イグニスのくちばしがシンに迫る、まともにぶつかれば黄色いくちばしがシンの体から生える事になる。 「させるかよ」 左手を離し右手に力をこめてヘアディスを食い止める、左手を下に伸ばすとシャッと刃物が飛び出た。仕込み刀だ。 ガチィィィィンと硬い音をさせくちばしと仕込み刀で鍔迫り合いになった。 腕をクロスした状態での鍔迫り合いは長くは持たない、そう考えたシンはヘアディスを蹴り付けた。 「ゴアァァァ!」 ヘアディスが離れた事で右手が自由になった、その自由になった右手の刀でイグニスを切りつけた。 「ギュァァァァァァ」 切りつけられまいと素早くシンから離れるイグニスシンはこの機会を逃すまいと足場の広い隣の床張りへと移動した。 最初の位置まで蹴り戻されたヘアディスはイグニスに目配せをした、それに気づいたイグニスはキィィィィと低く唸る。シンはこのことに気づいてはいない素早く移動を済ませ再度二匹を見据えていた。 「さあ、続きをはじめようか」 自信たっぷりにシンは言い放った、その時まるで自分をアピールするかのように甲高い声が響いた。 「キィィィィィィ!!」 イグニスだ。 イグニスはさっきと同じように急降下をしながらシンへと襲い掛かる。 「同じ手は食わない、その技は見切った!」 シンはくちばし目掛け切りかかる、キィィィィィンと言う音と共に二つの影は交差した。 「キィィィィ・・・・」 「うっ・・・・」 イグニスはくちばしを半分、シンは額と頬二箇所に傷、ひどい怪我とは言わないが額の傷は浅くても血が大量に噴き出す。 額から目に流れてくる血を片目を瞑ってやり過ごす、血をぬぐうため片手を刀から離せばイグニスの攻撃が襲ってくるだろう。 「ワンパターンな奴だ・・・・来い!」 「キィィィィィ!」 突進のようにシンへ飛び掛るそれを難なく交わすシン、折り返しを入れ連続で突進するイグニス当然それも交わす。 「いい加減にしろーーーー!!!」 交わすと同時に背中を向けたイグニス向け跳んだ。 「キィィィィィィィ!?」 方向転換するのも遅く目の前には刀を振り上げたシンの姿が。 「俺の勝ちだあああああ!!」 そのまま勢いに任せ刀を振り下ろし一刀両断の元にイグニスを真っ二つにした。 「ギィィィィィ・・・・・」 声にならない声を出しながらイグニスは砂となり風に飛ばされて行った。 「・・・・・はっ、まさか!?」 気づいた時シンはヘアディスを振り向いた、つまりイグニスは 「ぐあ!!!」 シンの目に入ってきたのは飛んでくる鉄骨だ。ゴッと重い音がしてシンは鉄骨に押され壁にぶつかりうな垂れた。 「囮・・・とはな、さすが頭がでかいだけあるぜ、ゴホッ!ゴホッ!」 せきと共に口からは赤い液体が床を汚した。 ヘアディスはイグニスを囮に使いシンの気をそらした所で攻撃を仕掛けた、卑怯とも言えるこの手ヘアディスにとっては無視された仕返しに過ぎないのだろう。 「だが・・・・聞こえなかったか・・・・ゴホ、ゴホ・・・・俺の勝ちだって」 「グウゥゥゥゥ?」 何のことだと言いたげに首をかしげる。良く見ればシンの手にあるはずのモノが無い、刀だ。 「グァ?」 辺りを見渡すヘアディス、その時何かが迫る音が聞こえた――――上からだ。 「ははは・・・これでおあいこだ」 シンの目線はヘアディスへ落ちてくる刀を見ていた。回転しながら迫る刀。 「!」 刃は、見事にザクッと言う音を出してヘアディスの首を落とした。 ザァァァァァと言う音と共にヘアディスは砂と化した。 「よし・・・・っと、言いたいけど・・・」 シンの左肩からは血が流れ出している、額の傷も伴い相当の量が流れてしまっていた。 「コアを回収しない・・・と」 足と右腕を使い鉄骨をどかした。フラフラとした足取りでまず黄色いコアを手に取った。 「もう一つ」 ヘアディスのコアに手を伸ばそうとしたとき突然コアが動き始めた。 「え?」 コアは宙に浮きそのまま上昇、屋上へと消えていった。 「そ、そんな・・・うあっ!!」 突然激痛が肩に走り貧血と共にシンはその場で気絶してしまった。遠ざかる意識の中で何かの爆発音の後遠吠えが聞こえたような気がした。
「さて、自己紹介はこの辺にして・・・・来ますよ」 ローゼンは孝太に目配せをした。 「そうみたいだな」 『斑匡』を構えなおすと立ち上がろうとするオフィス―ドに切りかかった。 「立たせるかよ!」 走りよりオフィス―ドの頭と胴体を離そうとした、が。
ガキィィィィィン
金属音、そしてそこに居るはずのオフィス―ドはいない。 「くそっ!」 右の方を振り向くとオフィス―ドが立っていた。 (なんつう早足だあれを止めないと・・・) 「グォォォォォォォォ!」 勝ち誇ったように叫ぶオフィス―ド、孝太を睨みつけ踏み込みの体制に入る。 (来る!!) もしあのスピードで切りかかられたらひとたまりも無い、避ける自信は孝太には 「避けてたまるかぁぁぁぁぁぁ!!」 孝太は避けない、真っ向から攻撃を防ぐか、切りかかる、この二つ以外に答えは無い。 「ガァァァァァ!」
ドゴォォォォォン
先ほどと同じようにオフィス―ドに火の玉が爆発、もちろん撃ったのは。 「無視しないで下さい死にますよ」 無視された事を他人事のように言い捨てたローゼン、威力はさっきより低いが一瞬の気をそらす事ができた。この瞬間動きの止まったオフィス―ド、孝太はチャンスとばかりに走った。 「ギュァァァァァァ!!」 体中を切りつけられ所々がそげている、しかし致命傷には至らなかった。 「ちっ!体中が痛くて思うように動けねえ・・・・」 間合いを取り様子を見る、頭を二、三回振り顔を上げた。 「もう一度・・・」 っと、重々しい動きでオフィス―ドが左手を上げた、低い唸り声も聞こえる。 (何でしょうか?何かを呼んでいる?) ローゼンは辺りを見回す、その目が瓦礫近くの穴付近で止まる。とらえているのはソフトボール大の大きさをした・・・ (ダイム!あれはまさかヘアディス!?) 玉はコロコロと転がりながらオフィス―ドに近づいている。 (呼んでいるのか!) 孝太の足元を通過した、だがオフィス―ドに気を取られている孝太は気づいていないようだ左手をずっと凝視している。 「孝太君、すぐに足元のダイムを壊してください!!早く」 「え?・・だいむ?って・・」 足元を転がる玉を見た。 「壊すんです!オフィス―ドにそれを渡してはいけない!」 「おふぃ・・すーど?あいつのことか?」 ローゼンの銃口から三発発砲した。
チュン!チュン!チュン!
しかし慌てて狙いが定まらず全てを外してしまった、ローゼンの手元にはカチカチと空になった銃の音だけが聞こえる。 「くそっ!早く壊してください孝太君!!」 「あ、ああ解った・・・」 が、とき既に遅し。 転がっていてたコアはもうオフィス―ドの手の中にある。 「遅すぎましたか・・・孝太君こっちへ」 「え、あ、ああ・・・」 孝太は言われるままローゼンのとなりに移動した。 オフィス―ドは手にしたコアを自分のコアへと近づけた、コアはみるみるオフィス―ドに吸い込まれ融合していった。 「げっ!あいつコアを食っちまった!」 「いや、もともと一つだったモノに戻っただけだ、しかもかなりまずい状況にね」 「どうゆう・・・」 ことだ、と言いたいようだがその声は大声にさえぎられてしまった。 「ギュオォォォォォォォォォォォォォォォ!!」 その姿は既にオフィス―ドでは無い、両腕は刃物、脚は細く素早さを感じさせ、体は岩のようにゴツゴツしており、顔は大きく知性を感じさせるような雰囲気だ。 「・・・ヤット・・・・モド・・・ッタ」 知性がある証拠に口が聞けるようだ。 「な、何だよあいつっ!さっきより強そうじゃねえか、ほんとにオフィ何とかってやつなのか?」 「いえ、アレはすでにオフィス―ドではありません、凶暴、狂暴、強暴、どれにでも当てはまる怪物、『タイラント』です」 「タイラント・・・・」 タイラントは孝太が今まで見てきたコアとは違っていた、その容姿からでる威圧感、その場にいれば死を連想せざるを得ない状況となるだろう。 その威圧感を真っ向から受け孝太は一歩退いてしまった。これは屈辱だ、いままで逃げる事だけは考えまいとしていた孝太にとってこの一歩は自分の弱さを実感した事になるのだから、孝太は自分の足を見た少し震えていた。 「・・・・へへ、これくらいでビビッているようじゃ斑鳩にでかい事言えねえな・・・」 小声で自分をあざ笑った。 「何です?怖いんですか、震えていますよ足」 ローゼンは呆れたように指摘した。 「これはよお・・」 上等だとばかりにおもむろに『斑匡』を逆手に持ちそして―――― 「武者振るいってんだよぉぉぉぉぉっ!!!」 太ももにつき立てた。飛び散る赤い・・・紅い鮮血、足元に美しい水溜りが広がる、自然と震えも止まっていた。 「無茶をしますね」 「へへ、よく言われるよ、援護頼むぜ・・・」 「ラジャー」 ニコッと笑顔を見せたが孝太の目は既にタイラントに向けられていた。 「グオォォォォォォォォォ!」 ビリビリと振動が伝わるほどの叫び声、タイラントはゆっくりと近づいてくる。 「さあ、続けようぜ、どちらが倒れるか勝負だっ!」
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