「校長どうするのですかあの騒ぎは」 その部屋には豪華な机が在りそこに座っている人物に教師が尋ねていた。 「ふ〜む」 席にはこの学校の校長が座っていた。偶然にも教師の一人が先ほどの様子を見ており校長に報告に来たのだ。 「一人の生徒を全員で追いまわすなど私は反対です」 「いや、やらせよう」 「こ、校長!」 予想とは裏腹に校長は『鬼ごっこ』を許可したのだ。 「子供は元気が一番」 「はぁ」 教師は肩を落とした。
キーンコーンカーンコーン
放課後を知らせるチャイムが鳴った、その後この時間には鳴らない音も鳴り響いた。
ピンポンパンポン
校内放送のベルだった。 『今日の放課後、今から十分後に各部活の代表達が今話題の転校生斑鳩 進君を部活に入れるため学校全体を使っての大型鬼ごっこが始まります。題して『斑鳩君を捕まえろ校内部活対抗戦スーパー鬼ごっこ』です。なおこの企画は校長先生の許可が下りてます。繰り返します今日・・・・』 校長の許可が下りたことで校内放送が出たのだ。 これを聞いた・・・・・と言っても既に聞いている各部員達は代表を決め校庭に集合していた。
ざわざわざわ
代表とは違い見物人も集まっていた。その様子を葵達四人は教室から見ていた。 「すごいね・・・・」 「うん・・・」 「マジか・・・・」 「はぁ」 驚きを隠せない三人と違いシンはため息をついていた。校庭に全員が集まった所で朝礼台に銀が立った。 『あーあーただいまテストのマイク中・・・じゃない、でわこれより『斑鳩君を捕まえろ校内部活対抗スーパー鬼ごっこ』を始めます』
ウォオオオオオオオオ
叫ぶ生徒達を手で制した。 『ルールは簡単、今から一時間以内に学校内で逃げ回っている斑鳩君の体に早くタッチした部活が勝者です、なお勝者が複数の場合じゃんけんで決めます。』 「なら最初からそうしろよ、つーか斑鳩の意見を聞け!」 窓辺で悪態を着く孝太、当然生徒達には聞こえていない。 「仕方ない、こうなったら全力で行く」 「あ、私も・・・」 葵もついて行こうとしたがシンに止められた。 「いや、葵達はここにいてくれ」 「どうして?やっぱり足手まといかな〜」 落ち込む葵にシンは首を横に振った。 「違うよ、一度に行ったら混乱するからいざと言う時に来てくれ」 「う、うん」 扉を出ようとしたシンが振り返る。 「葵、お前の助け期待しているからな」 葵は顔を上げた。 「う、うん!」 元気良く頷いて答えた、それを見てシンは出て行った。 「仲の良いこって・・・」 孝太は二人のやり取りを見て手を仰いだ。 『それではー!校内鬼ごっこ、スタ――――――ト!!!』
ウォオオオオオオオオオオオオオ
開始と共に全員が叫びながら走り出した。 「始まったね、葵」 「うん・・・」 (がんばってシン君) 葵は心の中で願った。
かくして『スーパー鬼ごっこ』が始まったのである。 「とりあえず・・・・上だな」 逃げ場所を上の階に絞ったシンは階段に向かっていたしかしその作戦は見事に打ち砕かれる事となる。 「いた!斑鳩がいたぞ!」 突然目の前に部員らしき人が現れてシンに突撃してきた。 「くそ、もう見つかったかっ」 口では焦っているが頭では次の行動を選択していた。 「よっしゃー!捕まえた」 部員は腕を伸ばして捕まえようとしたがそれよりも早くシンが飛び上がり腕を交わした。 「うわ!」 部員は走ってきた勢いで転んでしまった。 「よっと」 天井まで飛び上がったシンは頭をぶつけないように天井に手を着き反動で転んだ部員の後ろに下りた。 「何とか交わしたな」 と部員を見て安心する間もなく次の騒ぎがシンを襲ってきた。 「ここだ!ここに斑鳩がいるぞ!」 別の廊下から他の部員連中がシンのいる場所を見つけ次々と襲ってきた、ざっと数えて二十人ぐらい入るだろう。 「俺が捕まえる!」 「覚悟―!」 それぞれが自分を主張しながら走ってきた。 「仕方ない」 そう言ってシンは逃げるどころか部員達の中に突っ込んで行った。 「よっはっほっと・・・・うわ!」 見事に人と人との間をくぐり抜け出した。途中で触られそうになったが紙一重で交わし何とか階段を上がることができた。 「屋上まで後三階か・・・・おっと」 階段を上がった所で女の子とぶつかりそうになって立ち止まった。 「きゃ!」 しかし相手は驚いて持っていた教科書やプリントを床に散らばした。 「あ、ごめん」 と言ってシンは落ちた物を拾おうとした、そのとき。 「捕った!・・・あ!」 突然大人しそうだった女の子が手を伸ばしてシンを捕まえようとしたが捕まえたはずのシンは自分が気をそらせるために落としたプリントを掴んでいた。 「危なかった・・・いいスピードだな」 「正解、マネージャーだからって甘く見ないでよ」 見るとメガネをかけてはいるがそれは薫だった。 「進藤か・・・」 正体のばれた薫は悔しそうに言いながら手を伸ばしてきた動きはアメフトのキャッチングのようだ。 「どうしてばれたのよ、顔は見えてなかったのに」 シンは避けながら薫の持っているプリントを指差した。薫は立ち止まりプリントを見た。 「え?あ!これうちの部のメンバー表だ」 拾う時にシンの目にはそのメンバー表が入ってきて間一髪薫に気づいたのだ。 「こうなったら・・・ってどこ行ったのよー!」 肉弾戦に持ち込む前にシンはどこかに消えていた。
残り五十分
「よしここにはいないな」 シンは更に上の階に来ていた、壁の隅から辺りを覗いていた。 (階段は・・・あっちか?) 曲がり角を見てシンは足を進めた。 「下にはもういないぞ!次はこの階だ!」 後ろから別な奴らが上がってきた。 「まずいっ」 慌てて角を曲がった、しかしそこは行き止まりで掃除用具入れしかない。隠れ様にも用具入れはシンが入れるほど大きくは無かった。 「俺たちはこっち探すからお前はそっち頼む」 「よし解った」 部員はシンが今いる廊下の角に歩き出した。 (くそ、ここまでか・・・・) 覚悟を決めたシン、しかしまだ運が残っていたようだ。 「斑鳩がいたぞー!」 その声に気づき近づいてくる部員は反対の方に走って行った。 「はぁ、あ、危なかった・・・」 緊張を解いたシンは大きく息をした。廊下には誰もいなくなっていた。 「どういうことだ?俺はここに・・・・・・まさか」 別な場所に斑鳩がいる、シンはどういうことか考えていたがすぐに答えが出た。 「まさか、葵達が?」 考えながらシンは上に上がって行った。
残り三十分
人影は走っていた廊下の突き当りまで来た所で近くの教室に入って息を潜めた。 「こっちだ、急げー!」 廊下では人影を追いかけてたくさんの部員達が通り過ぎていった。足音が聞こえなくなった所で人影は持っていた長い袋と変えた髪型を戻していた。 「ご苦労様孝太」 唯が人影に話し掛けた。 「何とかなったな」 人影は孝太だった、シンの身代わりになって部員達を引きつけたのだ。 「でもよくばれなかったよね?」 「あいついつも袋持ってるから目立つんだよ、これだけで皆俺を斑鳩と勘違いしたし」 袋を持って孝太が言う。 「それにしても女子マネージャーが多くなかった」 確かに先ほどから男子部員よりも女子マネージャーが大半を占めていた。なぜか? 「どうせシンの気を引かせるか手が出せないようにって理由だろうよ・・・・・ん?そういや葵はどうした」 孝太の横に座りながら唯は話した。 「まだやる事があるからって言って上に行っちゃった」 孝太は髪を整えながら聞いていた。 「そうか、確かあそこには『あれ』が在ったよな?」 「うん、でも一人で大丈夫かな?」 唯の心配を聞いて孝太は笑った。
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