるならまだしも、主犯であることをごまかし続けている城ヶ岬と取り巻き戸の衝突に、騒がないほうがどうかしているしね。
 「なんで、君が怒るんだい?なにか、おかしなことを僕が言ったとか?」
 「佐々木君、やめたげなよ。まるでこっちが非を認めてるようじゃないか、こっちは何もしていないのにさ」
 「―――――けっ」
 乱暴に手を離すと不機嫌そうに座った。佐々木を止めたのはもう一人の取り巻き、田島だった。物言いは大人しそうな感じだけれど、僕にはすぐに彼の目の奥に煮えたぎる破壊の衝動を感じ取った。彼は、大人しい顔で酷いことを簡単にやってのける、容赦の無い存在だ。
 「桐夜君、あんまり根拠の無い言葉で城ヶ岬君を怒らせるのは止めたほうがいいよ。彼が怒ることと神様が怒ることは、同意だから」
 そう告げる田島の目が細まる。その細くなった目の奥には破壊の色があった。僕を見ながら痛めつける方法を探しているのかもしれない。
 「桐夜、何の用だ」
 「用ならたくさんあるよ。君には反省してもらう必要があるからね」
 「―――――」
 ぎろり、とまるで滅んだはずの恐竜を見ているようだった。その圧倒的なまでの視線は確かに有無を言わさず人を従わせる何かを持っていた。デモンストレーションに何かをすればたちまち人は従うだろう。独裁者が。
 「反省?俺が?なにを?頭でも打ったか?ケンカなら買うぞ」
 「買ってもらわなくて結構。それに買いたいのはこっちだよ。怒ってるのは僕なんだから。君は、卑怯で卑劣で最低で最悪で最凶だ。底辺にも劣るそれ以下の存在だって言うことがよく判った。良くそれで人間が出来るよ、はは―――――」
 破壊音、その瞬間教室が一つの破壊音に支配された。机が飛んでいた。僕の隣を通り越して壁まで、やったのは城ヶ岬だった。あまりの出来事に周囲は叫びと凍りつくを同時に行っていた。
 「さっきからうぜーな、てめぇ・・・・。言いたい事があるならはっきりと―――――」
 「うざいのは君。最後まで聞かないで、そのうえ教室の備品を壊して、バカかい?いいから黙って僕の話を聞きなよ、まずはタシロカズヒロ」
 「―――――は?」
 「次はイイヅカキミヒコ、オノダカヨ」
 僕は周囲のざわめきを無視して、僕はとりつかれたように単語を口にしていく。
 「スガワラタイガ、アオキサトシ、ヨシカワマサミチ、スギヤマユウヤ、ソケイキヨヒロ、ナガタトモヤ、サガラユウコ、アサノアヤセ―――――ええと、あとだれだっけ?」
 「おい、なに壊れてんだよ。ふざけんなよ」
 再び佐々木が立ち上がって僕を睨む。僕はそれを無視してポケットからメモを取り出し言葉を続けた。
 「キタムラマルオ、クスエダキョウコ、順不同。誰だかわかるよね?」
 僕はとりあえず中断して城ヶ岬をみた。だが彼は―――――
 「しらね、誰だそいつら」
 「知らない?知らないんだ?やっぱり、君は最低だね」
 「桐夜君、これ以上わけのわからない言葉で城ヶ岬君を罵倒するのは彼の尊厳を馬鹿にしていることになるよ。教員に告げ口してもいいのか―――――」
 い、と最後まで言わせることなく僕は城ヶ岬の机―――――は蹴り飛ばされてなくなったのでその次に近い佐々木の机に紙を挟むように手を叩きつけた。僕は、感情で怒りを表現するのが苦手で、こうして音で教えるしか方法を知らない。何でだろう、母さんも層だったらしいけれど、でも母さんはそういうところお父さんと似てるって言っていた。僕はどっちにも似てるらしい。
 僕の意外な行動に、田島も佐々木も、城ヶ岬すらも口を閉ざした。
 「この程度の罵倒、君には痛くもかゆくも無いだろう。自分たちを正当化するのは止めること、そして思い出すこと。今僕が口にした名前は、中学時代、城ヶ岬、君が自分で自慢する権力と財力で社会的に殺された、君に逆らったクラスメイトたちの名前だよ。珍しいよね、ひとつのクラスが一年生のとき四十人で、卒業の時には二十人に満たないなんてさ。君、どれだけ人を馬鹿にすれば気が済むのかな?」
 「知らないな、俺は。確かに、日増しに教室が広くなるのは感じていたが、その程度のことだ」
 「その程度のこととしか、君は人を見ることは出来なかったんだね。まあ入学初日から一人消してるんだから、当然か。うん、最低だ、素晴らしく、感動すら覚えるほど、君は僕の敵だ。先に謝っとくよ、ごめんね」
 「―――――だっ!?」
 僕は謝罪の言葉を口にして、彼の顔を叩いた。机を強く叩く以上に、城ヶ岬は驚いた顔をしていた。そして、教室は恐怖に包まれた。周囲の目からは、僕がこの教室から消える存在となった、そう思われただろう。
 でも、こうしないといけない。だって彼は―――――
 「城ヶ岬、君って痛みを感じたこと無いだろ?心の痛み。だから、とりあえず体の痛みで感じなよ。暴力的な言い分で悪いけれど、これ以上、理不尽を行わせるわけには行かない」
 赤くなっていく城ヶ岬の頬、その痛みを感じながら、彼はいたく覚めた目で僕を見つめていた。
 「お前、これがどういうことか、わかっているんだろうな・・・・」
 「どうなるのかな?よかったら教えてくれないか?自分からは手を出さないで、親の七光りに頼って頂点に立ったつもりになっている田舎者さん。この挑発に乗るならまだ見直してもいいよそれとも―――――また他の人のように僕を消すかい?」
 にやり、と僕はこれまで似ない嫌らしい笑みで彼を捉えた。その表情を見て、城ヶ岬は何かを決めたのか、感情の無い瞳でじっと、じっと僕を長いことを見つめて、そして立ち上がった。
 「帰る」
 そういって僕から視線を外し歩き出した。出て行く寸前、彼は一度立ち止まって振り返ると、
 「親がお前を生んだこと、後悔させてやる」
そう言って教室を出て行った。取り巻きの二人もその後を追うように出て行き、教室は再び静かになった。そして砂野君が怯えた顔で、やってきた。
 「き、桐夜君、あ、あやまらない、と・・・・」
 「どうしてだい」
 「だ、だって、だって城ヶ岬君、ほ、本気だよ、本気で君の事―――――家族も不幸にさせようと」
 「みたいだね、悔しいよ」
 「なら、あ、謝らないと」
 「違うよ、そういうことじゃない」
 僕は再び机を殴りつけた。今度は本当に悔しくて見せ掛けじゃない怒りをぶつけた。砂野君が心配そうに僕を見ていた。
 「彼は親の力で人を不幸にしていた。僕は、自分の力でそれを止めたかった。だから一生懸命彼のことを調べたんだ。それこそ不眠不休に近い状態で・・・・。けれど、調べれば調べるほど、僕一人ではやっぱり手に負えないって事だけがわかってきて、今日は朝から悔しさいっぱいだった。結局、僕も親に頼らなければいけないんだってわかったときは、特に悔しかった」
 「親にって・・・・。桐夜君、君は一体・・・・」
 「おーい、ホームルームはじめ―――――な、何だこの机はっ!」
 先生が入ってきた。僕はそれを合図に教室の出口へ向かった。
 「先生、すみません、気分が悪いので保健室で待機します」
 「き、桐夜、おい・・・・」
 教室を出て、僕は屋上へ向かった。こういうときは、寝るに限るからね。
 「桐夜君・・・・」
 心配そうに名前を呟く砂野君が、印象的だった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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