二人は丁度駅の出口にいた。 「ほら、あそこが『四子神公園』だよ」 葵が指をさしたところには確かに公園のような入り口があった、壁が両脇にあり大きく『西』と書いてあった。 「あの『西』って言うのは?」 壁を見ながら聞いた。 「あーあれはねこの公園にある四つの入り口の西門って言うの」 「なるほど・・・」 口では納得しているがどうも疑問が離れないでいる様子だ。確かに西門と記すならあんなに大きく書かずともわかるはず、それによく見ると注連縄のような物が彫られていた。 (なんだ・・・削られていてよく見えないな、イタズラか?) 彫ってあるのを削ったのがイタズラなのかそれとも注連縄の形を彫ったのがイタズラなのか見分けがつかないほどボロボロだった。 「・・・じゃあ行こうか」 「うん」 シンは疑問を振り払い中へ入っって行った。入り口付近は子供が遊べるようなアスレチックなどが設置されていた、たぶんそれぞれの入り口に一つずつ置いてあるのだろう。二人はしばらく子供達の遊ぶ姿を見ていた。 「いいな子供は、俺たちもあのくらいの頃出会ったんだな」 「そうだね」 しばし思い出に浸る、空は雲一つ無い晴天でとりもはしゃぐ様に飛んでいた。 「俺に子供ができたらここで遊ばせたいな」 予想もし得ない言葉がシンの口から出た、素直な気持ちを出したシンとは逆に葵は顔を赤くして慌てた。 「え!あ!こ、子供って!・・・・」 「どうした葵?」 そんな葵にシンは訳がわからない顔で聞いた。 「え!あ、あはははは。じゃ、じゃあ次行こうか」 「あ、ああ」 葵はスタスタと歩きシンも後に続いた、シンはまだ葵の慌てた原因がわからないでいた。 (どうしたんだ葵?) 当の本人は早足で歩き、気を紛らわそうと必死だった。 (何考えてるんだろ私、シン君は素直な気持ちを言ったんだからそんなことじゃないって!) 自分に言い聞かせながら立ち止まり考えた。 (でも、何で慌てたんだろ私・・・・それに一昨日も・・・) 『図書部』でのことを思い出しまた顔が赤くなる。 (もしかして私・・・・シン君が・・) そこまで考えた時後ろから追いついたシンが葵を呼んだ。 「早いよ葵、何を慌てているんだ?」 考えを中断しシンに向き直った。 「あ、ううん何でもないよ、行こう」 「あ、ああそうだな」 二人はまた歩を進めた、歩きながら葵は自分の気持に向き直った。 (そっか・・・そうなんだ私・・・) 一つの答えが出た。答えを出した葵がシンを見た、自然と顔が赤くなるのがわかり葵は俯いた。 「?」 そんな葵をシンはハテナ顔で見た。 アスレチックを過ぎると林に面した土の道が所々に繋がっており五つのコースに分かれていた。 「右が池に繋がっていてその隣が丘の方に行けるの。で、真中が林に行けて、左が広場、最後の道は・・・なんだっけ?」 何だけっておい!忘れたのかよ!・・・仕方ないな、最後の道は反対側に出るための道で真中には十字路があるのだ。余り使われない道なので葵も忘れていたのだろう。 「説明ありがとう」 どういたしまして。 「何が?」 「ううん何でもないよ」 葵は首を振りながら答えた。 「まあ、いいか。あーそれでどっちに行くんだ?」 「一番左の道、広場に行くの」 そう言って葵は歩き出した。途中池などがありそこにいる鳥を見ながら歩いていると広場へ向かう道と違うもう一本の道が出た。 「あれ、立ち入り禁止?」 道の向こう側には黄色いロープで『立ち入り禁止』と書かれた札が張られていた。 「どうしたんだろう?土砂崩れかな、この公園崖が多いし」 「そうなのか?まあいいか先に行こう」 これといって気に止めずその場を後にした。しばらく歩くと出口が見え、そこを出ると一面緑色の景色が飛び込んできた。草原のように広い広場には家族で来ている人やペットと遊ぶ人などが見えた。 「この広場はねこの公園で一番広い所なんだ、行こう」 そう言って歩き出した。適当な所を見つけると葵は座り込んだ。 「早く早く、こっちだよ」 呼ばれて隣に腰を落ち着かせた。風が吹いて草や二人の髪を揺らした。 「歩いてお腹すいたでしょ、お弁当にしよ」 そう言って葵はリュックから弁当箱を取り出した。 「そうだな、小腹もすいてきたし昼にするか」 ふたを開けると色とりどりのおかずが入っていた。おもむろに葵がフォークを取り出しジャガイモに刺した。 「はいシン君、あーん」 この行動に少し動揺した。 「え、ええ」 「ほらちゃんとあーんして」 「あ・・ああ、あーん」 葵の手によってジャガイモがシンの口に収まった。 (まあ・・・いいか骨休めだし・・・) 自分を納得させながらジャガイモを飲み込んだ。 「はい、あーん」 「・・わかったよ、あーん」 「今度は肉団子だよ、おいしい?」 「ああ、とってもおいしいよ」 そう言うと葵は心底嬉しそうに微笑んだ。これはハタから見れば恋人同士にしか見えないだろう。 お弁当を食べ終わるとしばらく二人はそのまま景色を眺めた。 気づくと夕方になっていた、いつのまにか寝ていたようだ。 (葵は・・・まだ寝てるな) しばらくそのままでいたがやがて葵が目を覚ました。 「ん・・・あれ、寝てたの私?」 「俺もだよ、時間も時間だし帰ろうか」 「うん」 立ち上がろうとしたが起きたばかりのため葵がバランスを崩した。 「きゃっ」 「おっと、大丈夫か?」 抱きかかえる形でシンは葵を抱えた。 「あ、ありがとう・・」 顔が赤いのは夕日のせいだろうか。公園の中を出口に向かって歩いているとシンが声をかけてきた。 「今日はありがとう葵、おかげでノンビリできたよ」 お礼を言われて葵は少し照れたように言った。 「いいんだよお礼なんて、このところシン君皆に振り回されてたから・・・・・」 「はは、それでも嬉しいよ。また来たいなここに」 「うん」 少し黙っていたが今度は葵が話し掛けてきた。 「でもさ、変わったよねシン君・・」 「俺が?そうかな」 シンは上を向いて考えた。 「そうだよ、初めて学校に来た時は静かで声も掛けにくいような存在だったのに今じゃ学校中の人気者だもの。それに明るくなった」 シンは葵を見た、笑顔だ。 「ありがとう葵・・・」 「う、うん・・・」 顔を赤くして葵は返事をした、丁度出口に着きとまった。 「あ、あのねシン君・・・」 「なんだ、改まって?」 何かを必死に口に出そうとしていた。 「あ、あのね・・・私、私ね!」 と、その時二人を呼ぶ声が。 「おーい!二人とも大変だ!」 やってきたと言うより全速力で走ってきたのは孝太だった、後ろには遅れながらも唯もついてきていた。 「ど、どうしたんだ孝太!?そんなに慌てて」 孝太は肩で大きく息をしながら言った。 「落ち着いて聞いてくれ、さっき図書館へ行ったんだ」 「何でまた図書館なんだ?」 シンが言うと孝太は戸惑った。 「え、あ、そんな事よりも聞けいいか図書館の倉庫で古い文献を見つけたんだ」 そう言って持っていた本を取り出した、ボロボロに擦り切れていたが確かに本のようだ。 「これがどうしたの」 後ろにいた葵も中が気になった。 「いいか、よく聞けよ・・・・」 「・・・・・」
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