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探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第15回   15
 「あ、あの、なんでこ、こんなところ、に・・・・」
 砂野君は怯えていた。朝登校して、いきなりクラスメイト三人に呼び出しをくらい体育館の裏へとやってきた。明らかに、楽しい内緒話が始まる、そんな雰囲気ではない。砂野は理解していた。
 今目の前にいる三人は、自分を捨て駒のように扱う城ヶ岬の取り巻きと同じ目だった。また、虐められる。それは、慣れた思考だった。
 「いやさ、最近調子に乗ってるなぁって思って」
 「なにおまえ、あの転校生に構ってもらって自由になったつもりとか?」
 「バカだねぇ、そんなの幻想、現にこうして俺達がいる―――――だろうがっ!」
 一人が一歩前に出ると、片足を上げて突き出す。突然の一撃に砂野は対応できず―――――とはいえ、見えたとしてもそれを防ぐ手段も無いだろう―――――足の平で体を押され地面に倒された。
 「うあっ!」
 受身も取れず、持っていたものを投げ出す形で地面に倒れる。そうして穴でも覗くように三人は上から砂野を見下ろしてきた。
 「ははは、とろい奴」
 「本当目障りだな、お前」
 「転校生と仲良くなったくらいで調子に乗るなよ、みててむかつくんだよっ!」
 そのまま踏む潰すように一人が足を上げ振り下ろした。
 「はい、そこまで。みてて滑稽だよ、君たち」
 ぱんぱん、と手を叩く音と揶揄する声。そのおかげで砂野に降ろされた足は途中で止まり追撃を逃れた。三人が顔を上げると、案の定転校生―――――桐夜 輝が飽き飽きしたという顔でたっていた。
 「な、なんだよ転校生・・・・」
 「向こう行けよ、てめぇには関係ないだろうが」
 「いんじゃね、そいつも一緒に袋にしちまえば?」
 三人が口々に文句をたれる。そんな言葉も気にせず桐夜は砂野へ近づき、彼の手を取って立ち上がらせた。丁寧に制服についた砂を払い落とすということまでしていた。その構図が余裕を見せているようで、三人のうち一人がさきほど桐夜に食って掛かってきた者と同じような態度に出た。
 「転校生、なに無視してくれてんの?お前はあれか、こっちが正しいから俺たちみたいなのと話す価値はない的なあれか?―――――ざっけんなっ!」
 自分で言って自分で怒って、砂野に降ろしそこなった一撃を晴らすようにその足を桐夜の顔をめがけて蹴り上げた。蹴り上げられた瞬間にはまだ桐夜の目は砂野に向いていたが蹴りが始まると同時に首を動かし、その傷一つない顔に汚れた一撃が当たろうとしていた。だが―――――
 ぱし、となんの難しさも感じさせずその足を桐夜は手のひらで受け止めた。
 「っ―――――」
 止められたほうは驚いて足を引っ込めた。桐夜の顔に傷がつくことはなかったが、とめたときの反動で靴から飛び散った砂が髪に降りかかった。それを鬱陶しそうに払うと、小さくため息を吐いた。
 「行こう、砂野君。授業が始まるよ」
 「え、で、でも・・・・」
 「ん?いきなり君に暴力を振るってきた人に何か用事があるのかい?あるなら、待つけれど?」
 それは、砂野を馬鹿にしている言い方では決して無い。全ての行動において、全ての事象に対して、自分がとるべき行動をとっているだけであり、躊躇した砂野へ素直に質問しただけだった。だが、砂野は言語道断と取ったのか、口をつぐんだ。
 「ううん、な、なんでもない」
 「・・・・いや、なんでもないって事は、ないよね?見飽きたから無視しようと思ったけれど、やっぱり言わないと、駄目か」
 「なに一人で納得してんだよ、ふざけんな!」
 砂野を虐めていた三人は邪魔され、無視されたことで怒り浸透していた。だがその光景に怯えるのは砂野だけであり、桐夜は何事も無いような顔である。
 「城ヶ岬に、言われたんだよね。砂野君を痛めつけろって。そうじゃないと、特に害を与えているわけでもない砂野君を呼び出して袋叩きにする理由は、ないでしょ?」
 「・・・・」
 「・・・・」
 「・・・・うっせぇ、てめぇに関係ね―――――」
 「あるよ」
 言葉を遮りはっきりと桐夜は口にした。その迷いの無い言葉に言葉を飲み込むことを余儀なくされ、自分たちの中にある罪悪感が少し膨れた気分を味わったことだろう。
 「僕は昨日一昨日きた途中参加の生徒だけど、クラスメイトだからね。理不尽なイジメを止める権利はちゃんとある。君たちにも、理不尽な命令に逆らう権利があるはずだけど、なんで城ヶ岬の言いなりになるのさ―――――って、それはさっき僕を袋叩きにしに来た三人から聞いたからいいや。とりあえずさ、ちょっとは逆らおうよ、城ヶ岬はえらそうにしているだけで絶対じゃないよ。怖がる必要なんて―――――」
 「黙れ黙れ黙れっ!判ってんだよ、解ってんだよそんなこと!だからって、そう簡単に変われるわけが無いだろうがっ!こっちだって毎日疲弊してんだよ!やりたくないことやって、言いたくないこと言って、あいつの機嫌とって顔色うかがって!うんざりなんだよ、でも逆らえないんだよ!こっちは養ってもらってる身なんだから、親に迷惑かけられないんだよ!畜生がああああああああああああああ!」
 だん、だん、だん、と悔しさをぶつけるように地面を殴りつける。他の二人も悔しさと怒りの混ざった顔で地面を睨みつけていた。それだけで、自分が入ったクラスがどれほどまでに混乱しているか、理解できた。砂野は、もしかするとまだいいほうなのかも知れないとさえ思えるほどに。
 ぱん、と再び桐夜は手を叩く。
 「わかった、もういいよ我慢しなくて。昨日一昨日と、城ヶ岬のこと調べたんだけれど、ちょっとやりすぎだね。彼のせいで、本当に住むところをなくした人も、中学のときにいたらしい。いわゆる社会的に殺す、ってやつだね。それも手を降すのは彼じゃなくて親だし・・・・。ちょっとね、僕も怒ってるんだ。君たちが代わりにその怒りを誰かにぶつけるのもわかるよ。でもね、抗うことも必要なんだ、例え不利になると判ってても。だから僕が手本を見せるよ」
 「て、手本って・・・・」
 「なにをするつもりなんだ・・・・」
 「下手なことしたら」
 不安そうな顔で桐夜を見つめる三人。そんな不安も吹き飛ばすように、彼はあはは、と笑って見せた。
 「桐夜君・・・・・?」
 「行こうか、砂野君。本当に授業、始まっちゃうよ」
 誘うように先導して歩き、その背に砂野はついていった。砂野のなかでもちゃんとした変化はあった。それは勇気を持つこと、自信を持つこと、そして別な部分でも変化は存在していた。
 「さて、こうなったら手段は選んでいられない、か」
 ちょっと悔しいな、そう呟いたのを砂野は聞き逃さなかった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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