説明する事十分大体の予定が立った。 まずシンと孝太の二人が隣町へ行く、この町で『コア』の反応は無くどちらかと言うと別な町へ散らばったらしいとの事。よって隣の町『広柿町(こうしちょう)』から捜索を初め、二手に分かれ散らばった『コア』と元凶となった『奴』を捜す事になった。 「昼までには帰ってくるがもし帰れなかったら・・・・」 出発しようとした時シンはもし帰ってこれない時のことを話そうとしたが葵がシンの口を止めた。 「大丈夫、ちゃんと帰ってくるよ。ね」 「ああ」 頷いて廊下へ出た。孝太も何か言おうとしたが言葉が出なかった。 「・・・行ってくる」 笑いそれだけ言って廊下へ出た。葵は困った顔で唯を見た。 「孝太・・・何も言わないね」 「いいんだよ、孝太は何も言わなくても帰ってくるよ」 そう言う唯の顔は笑っていた、葵も笑った。お互いにしか解らない事もあるようだ。 下駄箱で靴を履き替え二人は校庭へ出た。と、孝太があの『緑色の鍔』をポケットから取り出した。 「斑鳩これは何だ」 シンは歩きながら孝太に言った。 「『垢(あか)』は使ったのか?」 何のことかと思ったがすぐに孝太は『赤い鍔』を思い出し頷いた。 「赤いほうは使ったさ、すげー重くなる鍔だろ?」 「そうだ、解っているとおりあれはトレーニング用にしか使えない失敗作だ」 「失敗作?あれお前が作ったのか?」 「父が作った」 頷きながらそうなのかと返事をした。 「で、こっちは」 孝太は緑の鍔を見た。シンはいぶかしげに聞いた。 「はめたのかそれ?」 「ん?はめたぜ、でも何も起こらなかったぜ」 「はめた後はどうしたんだ?」 シンは立ち止まり孝太を見た、孝太は手を頭にやり言った。 「何も起きないからすぐに外した」 だめだこりゃといった表情でため息をついた。 「孝太、握力はどのぐらいだ?」 今度は何のことだと言おうとしたが何か考えがあるんだと孝太は思い質問に答えた。 「・・・・右・六十、左・五十五だけどこれが何と関係あるんだ」 シンは孝太の手を見た。 「両手ならギリギリ大丈夫かな、『斑匡』に『緑(りょく)』をはめて両手で構える」 「りょく・・・ああこの緑の鍔のことか」 そう言うと孝太は『斑匡』の鍔を外し『緑』と言われる鍔を付けた。 「・・・・何も起きないぞ」 「両手で構えるんだよ」 「ああ、そうだったそうだった」 言われて孝太は剣道のように構えた、すると刃が白く光りだした。それに応じて孝太の力も湧いてくるような感じがした。 「おお、なんかすげえなこれ。斑鳩」 孝太はシンを呼んだ、返事をせずそのまま説明を始めた。 「それは自分の中にある『気』というものを形にして遠くの適に刃を飛ばすものなんだ、つまりは遠距離攻撃用のアイテムなんだ」 説明をしているシン、だが孝太は興奮して耳に入っていなかった。 「刃を飛ばすとき反動が来るんだ、その反動に耐えられる握力を待っていないと刀ごとすっぽ抜ける、それに『気』を飛ばすと言う事はそれだけ体力が減る・・・・ん?」 説明を続けているとおもむろに孝太が刀思い切り振り下ろした、と同時に刀の先から三日月の形をした白い刃が飛び出した。 「バカ、孝太!」 呼び止めるのも遅く刃は真っ直ぐ校庭の隅にある木を目掛けて飛んでいきぶつかった。木は斜めにスライドするように落ちた切り口は見事なまでに綺麗に切れていた。 「すげーな斑鳩!・・・・あれ?」 興奮の収まらない孝太はシンを見たがそこにシンの姿は無く校門の影からこちらを見ていた。 「どうしたんだよ!?」 「バカ!早く来い!」 「あ?」 何のことだと思い孝太は立ちすくんだ、その時校舎の窓が空き驚きの声があがった。 「何だ今の音は!?」 「ともかく百十番通報だ早く」 孝太は事態に気づき慌てて校門へ走った。 「やっべー!」 二人は坂の下まで駆け出した、商店街の入り口近くで二人は息を切らしながら止まった。 「はあ!はあ!・・・・なんてこった・・・はあ!はあ!」 「孝太のせいだろうが・・・はあ」 「仕方ないだろう、ちょっと試したかったんだから」 責任を感じていない孝太にシンは怒鳴った。 「いいか、あれが木でよかったが人だったら大惨事だったんだぞ!」 「それは悪かったよ、じゃあ被害を減らすためにもあの飛び出た奴のコントロール方法を教えてくれよ」 まだ息の上がっている孝太、シンも同じだった。呼吸を整えて一言。 「・・・無い」 「え?」 孝太は今聞いた事を疑ったそんなまさか、と言う顔で。 「ははは、またまた冗談だろ斑鳩」 明るい声とは裏腹にシンの表情は鬼気迫るものだった。 「冗談の訳無いだろう、本当に真っ直ぐにしか飛ばないんだそれは」 孝太は笑いを止め言った。 「マジ?・・・」 「・・・・・・」 シンは頷いた。孝太の顔もみるみる青くなって行ったがすぐに元に戻った。 「で、でも最初木に当たった時貫通はしなかったぞそれなら真っ直ぐ飛んでも・・・」 「避けられたら・・・・避けた所に人が居たら」 想像しただけでも恐ろしい、あの切れ味なら人は即死だろう。孝太はもう一度聞こうとしたときシンは更に恐ろしい事を言う。 「貫通しないって言ったな孝太・・・・」 「あ、ああ言った」 「貫通するしないはランダムなんだ・・・・・貫通型の刃は緑色で木なら十本くらい簡単に切り倒す事が出来る」 孝太は木の後ろにあったものを思い出す大きなマンションがあった、もしそこに人がいたら。孝太の顔は忙しくまた青くなった。 「誰も居ない時に使えよ・・・孝太」 孝太はゴクリと唾をのみ頷いた、自分の持つ責任を実感したのだろう。『斑匡』から『緑』を外し普通の鍔を取り付けた。今から戦うと言う時に緊張してどうすると思ったが早々止まるはずが無く手が震えていた。そんな孝太を見てシンは言った。 「俺の父はそれを自由に操っていたがな」 「え?」 もちろん嘘である、孝太を少しでも安心させようとシンはありもしない話を吹き込んだのだ。 (斑鳩の親父はこれを自由に・・・・・) そうだとしたらすごい事だと尊敬の眼差しで『斑匡』を見た。 「よし!俺だってそうなってやる!」 高々と『斑匡』を掲げ宣言した。緊張が取れたのを確認したシンは気合を入れた。 「孝太、いくぞ!」 「よっしゃー!」 二人は気合を入れ駅へと向かった。目指すは隣町『広柿町』である。 広柿町は大手企業が開発失敗に終わった土地のほとんどを別な企業が買い取り再開発した町である。ここには沢山の人住めるようにとアパートやマンション計画が立ち民家がほとんど存在しない町に出来上がった。人は高層マンションに住み残った土地を繁華街、商店街などの店を並べたのだ。人口密度の高いこの町を『コア』が狙った場合、怪我人などが出るのは目に見えていた。小さな病院しか存在しないこの町は別な病院へ移す搬送作業などでごった返し人々はパニックになるだろう。 『広〜柿町、広〜柿町、乗り換えは〜六番せ〜ん』 電車から降りた二人は駅のホームから町を見渡した、正面に大きなデパートがありすぐ横には銀行、更に右を見れば高僧マンションが連なり繁華街も見える。バランスが悪い事この上ない町だ。 「いつ見ても落ち着かない町だな・・・」 孝太が周りを見てため息をついた。 「再開発都市なんだ、仕方ないさ」 そう言うと階段へ歩き出した。 「へーよく知ってたなここが再開発なんて・・・・ん?」 追いついた孝太がシンの手元を見た、何かの紙を持っていた。 「パンフレット・・・・」 感心して損したとばかりに手を上げた。 改札を出てもう一度見渡すとアンバランスな事が再度確認できた、太陽はデパートで隠れ、マンションやアパートばかりが目に付いた。 うんざりした様子で孝太は喋った。 「それじゃあ、二手に分かれるか」 「そうだな、孝太はどっちへ行く?」 孝太は商店街の方を見て顔をしかめた。 「バランスの悪い所は任せる、俺は裏から回るよ」 そう言って孝太は商店街と反対の公園の方へ指を向けた。 「解った、それじゃあ二時間後の午前十一時半にこの駅前で」 「オーケー」 お互いに確認をし頷いた。 「じゃあ言ってくるわ、後でな」 「よろしく頼むよ」 立ち去る孝太を見送り反対の商店街へシンは歩き出した。 少し歩くと右に繁華街、左に商店街が見えた。 「確かにこれはバランスが悪いな・・・・」 手始めに繁華街へとシンは足を踏み入れた。小さな坂を下り、まわりを見渡すと店、店、店の列、民家などは一切無く買い物客ばかりが目に付く。 しばらく店などを眺め見学しているとだんだん人が増え始めてきたのに気づいた。昼時になり皆食事や買い物をしに来たのだろう。 「孝太が嫌がるわけだ、おっとすみません」 考えて歩いていると人にぶつかり謝った。その後、町の見学も終わり捜査を始めようと歩き出しと所・・・・・ 「っと、すみません・・・あ!大丈夫ですか?」 人にぶつかっては謝り歩き出し、また人にぶつかって謝るを繰り返していた謝るたびに被害を受けた人や周りの人はシンを避けた、それもそうだろう刀を入れた長い袋を持って歩いている上頭を下げると袋が倒れてくるのだから。 すでに五人以上人にぶつかっただろうシンは人ごみを出ようと道路へ歩いた、当然人は歩いておらず丁度いいと歩き出した時。
パッパー!
突然車がクラクションを鳴らして走ってきた、危うく衝突しかける所シンは持ち前の運動神経で後ろへと避けた。 「あ、危なかった・・・」 仕方なく歩き出そうとしたが人ごみに歩ける場所は無く何とか歩道橋の上へ登り休む事にした。 「人だらけだな、居心地が悪すぎる・・・」 歩道橋の上から階下を見下ろす、人が車道を挟んで規則正しく歩いている、皆目的の店の道を歩いているのだろう歩道橋を使うものなど誰もいない。 (何のための歩道橋だよ・・・) その時刺すような気配をシンは人ごみから感じ取った。 「え?」 辺りを見回すがそれらしい人は見当たらなかった。 「気のせいか・・・・?」 周りを見るのをやめ空を見上げた。清みきった空は人ごみがある事を忘れさせてくれた、しばらく眺めていると誰かが歩道橋を上ってくるのを揺れで感じた。 「・・・・・」 横目で見ると同じ歳位の少年だった、はっきりと確認できないが大きなアタッシュケースを持っているようだ。 (随分と落ち着いた人だな・・・) まあいいかと見るのをやめまた空を見た。 (どうでもいいか・・・・・) 少年はシンの後ろを通過しようとした時チラッとシンを見た。そのまま通り過ぎた時少年は喋った。 「いいのかこんな所で油を売っていて、『捜し物』はすぐに動くぞ」 「え?」 驚いてシンは階段を下りる少年に向き直った、すぐに階段へ走ったが少年の姿は人ごみへ消えていた。 「何だったんだ?彼は・・・」 階段の所でシンは人ごみをしばらく見ていた。
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