■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

探求同盟−死体探し編− 作者:光夜

第7回   7
 校舎裏からここまで来るまで光夜は何か不機嫌そうだった。やっぱりケンカの後だからだろうか。だとしても不機嫌の度合いが中途半端に見えるような気がする。それとなく聞いてみようと思った。
 「光夜、今日のケンカって何が原因なの?また行きがかりだったりするのかな」
 「・・・・・この間の続きだ」
 「この間?」
 そのキーワードは言われてもわからない。光夜はいつどこでケンカをするのか解らないし、それを見に行こうとは思わない。この間と言われてもそれは光夜の過去の話であって現在の僕にはない記録だ。
 「この間って、いつ?」
 「先週だ。さっきの連中の仲間を倒した、だからその続きだ」
 「ああ、その時に済ませられれば良かったのに残り物を相手にして不機嫌なんだね、光夜」
 僕は流れからしてそうだろうと判断して言ってみた。しかし、逆に光夜はそれこそ何事かと顔をしかめた。
 「一体、何の話をしているんだ」
 「光夜が不機嫌の理由」
 「不機嫌?俺がか?」
 「そう見えたけど・・・・違うの?」
 互いに歩調を合わせて廊下を歩く。その間にも光夜はなにやら考えた顔で歩き続ける。で、急に立ち止まってこう言った。
 「機嫌は、いつものままだ。単に不意打ち過ぎる発言に驚いているだけだ」
 「不意打ちって・・・・。まあね、これでも他人は信用してこなかったつもりだし、今更友達って言うのもおこがましいとか思うよ。でも、なんだか嬉しいんだよね。変かな?」
 僕の言葉に光夜はいや、と答えた。
 「おかしな事じゃねぇさ。友達だろうが仲間だろうが、必要なら作れば良いし勝手に出来ていくだけだ。お前は単に、それが遅かっただけだろ。別にどこもおかしなところなんかねぇよ」
 落ち着いた声で光夜はそれを普通、当たり前、と言ってくれた。何でだろうか、光夜にそう言われるとそうなのかもしれないと思えてしまう。だったらそうなのだろう、僕にだって友達は出来るし、それは至極当然の事なんだね。
 「でも光夜、友達って何をすればいいの?」
 「あ?」
 今度の質問には、光夜も面食らってしまって立ち止まる。だって僕には今まで友達なんていなかったんだもの。友達の意味を知っていても実際には何をすればいいのか、皆目見当が付かなかった。
 「いや、知り合って仲良くなった同年代か、それに近い人間が友達って言う意味を持つのは解るんだけど、実際に友達って何をするのかな?」
 「お前、友達のいない俺にそれを聞くのか」

 部室でお昼を食べ終えた僕らは書籍を消化する気にはなれず、本を読んだりテレビを見たりと自由に過ごしていた。そんななか、今の時代の混沌さを体現するようなニュースが流れてきた。

 昨日、都内近郊の大型墓地である『大原霊園』の一部のお墓が掘り起こされ骨壷が盗み出されていると言う事実が判明しました。当初、このお墓は遺灰が埋められていたときと変わらぬ状況で元に戻されており、巡回していた管理の人間も気づけなかったとのこと。始めに気づいたのは遺体のご遺族である娘さんで、「お墓の地面がおかしい」言ったところご家族も不信に思い、しばらくの間掘り返すことのなかった地面を掘り返したところ、骨壷が無くなっていたとのことです。現在警察はお墓を掘り起こした犯人を捜すと共にその理由も詮索しているとのことで―――――

 墓荒らし、エジプトでもあるまいし日本の墓に金品を埋めるような酔狂は早々いないだろう。別に興味もないので僕は本を読み続けていた。けれど、死体には敏感な光夜がこのニュースに対して口を開いた。
 「この墓荒らし、遺骨なんか盗んで何する気だ?」
 「さあ。金品目的で荒らしてみたけれど何もなくて、腹いせに骨壷を持って行ったんじゃないのかな」
 後で使い道がなくて棄てるか、恐くて棄てられずに保存するか、どの道足が付くのは時間の問題だと思う。それとも、戦時中の迷信でも起こす気だろうか。戦時中、人骨を砕いて飲ませると怪我や病気が治るといわれて、親は戦死して白骨化した人の頭蓋骨を砕いて子供に飲ませたという事実がある。って、今の時代、薬よりも人骨を手に入れるほうが難しいか。薬なんてコンビにでも売っている時代だし。これは違うかな。
 「いや、あんな小さい墓に金品なんか入っているなんて考えるわけがねぇ。テレビじゃ、隣のほうで映っていた墓の方が囲いもあってでかかった。金品目的なら、壊すの前提であっちの方を荒らしたほうがまだ道理が通る」
 「・・・・そっか、だとすると不自然だね。まるでそれじゃあ、『あのお墓』の中の『骨壷』を『盗む』のが、目的みたいじゃない」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 二人して黙ってしまった。たかがニュースのことで何を真剣に考えているのだろうか。あれはどこかの誰かが受けた不幸であり、それを僕らが真剣に真相を考える必要はないはずだ。だって言うのに、何か不穏な空気をまた、僕らはこの部屋で感じ始めていた。
 「ねえ、虫の知らせって―――――」
 「いうな、それ以上。いつだったよ、前の事件の発端は」
 光夜の一言に言葉を詰まらせる。彼はもう小さい事件も大きな事件も、一緒くたに嫌い始めていた。当初の目的として、光夜はこの同好会に静寂を求めていた。この学校は、全生徒の健康的な精神とその向上という理由から一人も漏らさず部活動、および同好会に所属させられる。僕も光夜もそういった群れる行為は拒否の対象であり、回避行為に積極的な僕は自身が部長を勤める同好会の設立により面倒くさい活動を回避した、つもりだった。けれど唯一つ、その内容をよく吟味せずに了承したために書籍を管理するなどという面倒な仕事をすることになってしまった。この仕事、内容量が少なければ楽で、逆に多ければ面倒という両極端なものだった。
 そして、静寂を求める人間が、人数の少なさと内容の簡易さに惹かれ罠にかかってしまった。光夜と僕、共に被害者であり、加害者である。いや光夜はただの被害者かもしれない。
 そう、事件の発端はいつも何か得体の知れない切欠が全てだった。虫の知らせ、ニュースの情報、生徒達の噂話、廊下で拾ったゴミ、そして―――――

 こんこん

 「―――――」
 「―――――」
 今度こそ、僕らは固まってしまった。今のは空耳ではないだろうか、互いにそう願うが互いにそう願っている時点で・・・・、こんこん、と再度扉を叩く音が控えめに聞こえてきた。
 「誰の所為だ」
 「たぶん・・・あはは、『僕ら』・・・」
 光夜は頭を抱えて息を吐く、いいから出ろと手で払われるのは毎度のことで、僕は扉まで歩いていた。
 「はーい、どちら様ですかー?」
 扉を開く、とそこには一人の女生徒が立っていた。はて、と僕はその女生徒の顔に見覚えがあったこと思い出す。どこだっただろうか。
 「君は確か・・・・」
 「隣のクラスの、横山 咲(よこやま さき)です・・・」

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections