人間と言うのはいつ人生が変わるかわからない者で、昨日まで記憶にも残らないような人が次の日になると皆が注目するような人気者になっていた何てことがある。 運動会で一位になったり、宝くじを当てたりすれば注目を集められる・・・・・だが、この教室にただ話すだけで人気が急上昇した奴がいた。 「斑鳩、今日のテストのここ解らないから教えてくれよ」 「ああ、ここはこうすれば解けるだろ?」 「斑鳩君、昨日のテレビ見た?あの場面面白かったよね」 「そうだね、そのあとのトークも良かったよね」 「斑鳩トランプやろうぜ、人数足りないんだ」 「ああいいよ、面白そうだね」 朝からクラスの皆に呼ばれっぱなしのシン、そんな様子を見ている三つの目、もうお解りのように葵、唯、孝太の三人だ。 「あはは、朝から大忙しだねシン君」 皆に呼ばれて歩き回っているシンの姿を見て笑う葵。 「そうだね、でも疲れないかなあれで?」 そんな葵の横で唯が疑問を口にした。天井のライトを見ながら孝太が言う。 「疲れるだろ、トランプしながら勉強教えてたら」 シンは葵と約束を交わした次の日学校に来ると真っ先に孝太に謝罪した。シンも他人を巻き込まないため無視をせざるを得なかったのだ。頑固な孝太も理由を葵から聞き許すことにして仲直りした。 「でも急に人気が上がったよね昨日まで誰も話さなかったのに」 もともと顔立ちが良く人当たりのいいシンは孝太と話していただけで他の生徒も寄ってきた、その結果『いい奴』と言う印象が広まり一躍人気が出たのだ。しかもクラス中の女子の人気が大きく他のクラスや先輩の面々まで見に来る始末。 「まあ何はともあれ良かった、良かった」 満足そうに葵が言った。するとようやく皆から開放されたシンが葵達のほうへ来た。 「まいったな、これじゃあ休む事も間々ならない」 「朝から人気爆発だな斑鳩、来てまだ三十分と経たずに」 頭をかきながら歩くシンに孝太はわざとらしく茶化した。 「はは、茶化すなよ孝太、まだ根に持っているのか昨日の事?」 「少しな」 「孝太!」 意地悪く言う孝太を唯が叱った。 「冗談だよ、冗談」 そう言うと孝太は黙った。代わりに唯が質問した。 「でもシン君はずっと旅してたんでしょ?学校はどうしてたの?」 シンは近くのイスに座った。 「いや、ずっと旅暮らしじゃなくて学校に通いながら休みを利用してブルース・コアを探していたんだ」 「そうなんだ」 更に葵が言う。 「でーこれからどうするの、詳しい事は解らないんでしょ?」 「ああ、この町にいるのは確かなんだが・・・・」 「何で解るんだ」 黙っていた孝太がシンに聞いた。確かに、今まで分からなかった『コア』の居場所がなぜ今になってこの町にいることが分かったのか? 「それはこいつだよ」 と言ってシンは持っていた袋の中の刀を見せた。そこにはキラキラと赤く光るものが持ち手の所に埋まっていた。 「何これ?キラキラ光っているけど宝石?」 袋を閉じながらシンが言う。 「これはな、ブルース・コアの破片だ」 「コアの?そういえば紅かったね」 シンは俯きながら話を進めた。
「よくも父さんを、こいつ、こいつ!」 シンは必死になって足元に散らばっている物を投げつけていた。目の前には無残にも胸から血を流している龍寺の住職・・・・シンの父親が倒れていた。たぶん即死だろう。 「グゥゥゥゥゥゥ・・・・」 住職を殺した本人が唸り声を上げて近づいてくる、シンが投げつけた物は体に当たり下に落ちていく。 「くそ、来るな・・・来るな―――――!!」 そう言って力いっぱい持っていた石を投げた。
ガッ! パリ
「グアアアアアアアアアアアアア!!!」 投げた石が化け物の胸にある紅い物体に当たった。 化け物はシンを睨んだ。 「ひ!・・・・」 睨まれたシンは恐怖に怯えその場に座り込んでしまった。 「グゥゥゥゥゥゥ」 唸りを上げた後化け物はどこかへ飛び去ってしまった。 「はぁ、あ、はぁ・・・・」 肩で息をしているシンの目に血まみれの住職が目に入った。 「・・・あ!父さん!父さん!」 近づいて大声で呼んでみる、が既に体は冷たくなっていた。 「父さん・・・・う、うああああああああああああああ!・・・・・・・・」 父親の亡骸を抱きながらシンは叫んだ声がかすれるほど・・・・・・・ 「かわいそうにね、お子さんがいらっしゃるんでしょう?」 「まだ小学生らしいですよ、これからどうするのかしら?」 「強盗に押し入られたらしいですよ」 所々で話す声が聞こえる、警察が来た時シンは強盗が来て銃で父を殺したと言ったのだ。警察は信用し境内の異常な崩壊は気にとめなかった。 住職の葬式には近所の方々がたくさん駆けつけてくれた、子供に優しく、誰も拒まない住職はそれほど信用があった。 葬式が終わると棺が運ばれた。 「・・・・・父さん・・・・・」 立ち去る霊柩車を見ながらシンは泣きもせず立ち尽くしていたままだった。 それから住職のいなくなった龍寺は立ち入り禁止となり工事会社の依頼も無いまま放置された。シンは親戚のところの引き取られ小学校を転校した、一緒に遊んだ葵達には何も言わずに。シンなりの優しさなのだ。 (絶対に父さんの敵を討つ)そう思い始めたのは小学校を卒業する時だった。以来中学に入っても誰とも交わらず、長期の休みとなれば家を飛び出し日本中を探し回ったあの憎き化け物を探して。
「このコアの欠片が奴や奴の仲間に反応して居場所を知らせるんだ」 話をし終わるとシンは顔を上げた、三人とも重い顔をしている。 「それで、片っ端から探し回ったと・・・・」 「ああ」 孝太にそう言われるとシンは黙った。 「でも、この町に居るんだからもうすぐだよ、ね」 葵はシンを励ました。シンも気持ちが伝わったのか少し気持ちが和らいだようだ。 「何にせよ、そいつを倒せば終わりだ頑張れよ」 「はは、ありがと」 孝太の励ましにもシンは笑いながら答えた。 ふと窓の外を孝太が見ると下でビラを配っている生徒たちがいた。 「あーそういえば部活勧誘の時期だったな今」 「そういえばそうだね」 一緒になって窓の外を見る唯。 「そうだ、シン君は何か部活に入るの?」 「部活?」 説明せねばなるまい、ここ『田町第三高等学校』は他の高校と同じように部活に新入生を勧誘する時期がある・・・・が普通と違うのは他の学校は春に新入生を勧誘する、しかしここでは春に行事が重なるため三年が引退する七月まで部活勧誘ができないのだ。 そのため残された部員は必死になって新入生を入れようとするのだ、強制的に部活に入れられた生徒の少なからずいるらしい。 「と言うことなの」 と言うことなの・・・・って俺が言ったんだよ今の説明! 「あれ、なんだろ今の声?」 「何が?」 「ううん、何でもない、で、どうするの入る?」 葵に言われて考え込むがすぐに答えが来た。 「・・・・・・・・いや、やめておくよ。部活に入ったらコア探しができなくなるし」 「それもそうだね、実は私も帰宅部なんだ」 こちらに向き直った唯が言う。 「私と孝太は入っているよ部活、ね孝太」 「ん?ああそうだな」 唯に呼ばれて孝太も向いた。 「二人はどんな部活に?」 「私は、書道部。これでも大賞を取った事あるんだ」 「すごいなー」 シンは素直に驚いていた。 「俺は剣道部、今度勝負してみるか?」 「やめとくよ」 遠慮するシンの横から葵が残念そうに言った。 「えーシン君刀の使い方うまいから孝太と張り合えるよ」 「俺のは自己流だからルールが入るとだめなんだよ」 「ちぇ」 判りやすいほど葵は残念がった。 「よーし授業始めるぞ、席に着けー」 担任が入ってきて授業が始まった。 「さーてと、退屈な時間のはじまりだ」 「そういう事言わないの」 面倒くさそうに言う孝太を注意しながら二人は席に戻った。 「じゃあ、またあとでね」 「ああ」 葵も席に戻っていった。 (部活か・・・・) 黒板を見ながらシンは考え込んでいた。
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