「さーって行くかな」 持っていたカップのお茶を飲み干しカチャッと置いた。 「彼等も気づく頃だな・・・」 ウィンドウの外を見ていると外でせわしなく走るシンと孝太が彼の目に飛び込んできた。 「よし」 そう言って立ち上がり足元の大きなアタッシュケースを持ち上げた。
カランカラン
外に出ると彼はビルの群れの中にある鉄骨の塊を見た。建設途中のマンション・・・ではなく建設に行き詰まり製作を断念せざるを得なくなり廃墟になったビル。建設機械どころか安全用の網もはがされ丸ボウズ状態の廃墟を彼は見ていた。 「あそこか・・・」 彼はこの熱い中トレンチコートに身を包んでいた、オレンジ色の髪に赤い瞳、いかにも意志の強そうな顔立ちをしている。 「お前も来るのか?」 今まで気づかなかったが彼の後ろにはもう一人同じ背丈の少年が立っていた。彼は振り返らず少年に話し掛けた。 「・・・・・・・」 少年は白い髪に額に黒い丸の刺青が彫られていた。無言の少年を気にせず彼は続けた。 「意志を持った『ダイム』なんてお前ぐらいなのに会話はしないようだな『イリス』」 彼は独り言のように言った。それよりも彼の言っている事はよくわからない言葉が多い、『ダイム』、何のことだろうか『イリス』とは少年の名前なのだろうか? 「お前は・・・・」 「お!やっと喋ったな」 何が嬉しいのか彼は少年を―――――『イリス』―――――と呼んだ少年を笑顔で見た。 「・・・・・死にたいのか」 イリスの言葉は突拍子の無い物だったそんな言葉にも彼はニコニコしながら答えた。 「死にたい?違う違う俺は殺す方だよお前とお前の仲間をな」 この台詞にイリスは眉を動かした。 「・・・・・」 黙りこんだイリスは感情を目で表し彼に伝えた、その瞳はこう伝えていた『お前を消す』と。 「じゃあな」 そう言うと彼は廃墟へと歩き出した。 「・・・・ローゼン」 イリスは彼の名を口にすると共にその場から消えてしまった。
「ここだ!」 シンと孝太の二人は廃墟のビルを見上げた。 「この廃墟が『奴』の寝床なのか斑・・・・!」 ビルを見ていた孝太がシンの顔を見たとき声が止まった、シンは怒りと言うには静か過ぎるほどの表情をしていた。 「行こう」 静か過ぎるほどの声で孝太に声をかけシンは廃墟へと歩き出した、その後ろを無言で孝太は続いた。
カン、カン、カン
鉄骨で出来た階段を上がるたび金属性の音がする、丁度ビルの真中辺りまで登った所で孝太は下を見た。 「落ちたら一間の終わりだなこりゃあ」 吹きすさむ風の音を聞きながら孝太は冷や汗をたらした。安全用の網や鉄骨が無いこのビルは所々が穴だらけで何処を見ても空が一望できた、階数にして十五階の高さぐらいだろうか以前としてシンは静寂を保ったまま階段を一歩一歩と上がっていた。 「斑鳩、言っとくけどな刺し違えるような事はするなよ」 「・・・・」 「俺はな、好きで協力してるんだ途中で逃げろと帰れとか言っても聞かないからな!」 突然とばかりに孝太はシンに話し掛けた、自分の静か過ぎる態度は孝太に要らぬ考えをさせ心配させたのだと気づき振り返った。 「お?・・・」 振り返ったシンの顔は笑顔だった、作っているのではなく本当の笑顔。 「大丈夫、そんなことさせないからさ」 「え?」 「協力者として死ぬ時は一緒に死んでもらうから」 「お前な〜」 がっくりと肩を落としながら孝太は言った。 「気持ちも和んだ所で最上階だよ孝太」 「へいへい」 頭をかきながら孝太は屋上へ足を踏み入れた。が、そこには土木作業用につまれたセメントや道具だけで他には何も見当たらなかった。 「おかしいな」 シンはしばらく様子を見る事にした。
丁度その頃廃墟のしたでは葵と唯が到着していた。 「頑張って二人とも」 二人の無事を祈りながら見上げていると後ろから追いかけてくる声が聞こえて来た。 「ハァ、ハァ、やっとハァ、見つけたわよ、ハァ・・・」 やってきたのは忠告を無視して追いかけてきた寛子と島田の二人だったちゃっかりと予備のカメラも持参して。 「来ちゃったんですか大野さん」 驚くというよりその根性に感心した唯が聞いた。 「当然でしょう!この上に特ダネがあるのよ前回みたいにテープなんか売らないで私の利益にするわ!!」 「はぁ、そうですか・・・」 葵と唯は顔を見合わせて溜息をついた。 「さあ行くわよ!」 と、寛子が階段を上ろうとした時それを止める声が聞こえた。 「止めた方がいいですよ」 四人ともその声のほうを見た、トレンチコートにオレンジ色の髪、そして赤い瞳喫茶店にいた『彼』――――ローゼン――――だった。 紳士な声と笑顔でローゼンは四人を見た。
屋上ではシンと孝太が近からず遠からずの距離を保ちながら探索をしていた。 「何かあったか?」 「いや、なにも・・・」 孝太が聞いてはシンが首を振る、かれこれ十分近く同じ事の繰り返しだった。 「たく、何処に隠れてんだよ奴等は!」 探索の限界が来たようだ、孝太はシンから離れガラクタの山に向かった。が、この孝太の行動が失敗だった。 ゴソゴソとガラクタの山が動いた。 孝太がン?と思った瞬間山から素早く飛び出す影「コア」だ。足の細さからしてシンが一番最初に倒した方だろう、おまけに腕にはよく切れそうな刃が付いていた。 それと同時に他の所に隠れていた「コア」もシンに飛び掛った。こちらは岩を壊すために殉職(?)したコアを吸収した方だ。 「「おっと」」 二人は別々な場所で同じように避けた、がしかし着地は違った。 孝太は横に跳び上手く避けたがシンは運悪く建設途中で投げ出された屋上の穴に落ちてしまった。 「なっ!・・・」 ガクッとなり一気にシンの体は階下へと消えていった。 「斑鳩!!」 孝太の叫びもむなしくシンは消えていた、それを追うように殉職したコアも穴へと消えていった。
その頃葵達は突然現れたなぞの少年と――――― 「じゃあローゼン君も「コア」を倒す旅をしているの?」 「そうだな〜旅というよりも仕事みたいなものかな?僕等の機関では「コア」でなくて「ダイム」って言うんだけどね。それにしても『コア』ってネーミングは考えたね、確かにアレは中心核みたいな物だしね名付けは誰だい葵ちゃん?」 ニコニコと笑みを含んだ顔で尋ねた、なんとローゼンと葵達はちゃっかりと意気投合していたのだ。 「え?名付け親ですか・・・・あ!」 ローゼンに聞かれて思い出したようだ、今その名付け親であるシンは戦いの真っ最中だったのだ。 「シン君たちの所にいかないと!」 慌てて駆け出そうとする葵をローゼンは前に出て止めた。 「だ〜か〜ら、危険だって言っただろ?」 「でも・・・」 「僕が行くから、皆はここに残っていてね」 手を振りながらビルを上ろうとするローゼンに寛子が声を掛けた。 「いいえ、そうはいかないわ!私たちも行きますからね」 寛子は一歩前に出てローゼンの言葉を拒否した、ここまで来た以上絶対に屋上の映像を撮るつもりらしい。ローゼンは困ったような声でもう一度寛子に言った。 「駄目ですよ、危ないんですから何より普通の人がいても邪魔なだけですよ」 「なっ、何ですって!」 寛子もこの言葉には怒りを押さえられず怒り出した、特に「邪魔」と言うところが一番効いたらしい。 「邪魔とはなによ邪魔とは!これでも現場の立ち回りぐらい知っているわ、だから・・・」 通しなさい、と言おうとしたがローゼンの低い声がそれを防いだ。 「なら、死にますか」 「あ・・・」 一瞬寛子は言葉を失った、ローゼンの目は先ほどの穏やかさは消え今あるのは目の前の邪魔者を排除する暗殺者のような冷たい目。 「もう一度聞きます、死にますかそれとも立ち止まりますか」 寛子の頭の中は既に立ち止まるという答えしか考えられなくなっていた、少しでも動けばゴミくずのように扱われるのは体全体が感じ取ってる。 「・・・解ったわ、ここに残るわ」 寛子の口から最善の答えが出た。 「そうですか、よかった」 ローゼンの目は元の穏やかな目に戻っていた。 その時廃墟ビルの屋上から何かが落ちる音が聞こえた。 葵達はビルの上を見上げるとシンが二つ下の階へ落下していた。 「あ!シン君が!」 高さにして百メートル以上あるビルなのに最上階近くの人が見えるのだろうか、というのは置いといてローゼンは話を進めた。 「急がないといけませんね、どうやらおまけが下りてきたようです」 見るとシンの上から「コア」が降って来たのをローゼンはとらえていた。 「おやおや、なんと最上級ダイムのヘアディスですね。頑丈な上に頭がいいですからね彼は苦戦しますね」 独り言のように説明口調でローゼンは呟いた。
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