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探求同盟−死体探し編− 作者:光夜

第6回   6
 校舎裏、砂利や雑草の茂る座る場所すらない暗い場所。少なくとも俺はここに来るのが大嫌いだ。一つはそんな手入れされていないところですることもないから、もう一つは―――――
 「調子こいてんじゃねえぞ八神ぃぃぃぃっ!」
 絶叫、とまでは行かないが叫びを上げて俺に向かってくる巨漢。怒り心頭なのは顔を見ればわかるが、そんな猪突猛進でどうやって攻撃を当てる気か気になるものだ。腐っても柔道部の人間だろうが、そんな見え透いたモーションかまされても幻滅だ。
 大振りの拳を一歩引いて避ける、だが続けざまに下からのアッパーが襲い掛かる。だが体をのけぞらせ、顎を上げることでこれも回避。そのあとも横から、縦からと何度も拳を振るわれるが見えている攻撃を避けるだけだ。体を必要最低限の移動で避け続ける。
 「(これなら、五分前に落とした空手部の奴のほうが強かったな・・・)」
 だとしても、それも攻撃の筋が良かったというだけで俺に一発も当てられずに気絶した。入学してから今日まで、一体何人の上級生とこんなことを繰り返してきただろうか・・・・もう、覚えてすらいない。
 確か、一番最初は一年のとき、三年に目つきが気に入らないと子供以下の理由でケンカを吹っかけられた。いや、俺が無視した所為でもあるがその程度でキレるこいつらに忍耐力がなさ過ぎる。
 で、その程度のことなら俺も我慢は出来た。だがこの学校の習性は悪いほうにも向きやがる。部活間の結束力が意外と強いのがここの特徴だ。それは一つの部活の中でも部長は絶対で、部長同士の仲がいいとさらに仲間意識が高くなるという循環。
 この循環が俺に面倒なことを押し寄せやがった。去年だったか、一年相手にボクシング部の三年部長が気に食わない俺をシメにきやがった。さすがにフットワークの高いボクシングなだけあって、俺も痛い目を見たが、結局はその部長を気絶させちまった。それからが面倒だった、その部長はとっくに卒業しちまったが、今の三年、つまり去年の二年達に俺を一度でいいから負かせなどと言い残して卒業したらしい。
 ある意味、その部長が当時の頭と言ってもよかったらしく、おかげで今の三年が週に一度は因縁つけてくるってわけだ。でもって、今その因縁を追い払っている最中だった。
 「はあ、はぁ・・・・いいかげん、倒れろやっ」
 「・・・・・・・」
 一人で疲れているくせに、なにを言ってんだ。今にも倒れそうなのは自分だろうが、主に疲労で。くだらねえ、こんなところ明に見られた日にゃまた怒鳴られそうだ。あいつはこっちに正当な理由がない場合は暴力を振るうのも振るわれるのも大嫌いだ。
 しかも性質が悪いのは因縁つけられた程度じゃ正当な理由にならねえときたもんだ。明曰く、その程度ならケンカしなくても俺なら切り抜けられるなんて、過剰評価しやがる。俺がそんな冷静にケンカできるほどカルシウム多いように見えんのかよ。
 「あー、苛々してきたな・・・・」
 「なにブツブツ言って―――――」
 もう一度向かってこようとする馬鹿な三年の顔面、そこに拳を突き出す。それで終いだ、カウンターもいいところだった。顔面にヒビでも入っているかもしれないが、その程度なら腕と肋骨を折られた奴よりはマシだろうよ。
 どさり、と倒れた三年は痙攣しながら鼻血を出して昏倒した。本当に柔道部かよ、こいつ。
 「あー、疲れた・・・・。なんで授業さぼってこんな事しねぇといけねえんだよ。ったく」
 「そりゃあ、自分で蒔いた種だからね。種は育つと育ててくれた人に実や香を与えてくれる。君の場合は因縁って言う種からケンカを与えてくれるんだろうね」
 聞きなれた声に俺は舌打ちをする。その当たり前のように何かを口にするのは止めろ、好きでこんなことをしているようにでも見えたのか、この理屈惚けが。
 「明、なんでここにいる」
 「うん、教室や部室にいないから、ここかなって」
 そんな事は言われなくても解っている。だからって、お前がここにいる理由にはなっていない。間違っても明がこんな場所に来るなんてことはなかった。それは会ったときからの雰囲気でなんとなく判った、理屈屋のこいつがケンカの理由を考えるとしてもケンカをする意味は解らない。だから無意味な暴力を嫌う。だから、こんな無意味な暴力だけがある場所にこいつが足を運ぶ意味が、俺には解らない。
 「だったらいつものように待っていれば良かっただろうが、なんでこんな所に来た」
 「あ、そう言う事。えーとね、ちょっと話したいことがあって」
 「話したいこと?」
 話したいこと、そんな言葉を口にするのは別に珍しいことじゃねえ。明に話があるのはいつものことだ。だいたいは俺が何も話すことがないからだろうが。だとしても、こんな所に来てまで言う事か?いつもなら部室で落ち合って言うことだろう。わざわざ嫌いな場所に来てまで、俺に何を言いたいってんだこいつは。
 「ふふふー、聞いて驚くよ光夜」
 「・・・・いいから早いところ言え、こっちは一戦やったあとでだるいんだよ」
 ったく、どうせろくでも無いことだろう。なんつーか、明は物事を意味的に考えるのは得意だが、感情的に考えるのは苦手だ。世間一般の話が通じてもそこから変な方向に湾曲するのがそれだ。今回もそうだろう、なにを見つけたかしらねえけど、さっさと教室に―――――
 「僕ね、友達が出来たんだ」
 「ああ、そうかい。そりゃあよか―――――――――――――――――――――――――は?」
 俺は無意識にメンチをきった顔をした。そのすごんだ顔に明は一瞬「おおっ」と驚くもそれきりだった。いや、なにを不意を付かれているんだ俺は。
 「・・・今なんて言った」
 「え?だから友達、僕に友達が出来たんだよ。聞いてなかったの?」
 「聞いていた。だから聞き返した」
 「あ、失礼だなぁ光夜」
 失礼だなぁと言うが、その実顔はまったく怒っていない。どちらかというと嬉しい顔のままだった。で、だ。友達って生き物か?
 「お前の言う友達は霊長類か?」
 「当たり前だよ、鳥類や爬虫類だと思った?」
 思った、などとは言えなかった。この手のことでこいつに皮肉を言うと五時間は説教をたれる。・・・・本題に戻ろう。友達というと、友人や親友という言葉に結びつく、あれだろう。明に友達・・・・・なんだ、この違和感満載の組み合わせは。
 「どんな手を使って手駒にしたんだ」
 「・・・・光夜、僕を何だと思ってるの」
 さすがにこれにはむっとしている。言い過ぎた。だがいいすぎでもないような気がするのも事実だろう。少なくとも、一年間こいつと顔を合わせていれば自ずと判るが、いかなる切欠を持とうとも友達などという世間一般の関係をもてるとは思えなかった。
それはこいつが極度に人間を避けるからだ。人を受け入れない人間に人の友達が出来るはずもない、その友達という言葉自体も幻同然に考えてきたのが明だからだ。
つまるところ、本当に人間の友達がこいつに出来たってことは・・・・・そいつは馬鹿かお人よしのどちらかだろう。
 「まさか、それを言うためにこんな所まで来たって言うのか?」
 「そうだけど、なにか変かな?」
 ああ、変だ。自分の素行が捻じ曲がっていることにすら気づけない明は変を通り越して不思議だ。だとしても、それは嬉しさからの行動だろうと俺は思った。なるほど、こいつも人一倍になろうとしているようだ。まあ、それならそれでいい、俺みたいに人間になれない人間になるよりは。
 「それでね光夜―――――」
 と、話を続ける明の表情が驚きになる。同時に後ろから砂利を踏む音が聞こえた。
 「この、八神ぃぃぃぃ―――――ぼへぁっ!?」
 最後の足掻きで向かってくる柔道部員。だが、ふらふらで拳もまともに上げられず、裏拳で地面に沈めてやった。五月蝿いんだよ。
 「いくぞ、ここだと面倒だ」
 「あ、待ってよ。っていうかまたケンカ?駄目だよケンカは」
 今更気づくなよ、どいつもこいつも面倒臭えな。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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