部屋に戻ると葵がイスに座っていた。 「あ、お帰り、どうだった?」 シンも近くのイスに座った。 「倒せた、けれどあいつじゃなかった・・・・おそらく分身だ」 「そっか」 葵はシンがわき腹を押さえているのに気づいた。 「怪我してるよ、手当てしなきゃ」 「ああ」 葵は救急箱を取り出し傷口の手当てをした。 「ちょっとしみるよ」 そう言って消毒薬を当てた。 「うっ・・・・」 痛みをこらえながらシンは顔を歪ませた。葵は手際よく包帯を巻いていった。 「これでよし」 箱を片付けながら言った。 「ありがとう・・・」 シンは制服を着て深く腰掛けた、葵も横に座った。 「・・・・ところで、さっきはどうしたんだ?急に黙り込んで」 思い出した葵はまた心臓が速くなるのが解った。 「あ、ええと、その・・・・あはは・・・・」 口もしどろもどろになりそのまま俯いてしまった。 「・・・・・・・今度、どこか行くか?休みだし」 長い沈黙の後シンが言った。 「え?」 顔を上げると笑顔のシンが見えた。 「二人でさ、子供の頃行けなかったような所とか、な」 「・・・うん」 少し笑顔で頷いた。 「じゃあ、そろそろ行こうか」 「・・・うん!」 二人は部屋を出た。 帰り道葵とシンはゆっくり歩いていた。 「葵はどこに行きたい?」 「私はピクニックかな、お弁当もって」 元気になった葵にシンは胸をなでおろした。 「そうか・・・」 「シン君は?」 聞き返されて葵を見た。 「どこでもいいよ、葵の行きたい所で」 「あーずるい!私に聞いておいて自分だけ内緒はずるいよ」 「あはははは、わかったよ、そうだな・・・俺はこの町でまだ行った事の無い所に行きたいかな」 「行った事の無い?」 葵は首をかしげて聞いた。 「ああ、引っ越す前は家に居てばかりだったからまだ全部街を見たことないし」 「そうなんだ」 そんな会話をしながら気づくとシンの家への分かれ道にきた。 「じゃあここで」 「うん、また明日連絡するね」 「ああ」 そう言ってシンは歩いて行った、見送る葵の顔はどこか嬉しげだった。 (たぶん葵は気づかれしてるんだろうな、うん。何処か連れて行けば元気になるだろう) 自分を納得させ家路につくシンだった。
孝太は画面に向かって銃を乱射していた。
ガガン ガガン ガガン
銃といってもゲームのコントローラだ、ここはこの前唯がナンパされたゲームセンター孝太は書道部へ唯を迎えに行った後「涼んでいこう」といって近くの店、つまりゲームセンターに入ったのだ。 「ふう・・・・終わった」 ゲームをクリアしてコントローラーを置いた孝太は後ろで座っている唯の方へ行った。 「さすが孝太、新記録だね」 「まあな」 画面は孝太の名前が光っていた。 「それはさて置き・・・・唯、どうした?」 見ると唯は落ち着きが無かった、何か警戒しているようだ。 「え、ううん・・・ただこの前みたいになったら嫌だなと思って・・・」 孝太は気づいた。 「大丈夫だよ、また来たら俺が何とかするよ」 「・・・・孝太」 少し喜びながら孝太を見た。 「大丈夫だよ」 もう一度言った。 「・・・そうだね」 そう言うと唯は立ち上がった。 「じゃあ次はあっち行こ」 「わかった、まだ時間があるしとことんつきあうよ」 二人はこの前のUFOキャッチャーの方へ歩いた。三十分後唯は抱えられないほどの商品を持っていた。ゲーム機の中は空っぽに近い状態になっていた。
ガチャ
シンは家に帰ると自分の部屋に行きベットで横なり考えた。さっきとは違い暗い顔をしていた。 (あいつは・・・分身なのか?・・・・もし他にも『コア』が存在するのなら・・) 自分に問いかけながら考える、だが答えは出ない。 (傷・・・・・) シンは傷を触りながらもう一度考えた。 (傷は付けられたが威力は無い・・・・だとすると・・・・) シンはこう考えた、ただの分身でなく自分を分裂させ直接接近してきたと。 (力・・・知能・・・素早さ・・・防御・・・自分を四つに分裂?まさかな・・・) まさかであってほしい、そう考えながら体を起こした。 (さっきの奴は素早さの分身だとしたら・・・・・力が無いのか?・・・・・だからかすり傷で済んだのか?・・・まてよ!) シンは思い出した、『コア』を砕きそこなった事に・・・ (あの時、砕けなかった『コアの分身』・・・・あれが持ち主に戻ったとしたら・・・・それに他の物体に取り付くことも可能だ) コアを砕き損なった事を後悔し慌てて外へ飛び出した。町中くまなく捜した、学校、神社、裏通り、商店街、駅、駅向こうの町。しかし『コアの欠片』には何の反応も示さない。 走り回っていると商店街に戻っていた、疲れて歩いているとゲームセンターから唯と孝太が出て来るのが見えた。 「あ、シン君だ」 唯がこちらに気づきシンは足を止めた。 「よお斑鳩・・・・・どうした息なんか切らして大丈夫か?」 孝太は肩で息をしているシンに心配そうに言った。 「いや・・・・大丈夫だ」 慌てていることを悟られぬようにシンは目をそらしたがそれを見逃す唯では無い。 「でも何か深刻そうな顔しているよ、心配事があったら遠慮なく言ってよ!」 シンは目を戻した。 「・・・・大丈夫、本当に何でもないんだ」 隠そうとするシン、孝太もそれに気づいたようだ。 「唯、本人がこう言ってんだ大丈夫だよ」 「でも・・・・」 孝太に言われて心配を強くした顔を向けた。 孝太は唯に頷いて顔をシンに向けた。 「何か急いでるみたいだが、そう急ぐなよ・・・慌てずゆっくり、な」 孝太は親指を立てた。 「ありがとう孝太・・・それじゃあ行くよ」 「ああ」 「心配事があったらいつでも言ってね」 「ありがとう」 唯の気づかいにお礼を言ってまた走り出した。 「でもやっぱり心配だな」 走っていくシンを見て唯が言った。 「これはあいつの問題なんだ、俺たちが必要な時はあいつから声をかけてくるさ」 そう言って孝太は唯の頭に手を置いた。 「うん、そうだね」 「・・・・行くか」 「うん・・・」 歩き出し、二人はその場を後にした。 それぞれがそれぞれの思いを抱いて夏休みが始まろうとしていた。シンはその日目的のモノは見つけられなかった。
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