「・・・・で、なんでこうなっているんだ」 部室にやってくると、その光景に光夜は顔を引きつらせる。入り口は施錠されている、と言っても金具に南京錠だから、工具で壊されたら一発という脆い代物である。 ではなく、そんな扉の前に、当たり前のように置いてある一辺三十センチメートルの段ボール箱が八箱。中身は、確認しなくても判るけれど、開いてる箱を覗く。本、本、本である。これは、図書室からの荷物であることが解った。 「今日は、部活と一緒に、一部の委員会も活動しているんだっけ。たぶん昨日にでも、今日の仕事を減らすためにまとめていたんだね」 「で、早めに来た連中が、まだ来ていないからと、ここに置いて行ったって言うことだな。こっちの仕事を増やすために」 「本気で、人増やそうかな・・・・」 僕は空笑いを、光夜は苛立ちをしつつ、部屋に入った。 「相変わらず、妙な光景ね」 と、部屋に入ろうとして声をかけられた。近づいてくれば足跡くらい聞こえただろうけど、生憎と僕らは目の前の箱に目を奪われてそれに気づけなかったらしい。で、声をかけてきたのは。 「古西さん、どうしたの?」 「別に、ちょっと来ただけよ。こっちの部活が中止になっちゃってね」 その話は興味があったけれど、とりあえず置いておいて、ダンボールを部屋に運ぶことにした。古西さんも、来た以上は所在投げにするのは嫌らしく一緒に運んでくれた。 部屋に招き入れてとりあえず一息入れるためにお茶を用意した。時間はまだあるので、三人でお昼前のお茶を飲む。そして、一息。 「それで、部活が中止ってどういうこと?」 「え?ああ、それ。ちょっとした事故よ、部活中に張り切りすぎた部員が頭を打って、腕を折って、病院送り」 「事故・・・・?」 不意に、光夜は会話に興味を持ってしまった。けれど、横目で見たきり我関せずな状態に戻ってしまった。事件とか、事故とか、最近はそんなのばかりだから、妙に耳についてしまったのかもしれない。 「頭の打ち所が悪かったのかしら、意識なくしてね、さらに骨折。酷い状態で、みんな騒いでたわ。先生は付き添いで救急車に乗って行ったし、他の生徒たちはとりあえず休憩って言うことになってるけど、たぶん今日はもう部活は出来ないわね。・・・・、可哀想」 一息つくと、古西さんはお茶を飲んだ。彼女の優しさは、たぶん隣で聞いていた光夜も理解できたはずだった。同級生が大怪我をするなんて、同学年からしたらとんでもない事だもの、とくに運動部の人は連帯感が強いっていうしね。 「本当、早く治ればいいけど、横山さん」 「――――――――――あ?」 がたん、と光夜が湯飲みを置いた。突然の大きな音に二人して体を震わせてしまう。何事だろう。 「ど、どうしたの、光夜。湯飲みが割れるよ」 「そんな事はどうでもいい。・・・・・あんた、今なんて言った」 「え―――――?あたし?」 「あんた以外に誰がいる」 光夜の剣幕に古西さんはちょっと不満そうな顔をする。ごめんね、光夜は相手のことを考えて会話が出来ないんだよ。だから、我慢してね。って目配せしたけど、たぶん伝わっていないと思う。 「早く治ればいいって、言ったのよ」 「違う、その後だ。横山って言ったか」 「え?ああ、名前。そうよ、横山 咲さん。私たちの同級生よ、クラスは違うけど」 「横山さん?横山さんて・・・・光夜」 僕は、まさかと思った。そんな、だって彼女は被害者だ。盗まれたのはお父さんの遺骨なんだよ、何だって横山さんが・・・・偶然?いや、偶然過ぎるのがおかしい。これは、必然! 「年寄りの言うことなんか、耳にするんじゃなかったな・・・。手遅れじゃないだろうが、大塚のときよりは、酷くなりそうだ」 そう呟くと、光夜は手早く仕度をしていた。年寄りって、玄武さんのことかな? 「光夜、玄武さんに何か言われたの?」 「何かも何もない、骨に関わった以上、魔的で不定期なものはつき物だって事だ。お前が、去年言っただろうが、関係者に偶然ない、必然しかないってな。ってことはだ、横山の事故は、事故じゃない」 「ちょ、ちょっと二人してなに分けの解らないこと言い合ってるのよ。彼女の事故が事故じゃないって、じゃあ誰かにやられたって言うのっ!?」 彼女なりに対応しようと、僕らの会話に入ってきた。しまった、ついいつも通りに光夜と会話しちゃった。小西さんが理解できるわけないのに。 「えっと、そうじゃなくて、事故は事故なんだけど、誰かの意思は介入してて、でもそれは直接ではなく間接的な事でね。だとしても、それは非現実的接触だから、結局は事故でしかないんだけど、つまり・・・・」 「つまり、大塚の時と同じだ。今度は個人に集中的に、不幸が訪れる」 光夜は足早に部屋を出る。たぶん、職員室だ。なら、僕も行かないとダメだね。光夜、先生たちに評判悪いし。 「どこ行くのよ?」 「ごめん、横山さんのお見舞いに行ってくるよ。直ぐ戻ってくるから」 彼女に頭を下げて僕も光夜の後を追う。本当にすまないと思ったけれどこればかりは、人に構っている暇がない。なんていうか、罪悪感。古西さん、気を悪くしないといいけれど。 「ちょっと・・・・」 声をかけるが、もう部屋の主たる二人はない。あの慌てた、というよりもその事柄に素早く反応し的確に行動している姿は、どこかの役職を思わせるが、そんな事よりも・・・・ 「あれじゃ、確かに人とコミュニケーションはとれないわね」 春香は小さく笑っていた。 「面白い子ね。なんていうか、ああしてバタバタしている時の方が、生きているっていう風に見えるわね。悪くないわ、ああいう人間。むしろ、もっと関わりたい」 そう呟いた。別に、あの二人のすることではなく、純粋に、あの二人と関わり合いたいと、そう思っていた。 「ま、お茶でも飲みながら・・・・って、ここはテレビもあるのね。漫画研究部よりもいい部屋かも。とりあえず、お茶でも飲んで待ちましょう」 そう言って、二人が帰ってくるのを待つことにした。本当に、妙な仲間が増えていく空間である。
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