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探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常 作者:光夜

第11回   11
 五時間目が終わり、僕はカーテン越しに砂野君に話しかけた。
 「砂野君、落ち着いたかい?」
 「う、うん、だいぶ・・・・ごめんね」
 と、心配かけたことに謝罪する砂野君、そんなものいらないし、君がすることじゃないというのに、本当に積極性の無い人間だよ、君は。
 「白い天井って言うのは落ち着くのかな、何もない空間のように見えて、頭の中は自然と平常にさせるのかもね」
 「・・・・うん、そんな気分。でも、なんだか疲れちゃったかな」
 疲れた、それは体力的に?精神的に?たずねる勇気は出なかった。
 「さっきの今で思い出させて悪いけれど、誰にやられたんだい?あの城ヶ岬のことだから、証拠になる自分で参加なんて事はしないだろうね?」
 「・・・・いつも隣にいる、二人。佐々木君と田島君」
 「クンって・・・・本当に人がいいね、イジメてきた相手に君付けなんて」
 「・・・・だって、クラスメイトだから」
 「・・・・うん。悪くないよ、君は。悪いのは、向こうだ」
 なるほど、あの取り巻き二人は佐々木と田島というのか。どっちがどっちかは、この際知らなくても問題は無い。名前が割れただけで十分だった。それよりも、僕は砂野君の精神状態が気になった。
 しゃ、っとカーテンをあけると確かに落ち着きを取り戻した表情の砂野君がそこにいた。勇気がないだとか、そんなことを気にしている場合じゃない。現状を把握する、母さんはそう言っていつも僕に手順を教えてくれる、父さんはそういうの、苦手らしいけれど。
 しばらく僕は砂野君を見下ろしていると、彼は視線を絡めてきた。
 「僕は元来はっきりと物事を聞くタイプでね。ひとつ、聞いてもいいかな」
 「あ、なに、かな・・・?」
 「自殺を考えたこと、ある?」
 僕は無表情を作って、ただその質問を質問という概念だけを砂野君にぶつけた。かれははとが豆鉄砲―――――そんな顔で僕の顔を見上げていた。そして、砂野君が次に見せた表情は、笑顔だった。
 「―――――」
 意外な反応に僕もはとに豆鉄砲の顔になったと思う。なぜ、この状況で、この質問で、こんなにも冗談を聞いているときのような顔をするのだろうか・・・・。その答えは間もなく僕の耳に入ってきた。
 「・・・・あるよ、何回もね。入学してから、ずっとだったから・・・・」
 「それじゃあ、どうしてそんなに嬉しそうなんだい?」
 砂野君は一度天井を見上げなおした。そして、その天井を見上げながら、静かに話し始めてくれた。
 「自殺しよう、イジメられ終わったときにたまに思うんだけれど、実感が無いんだ。自分が本当に死ねるって、イメージが・・・・。そう思うとね、考えた後にバカらしいって思って、結局何も出来ないままなんだ。ほら、自分だけは犯罪に巻き込まれないとか、事故にはあわないって思ってる、そんな感覚・・・・」
 笑っちゃうよ。そういって、もう一度僕と視線を絡める。けれど、それはそれで安心したと正直に思う。彼は、見た目以上に心は強いようだ。
 「砂野君、君はますます僕の友人にふさわしいよ。転校して二日目だけれど、ちょっと僕の考えを聞いてくれないかな」
 「うん、聞かせてもらいたいな。なんだか、ボクも桐夜君と話していると、すごく楽しいよ。友達が、居なかったからかもしれないけれど・・・・」
 僕はかぶりを振ってそれを否定した。そんなことは無いよ、砂野君はたぶんあのクラスの中で誰よりも素晴らしい人間だ。まずくじけないところがいい、どんなに酷い仕打ちをされても、くじけない。自殺すらも、イメージが湧かないなんて軽く言っているけれどそれだって普通だったらありえない。
 それくらい、砂野君は素晴らしい。僕は、好きだな、砂野君。
 「あ、えっと、うぅ・・・」
 「あ、考え事のつもりが口にしちゃってたか・・・・。ごめん、かなり恥ずかしかったね、ははは」
 冗談ぽくまとめてみたけれど、砂野君は照れてしまってベッドにもぐってしまった。照れられても、僕にそういう趣味は無いんだけれどなぁ。確かに、砂野君は名前も見た目も中性的で、どちらにでも見れそうだけど、だったとしても僕にそっちの気はないったらない。女の子大好きですよ、本当。
 「話を戻すね。城ヶ岬をさ、懲らしめようと思うんだ」
 「―――――え?」
 「彼はね、何か勘違いしているようだけど、いったい何を持って自分があのクラスで一番偉いなんて思っているんだろうね。あんなの、権力と財力で人を無理矢理従わせているだけだって言うのに、それで本当に自分に付いてきていると思っているんだから外から見ていると独りよがりの何者でもないよ。僕は、彼が嫌いだ。今はね」
 「・・・・でも、ボクみたいに酷い目にあわされるかもしれないよ」
 「酷い目って、水をかけられたり、落書きをされたり、殴られたり、そういうことかい?」
 「・・・・うん」
 僕は彼の心配すら吹き飛ばすくらいの笑顔で、それらに反発して見せた。
 「水は乾かせばいいし、落書きは消せばいい、殴ったら殴り返すだけの度胸はある。僕が君の代わりをやろう。君の嫌なことは全部引き受けるし、君に被害が行ったら助けてあげるよ。僕が、君を助けて、クラスを変える。絶対に」
 「な、なんで、ボクなんかに、そ、そんな風にしてくれるのさ・・・・昨日、初めて会ったばかりで、ほとんど会話もしていないのに・・・・」
 「君と友達になりたいから、これじゃあ駄目かな」
 嘘も偽りも無く、僕は心の底からの言葉を伝えた。正直に、なにもうしろめることもなく、僕は僕の言葉を砂野君に伝えた。
 「はうぅ・・・う、うん、いい、よ・・・」
 あまりにも真っ正直な言葉過ぎて、顔を真っ赤にして砂野君はまたベッドにもぐってしまった。でも、ちゃんと返事をしてくれるあたりが、僕の気に入っているところ。これで名実ともに僕と砂野君は友達だ。
 「(城ヶ岬、どうやって彼を懲らしめようかな)」
 僕の頭の中では、砂野君が友達になってくれた嬉しさと、城ヶ岬への攻撃方法を考えることで、いっぱいになった。その日の午後の授業は、二人で欠席した。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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