空には赤く光る玉が飛んでいた、地上の者達は誰も気づいていない。玉は高いビルの屋上へとあがりとまった。一つの影がその玉に手を伸ばし近づく、影に気づいた玉は光を強めその手の上に乗った。 「グウウウウウウ」 手の持ち主の胸には手の中にある玉と同じ大きさだった。低く唸ると持っていた玉を自分の胸へと押し当てる。
シュウウウウウン
玉は吸い込まれるようにして消えた、手には何も残っていない。 「ガァハアアアアアアア」 大きく呼吸をして胸元を確かめた、玉が消えた代わりに胸の玉が一回り大きくなって光った。 「グルルルル」 満足そうに唸り何処かへと消えていった。方向は・・・・『四子神公園』の方角。
夏休み初日――― 葵とシンは図書部にいた。だがいつもと違いなぜか二人とも元気が無かった、一体何があったのか。 「・・・・暑い」 不意にシンが元気の無い理由を口にした。 「うん・・・・暑いね・・」 葵もうな垂れたまま言う。 なぜ元気が無いのか、それは気温が三十五度もある猛暑で窓も無い部屋に閉じこもっているからである、なにせこの部屋は窓も無ければ勝手な改造でクーラーも無い、そのため室内に熱がこもっていたのだ。 「あーあ、室温が四十度超えちゃった・・・」 計りを見て葵は元気の無い驚きを見せた。 「まずい・・・このままだと干物になる・・・」 この状況が続いた後の自分のなれの果てを思い浮かべた。 「そうだね、何とかしないと・・・」 せめて扉だけでもとシンが手を掛けると同時に何かが飛び込んできた。 「うわ!」 その勢いにシンは驚き床に腰を落とした。入ってきたのは扇風機を抱えた唯だった。 「はい、使わなくなった扇風機持って来たよ」 扇風機をおきながら唯は胸を張って言った。 「感謝してよ、家の中かき回して見つけたんだから・・・ってあれ?」 見るとそこに二人の姿は無かった。 「あー涼しい、生き返った」 「ホント、ホント、あ!唯、ありがとね」 二人はそそくさとコンセントをはめ、強風にあおられていた。それを見た唯はやれやれと言う顔をしていた。
所変わって体育館、今ここでは剣道部が練習をしていた。その中には試合を見守る孝太の姿が。 「メーン!」 「ドオー」 技の出し合い、お互い間合いをとり一人が前へ。 「面!」
バシーン
「一本!」 審判が旗を上げた、互いに礼をして自分達の場所へと戻る。 「お疲れさん」 孝太が戻ってきた一人に言う。面を外し大きく深呼吸する。 「ふう、何がお疲れだよ、次はお前の番だろ」 「そうだったな」 他人事のように言うと孝太は立ち上がり前へ出た。 (副部長が相手か・・・) 目の前の落ち着いた相手はこの剣道部の副部長だった。 「お手柔らかに頼むよ」 軽い気持ちの副部長とは逆に孝太は気合十分だった。 「やだね」 同級生だからか口は達者だが、声は真剣だ。 「はじめ!」 一例を済ませた後、竹刀を互いに向け試合が始まった。 お互いに見つめあったまま動かない。 「はっ!」 「くっ!」 前へ走った――――――
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