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探求同盟−死体探し編− 作者:光夜

第31回   31
 「あら、早かったのね。横山さん、どうだった?」
 「え、あ・・・・・はれ?」
 内心で、怒られる、呆れられると思いながら部屋に戻ってきた僕は、なんと言うか素っ頓狂な声を上げてしまった。だって、当たり前のように優雅にお茶を飲んでる小西さんが、しかも笑顔で出迎えてくれたんだもの。
 「元気だった。怪我の部分が傷むだけで、他に異常はない」
 「そう、よかった」
 光夜は通り過ぎざまに報告して、定位置に着席した。とりあえず、光夜は古西さんをどう思っているのか、その点が気になった。
 「古西さん、怒ってないの・・・?」
 「怒るって、何を?」
 「だって、急いでいたって言っても、満足に説明しないで一人にしちゃったし・・・・えっと・・・・」
 僕は、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。なまじ友達がいなかっただけに、本当の意味での友達との接し方なんて判らないし、だから、急いでいたなんて言い訳がましくて、いくら普段の通りでもそれは周囲からすれば妙な感じで、不快感が―――――あれ?
 「こ、古西さん?」
 「うーん、前から思ってたけど、あなたって困った顔するとかわいいのよねぇ。母性を刺激されるというか、愛らしいというか。とりあえず、ぎゅってする」
 彼女が言うように、気づけば柔らかい感触に包まれている自分がいた。なぜか小西さんに抱かれている僕。なんでだろう?
 「お前ら、百合の趣味でもあるのか・・・・」
 気にした風もなく、光夜が聞いてきた。な、失礼な、僕にそんな趣味は絶対にない。ないけど・・・・なんでだろう、こうしてると安心するような気がする。
 「あら、失礼ね。女の子なりのスキンシップよ、これは。それに、ほら八神君も見ていて悪い気はしないでしょう?男同士より」
 「それは純粋に男同士の抱き合いと比較してのことか、それともお前たちの構図だけを見ての話か」
 「どらでも、ご自由に」
 「なら、どちらでもない。俺には同姓が抱き合っていようがいまいが、何も感じるわけじゃないからな」
 「そう、残念ね、明」
 いや、なんで僕に聞くの?
 「まあ、それはそれとして、横山さんに問題はないのね」
 「え、あ、そうだね。腕が治れば直ぐにでも運動が出来るだろうし、大会もないって言っていたから、心配はないと思うよ」
 「そう」
 よかった、と小西さんはもう一度安堵の言葉を呟く。うーん、こうして他人を心配する姿を見ていると、本当に数日前まで僕を忌み嫌っていた人と同一人物なのか、今となっては自分の記憶が疑わしいくらいだ。
 「ところで、さっきの答えだけれど」
 「え・・・・」
 「別に怒ってないわよ。むしろ今までにない人で楽しいわ。そりゃあ、来て行き成り置いてかれたときは何なのって思ったけれど、でもこういう人が友達って言うのも楽しいのよね。なんていうか、待つ楽しみ?
 私って結構はっちゃけた連中としか付き合ってなかったから、あなたみたいに自分を持っている人間って、大好きかも知れないわ。だから、怒るって言うよりも、楽しかったわ」
 待たせてくれてありがとう、矛盾だらけの言葉で僕に笑いかけてくれた。恐ろしいほどの嬉しさ、恐怖するほどの喜びを感じた。なんだろう、たぶんみんなが言う友達とは違うのだけろうけど、でも、僕はこの関係、好きになれそうだった。
 遠慮して、申し訳なく、謝罪の言葉を考えていた自分が愚かしく思えたくらいに。
 「明、作業に戻るぞ。と言っても、お前は掲示板を確認しろ。書類は、俺が適当に進めておく」
 「あ、うん。ありがとう光夜。えっと、古西さん、そろそろ放して欲しいんだけど・・・・」
 「ん、もうちょっとだけ」
 未だに抱かれたままの僕、頼んでみても小西さんはまだしばらく僕を放してくれそうになかった。ええっと、本当にスキンシップだけなのかな・・・?
 しばらくして解放された僕は光夜の指示通りにパソコンを開いた。そしてこの間の掲示板に一気にショートカットする。そこでは、僕を差し置いてまたとんでもない数の発言が出されている。むう、これってまた話のつじつまが合わないようなきがするんだけど・・・・。
 「なんだか、面倒な気分になってきたかも・・・・」
 「それで、聞こうとは思っていたけれど、明は明で何やってるの?」
 「うん、手がかり探し。今回の依頼は横山さんからのお願いだし、手は抜けないんだよね」
 あら、そうなの。と、それほど興味なさ気に小西さんはお茶を飲む。一応現代人の代表として古西さんにも意見を聞いてみようかな、なんだか暇を持て余しているみたいだし。
 「掲示板で、特定の人と仲良くなることって出来ないのかな?」
 「特定の人と?出来ないことはないわよ、名指しで質問したりその文章を返答が欲しい人の名前を語尾にでもつけて掲載すれば、いやでも向こうは友好関係を結ぼうと返事をしてくるわ」
 「へぇ、そうなんだ」
 「でも、厄介なのが返す言葉がピンポイント過ぎると、向こうも返事に困るのよね。そこの辺りは、調整しながら会話するといいわよ」
 なるほど、そういうものらしい。やっぱり良く知っている、携帯電話は伊達や酔狂で持っているわけじゃないんだねぇ。
 「じゃあ、とりあえず」

 Nameキリア
 『スミスキーさん、この間はお返事ありがとうです。おかげでロック&スミスがもっと好きになりました。私はライブとかが行ったことがなくて、でもロック&スミスのライブとかは本当に見てみたいです。どこでやるのか、教えていただけないでしょうか?』

 こんな感じにしてみた。まあ、好感を持たせるだけだし、それにまだここでの発言なんて五回もしていないんだから、とりあえずこの程度でいいと思う。
 「へぇ、明って相手に鎌かけるのが得意なの?」
 「失礼なこと言わないでよ。横山さんには早めに吉報を届けたいんだからこれでいいの、違うなら違うって、早く判断しないと」
 じゃないと、手遅れになるかもしれないんだから。彼女は、どういう理由かは判らないけど、不定期現象の現象対象になってしまった。判らない、一体何の理由で彼女は狙われたのか、それも、一体何に・・・
 と、パソコンからピコーンと電子音が響く。パソコンの何かが更新されたみたい。見れば、掲示板の内容が増えていた。

Nameスミスキー
 『自分なんかの意見でお役に立てたのなら幸いです。ライブですか?それでしたら、近々A市の方でワンマンライブがありますよ。時間は夜遅いと思いますけど、A市最寄の駅から近いライブ会場ですので迷うことはないと思いますよ』

 「言い反応だね。ねぇ、光夜」
 「なんだ」
 「光夜は、初対面の人に行き成りどこかへ行こうって誘われるのは苦手?」
 「俺に聞くな、そんなこと、生まれてこの方聞いたことすらない」
 とんとん、と机を指で叩く光夜。聞いて相手に経験がないのはいいけど、想像できないレベルなのは、まずいよね?改善が必要です。
 「いいんじゃないの、どうせオフ会になればそのうち会うんだから、早めに会っていたほうが気兼ねしないわよ」
 「そういうものかな?」
 なら、ここで手を打つのもいいのかもしれないけれど、確信がない以上は向こうから何か言うのを待つしか、ないのかな・・・

 Nameキリア
 『情報ありがとうござます、スミスキーさん。A市ですと、自分のところからだとだいぶ近いので今度行ってみますね。初のライブということで、張り切っていこうと思います。でも、やっぱり一人でライブ会場に行くのは恐いですねぇ。それでは』

 「まあ、このくらいかな」
 とりあえず自分で打ち切ってパソコンを閉じる。いつまでも画面と睨めっこしているわけにも行かないしね。と、そのとき光夜が立ち上がった。
 「どうかしたの?」
 行き成り立ち上がるからびっくりした。
 「厠だ」
 それだけ言って光夜は部屋を出て行った。まあ、それじゃあ仕方ないよね。しかし、隣の小西さんは良く判らない顔をしていた。
 「ねぇ明、カワヤってなによ?」
 「え、化粧室のことだけど」
 俗にいうトイレである。昔は厠って言われていて、たぶん一部の居酒屋のトイレもそう表記されているって聞いたことがある。とりあえず、光夜は席を外したのだ。
 「当分は、戻ってこないのかしら?」
 「どうかな、気まぐれだから、光夜は。直ぐに戻ってくることもあればそうでないことも、あるしね」
 「ふーん、じゃあ、続きしましょうか」
 「え?」
 なにを言い出すのかと、僕は彼女に振り返るが、時既に遅し。先ほどの繰り返しのように、僕はまた古西さんに抱かれていた。
 「うーん、ふかふか」
 「あのー、どういう理由でこうなるの?」
 「あら、ちょっとした趣味よ。さっき百合かどうか言われて、否定はしたけれど、強ち間違いでもないのよねぇ。私の場合は、可愛いものが大好きなだけだし」
 それは、つまり、可愛ければ男でも女でも言いという、なんとも雑食的な趣向ではないだろうか。いや、冷静に考えている場合意じゃない、光夜の視線がなくなったからって、行き成り背中をなぞるのは止めてもらいたいんだけど・・・・
 「黙っていると無愛想って感じだけど、笑ったりしたら可愛いなぁとか、結構前から考えてたのよ。知ってた?」
 「判るわけないよ、人の頭の中なんて。それよりも、僕は本当にこういう趣味はないんだけど、僕の拒否権はないの?」
 「ないわよ。私からの強制だし」
 僕の意見をひと蹴りして、彼女は尚も体を触ってくる。けれど、少し撫でているだけでそれ以上は何もしてこない。
 「とはいっても、いくら私でも人のものは盗りたくないわ。八神君に悪いものね。ねぇ、答えは出た?八神君への気持ち」
 耳元でささやかれると、妙な感じだから離れて欲しいんだけど、言っても無駄そうだから質問にだけ答えることにした。
 「光夜への気持ち・・・・、まだ、よく判らないよ。雰囲気には流されたくないし、かといって自分は偽れないし。そもそも、人を気にすること事態が僕には―――――」
 「はい、そこまで」
 ぴっ、と僕の口に人差し指を立てた。自分で聞いておいて、そこまでって言うのはどうかと思うんだけど、求めていた答えと違うとでも言うのだろうか?
 「御託はいいのよ、判るとか、判らないとかでもない。友達になったばかりで図々しい事いうけれど、友達にはちゃんとした恋をしてもらいたいのよ。自分で失敗しているだけあって、ね」
 自分が失敗しているから、他人に敏感になる。
他人が気にならないから、自分に敏感になる。
絶対的に対照的、なのに、友達。そして、限りなくゼロに近い時間のなかで、僕は小西さんが好きになっている。それは、向こうもだと思う。なんだろう、違うから分かり合えないんじゃなく、違うから、解かろうとするんだと思う。
「光夜に好感は抱いているよ。でもそれは恋かどうか、判断は出来ないんだと思う。でも、今朝家に光夜が来たとき、たぶん見蕩れたと思う」
「なら、大丈夫ね、あなたは。向こうはどうか知らないけれど」
 嬉しそうに小西さんはいう。けれど、僕を解放する気はないようだった。
 「明は、心配なさそうね。よかったわ。じゃあ、気兼ねなく続きをしましょう、大丈夫よ、ただのスキンシップだから」
 「ただのスキンシップで、耳を甘噛みするのはどうかと思う・・・ぁぅ」
 いや、本当にこれは事に及ぶ準備にしか思えないようなんだけど、妙に弱いところ探すのが巧いというか、というか息がかかってくるんだけど・・・
 「とりあえず、キスはなしね。それ以外は・・・・どうしましょう?」
 「出来ることなら止めてもらいたいんだけど」
 却下、とまたも意見は取り下げられた。
 「うーん、可愛い。どうせなら、八神君と食べたかったかしらねぇ」
 光夜、早く戻ってこないかなぁ、そうすれば止まると思うのに・・・・まさか寄り道じゃないよね?それとも・・・・古西さんと、グル?
 「ふんふんふーん♪」
 あの、手際よくボタンを外さないで欲しいんだけど・・・鼻歌が、ものすごく不釣合いというか、ねぇ。
 「楽しみましょうね」
 などと、賛同を求める古西さん。えっと、なんで昨日今日と、僕がこんな目にあっているんでしょう?ああ、本当に、ダメかな。

 ピコーン

 「え?」
 「あ、パソコンだ」
 するり、と無意識に古西さんの腕から抜け出して、僕はパソコンを開いた。まさかここまで簡単に・・・・、となんだか悔しがっている古西さんだけど聞き流す。とりあえず、電源を切り忘れた所為で助かったと言えるね。
 で、なんだろう。たぶんあの掲示板だろうけれど・・・・
 「―――――あ」
 「どうしたのよ」
 どうしたというよりも、どうしよう、という状況になった。光夜、早く帰ってこないかなぁ。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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